Mリーグ2022年シーズンは3月5日ピアラ・スンバンシー(チャリティーカップ)で開幕しますが、今季開幕前に今季のMリーグ1部スーパーリーグの12クラブを紹介します。第3回は昨季Mリーグ5位のスランゴールFCと同6位のKLシティFCです。
スランゴールFC(2021年シーズンスーパーリーグ5位)
本拠地:MBPJスタジアム(スランゴール州プタリンジャヤ)
2021年シーズン成績:5位(10勝6分6敗)得点45(リーグ2位)失点30(同6位)
過去5シーズンの成績:2017年6位-2018年8位-2019年3位-2020年5位-2021年5位
監督:ミヒャエル・ファイヒテンバイナー(ドイツ)
外国籍選手(*は新加入選手):
*FWユーリ・エンリケ・ジ・オリヴェイラ・コスタ(ブラジル)
*FWカイオン(ブラジル)
FWハインテットアウン(ミャンマー-アセアン枠)
*MFバハー・アブドッラフマーン(ヨルダン-AFC枠)
MFアレックス・アグヤクワ(ガーナ)
*DFヤザン・アル=アラブ(ヨルダン-AFC枠)
DFサフアン・バハルディン(シンガポール-アセアン枠)
DFジョーダン・アイムビラ(ガーナ)
DFジョージ・アトラム(ガーナ)
主なマレーシア人選手(*は新加入選手、#は2021年にマレーシア代表に招集された選手):
#GKカイルルアズハン・カリド
*#GKサミュエル・サマーヴィル(ペナンFCより加入)
*#DFクエンティン・チェン(ペナンFCへ期限付き移籍終了)
DFシャルル・ナジーム
DFハリス・ハイカル
DFアシュマウイ・ヤキン
DFR・ディネシュ
*DFファズリ・マズラン
#MFブレンダン・ガン
#MFムカイリ・アジマル
MFハキム・ハサン
MFアリフ・ハイカル
FWダニアル・アスリ
#FWシャーレル・フィクリ
チーム紹介:
1982年のマレーシアリーグ(ただし当時は現在とは違いアマチュアリーグ)発足以来リーグ優勝6回、1921年創設のマレーシアカップでは優勝33回、準優勝16回、そして1990年創設のFAカップでは優勝5回、準優勝3回とマレーシアサッカー界では圧倒的な歴史を誇る「赤い巨人」も、最後のリーグ優勝は2010年と、近年はマレーシアサッカー盟主の座をMリーグ8連覇中のJDTに奪われて久しいスランゴールFC(以下スランゴール)。特にここ数年は、長期的視点に欠けるチーム補強で迷走していましたが、2019年末にミヒャエル・ファイヒテンバイナーをテクニカルディレクターに迎え入れ、さらにマレーシアサッカー協会FAMと青年スポーツ省傘下の国家スポーツ評議会NSCが共同で運営する国家サッカー選手育成プログラムNFDPの中核をなすエリートアカデミーのモクタル・ダハリアカデミーAMDの第1期卒業生34名中、U19代表選手を中心に28名を獲得すると、過去2年はリーグ優勝よりもこの若い選手たちを育成しながら勝つ方針で2年連続5位となりました。
そんなチームからは。U23代表の主将でA代表にも招集されたムカイリ・アジマルや、リーグ戦とマレーシアカップを合わせてマレーシア人選手として昨季チーム最多の6ゴールを挙げたダニアル・アスリ、最終的にはケガで辞退したものの昨年はA代表に初めて招集されたシャルル・ナジーム、期限付き移籍したペナンFCでレギュラーポジションを掴むとU23代表、そしてスズキカップ2020に出場したA代表にも招集されたクエンティン・チャンら経験を積んだ選手たちが今季は主力となってリーグに臨みます。
若い選手たちに期待がかかる一方で、昨季のチーム総ゴール数43(チーム総得点45点中2点はオウンゴール)の内、26ゴールを挙げたイフェダヨ・オルセグンの退団による穴を埋めることができるかどうかが、今季のスランゴールの最大の問題となるでしょう。在籍した過去3シーズンで50ゴール(43試合)とチームの絶対的なエースの代わりをユーリ・エンリケ、カイオンのブラジルFWコンビに託すことになりますが、この2人が期待通りの働きができなければ。若いチームだけに一気にBクラス転落の可能性もあります。
ボラセパマレーシアJP的注目選手
・ブレンダン・ガン
昨年6月のW杯予選後に精巣腫瘍があることが判明し、昨季後半は治療に専念したガン選手ですが、既に今季のプレシーズン練習にも参加しています。また先日はガンの早期検診キャンペーンのイベントにもパネリストとして参加するなど、サッカー選手だけでなくガンを克服した模範として啓発活動を行うことも表明しています。そのガン選手不在が昨年後半のA代表の不振の原因の一つ、そしてスランゴールがスーパーリーグでトップ3に絡むことができなかった原因とも言えるでしょう。いわゆる「ボックストゥボックス」タイプのMFとして攻守に貢献するだけでなく、A代表、スランゴールいずれでも精神的支柱としてチームを鼓舞し続けるリーダーの復帰はクラブ、代表の両方で楽しみです。
・シャーレル・フィクリ、ダニアル・アスリ
新加入のブラジルFWコンビへの期待が高まる一方で、A代表のストライカー不足解消のためにも期待したいのが。昨季は2人合わせてわずか4ゴールに終わった2020年スーパーリーグのマレーシア人得点王シャーレル・フィクリと、同年プレミアリーグのマレーシア人得点王ダニアル・アスリの両選手です。新型コロナにより短縮された2020年シーズンでは、シャーレル選手は11試合で10ゴール、ダニアル選手は11試合で7ゴールを挙げており、実績は十分な2人が今季は合わせて10ゴール以上を挙げることができれば、スランゴールの上位進出の可能性は高まります。
・シャルル・ナジーム
リーグ優勝のJDTは完封勝ちが11試合、2位のペナンFCも無失点勝利が6試合ある一方で、スランゴールのクリーンシートはわずか3試合しかなく、昨季リーグ6位の30失点のDF陣をどう立て直すのかもスランゴールの今季の課題です。シャーミ・サファリ(JDTに移籍)、A・ナマテヴァン(ヌグリスンビランFCに移籍)と経験のあるDF2名がチームを去った中で、シンガポール代表のサフアン・バハルディンとともに今季のDF陣の中心となるのが独特の髪型から「アフロ」の愛称で呼ばれるシャルル・ナジームです。豊富な運動量を誇るものの、張り切りすぎた結果のミスも多い印象だった昨季を経て、チームのセンターバックとして活躍できれば、本人が憧れていると話すアイディル・ザフアン(JDT)に代わって代表のセンターバックとしてプレーする機会もありそうです。
KLシティFC(2021年シーズンスーパーリーグ6位)
本拠地:KLフットボールスタジアム(クアラルンプール)
2021年シーズン成績:6位(8勝9分5敗)得点27(リーグ6位)失点20(同2位)
過去5シーズンの成績:2017年2部1位-2018年10位-2019年12位-2020年2部3位-2021年5位
監督:ボヤン・ホダック(クロアチア)
外国籍選手(*は新加入選手):
*FWケヴィン・クベンバ(コンゴ/フランス)
FWロメル・モラレス(コロンビア)
MFパウロ・ジョズエ(ブラジル)
DFジャンカルロ・ガリフロッコ
GKケヴィン・メンドーザ(フィリピン-アセアン枠)
主なマレーシア人選手(*は新加入選手、#は2021年にマレーシア代表に招集された選手):
*GKアズリ・アブドル・ガニ(ペラFCより加入)
#DFイルファン・ザカリア
DFニック・シャールル
DFカマル・アジジ
DFライアン・ランバート
*DFデクラン・ランバート(オランダ2部FCデン・ボスより加入)
*DFムハマド・ファウジ(トレンガヌFCより加入)
*DFナビル・ハキム(PJシティFCより加入)
#MFアクラム・マヒナン
MFザフリ・ヤハヤ
MFハディン・アズマン
MFファクルル・アイマン
FWサフィ・サリー(2/21追加)
チーム紹介:
2020年シーズンに2部プレミアリーグで3位となり、昨季は2季振りとなる1部昇格を果たしたKLシティはスーパーリーグを6位で終えると、その後のマレーシアカップでは決勝でJDTを破るなど、ペナンFCとともにスーパーリーグの台風の目となりました。プレミアリーグで監督を務めたニザム・アズハ氏がスーパーリーグで監督を務めるためのAFCプロライセンスを保持していなかったことから、クランタンFA(現クランタンFC)ではリーグ、マレーシアカップ、FAカップの国内三冠を達成した他、現在リーグ8連覇中のJDTの初優勝時の監督だったボヤン・ホダック監督を招聘するとこれがピタリとはまり、今季のAFCカップ出場権まで獲得しています。
5位のスランゴールとは逆に、少ない得点を守り切るスタイルでシーズンを乗り切ったKLシティですが、ホームでは今季のリーグ戦11試合、マレーシアカップ5試合の計16試合で負けなし、さらにリーグ戦7試合、マレーシアカップ5試合の合計12試合がクリーンシートを達成していますが、32年ぶりの優勝を飾ったマレーシアカップの決勝は、守護神GKケヴィン・メンドーサが好セーブを連発し、まさに今季を代表するような試合でした。
そもそも守って勝つ試合運びをせざるを得なくなったのは、エースとして期待されていたFWドミニク・ダ・シルヴァが開幕直後のケガで離脱、2度目のトランスファーウィンドウ期間に獲得したFWキリアン・ヌワブエズもチーム合流後の初戦でケガを負った結果、出場はわずか1試合と、シーズンを通して攻撃力不足に苦しんだことが原因でした。窮余の策としてミッドフィルダーだったロメル・モラレスをシーズン途中でフォワードにコンバートし、結果的にはこの起用が実を結んだものの、年間を通しての得点力不足に悩んだボヤン・ホダック監督にとって今季加入のケヴィン・クベンバがはたして救世主となるのかどうかに注目です。
他のクラブが多くの外国籍選手を入れ替えたのに対し、KLシティは上記のクベンバ選手以外の4名が残留、マレーシア人選手も大半が残るなど、今季も上位を脅かすチームとなっていますが、気になるのはDFダニエル・ティンの退団です。昨季のチームの全試合33試合に出場し、そのうち32試合は先発するなどKLシティ躍進の鍵となったDF陣の中心選手の退団による穴が埋まらなければ、一気に下位転落もあり得ます。
ボラセパマレーシアJP的注目選手:
・ロメル・モラレス
今季は開幕からFWとして起用されるロメル・モラレスは、Mリーグでプレーするのは今季が5シーズン目となり、FIFAが規定する帰化選手の条件を満たすことから、KLシティはモラレス選手の帰化を進めることを明言しています。今年8月に25歳となるモラレス選手は、代表に貢献できていないという批判を受けている帰化選手のギリェルメ・デ・パウラ(JDT、今年36歳)、リリドン・クラスニキ(JDTからインド1部オディサFCに期限付き移籍中、今年30歳)と比べてもその若さが魅力ですが、マレーシア選手を凌駕する圧倒的な実力が帰化選手には求められることから、昨季の5ゴールからどれだけ上積みできるかが、クラブにとっても自身の帰化にとっても重要になりそうです。
・ライアン・ランバート
昨季開幕時はベンチ入りもできなかったライアン・ランバートですが、シーズン終盤には出場幾何も増え、リーグ戦終了後のマレーシアカップでは先発9試合を含めて11試合すべてに出場し、32年ぶりの優勝に貢献するなど、完全にレギュラーポジションを掴んでいます。メルボルン・ヴィクトリーのユースチームやオランダ2部のFCデン・ボスなど経て昨季からKLシティでプレーする23歳のランバート選手は母親がマレーシア人のため、マレーシア人選手として登録されており、今季も主力として活躍できれば、将来の代表入りも見えてきます。今季は双子の兄弟でDFデクラン・ランバートがチームメートとなり、チーム内の競争も激しくなりますが、兄弟揃っての代表入りとなれば話題にもなりそうです。