プルリスが新たなダイレクターオブフットボールと契約

マレーシア半島の北部にあるプルリス州サッカー協会(PFA)が、タイの強豪ブリーラム・ユナイテッドから、イギリスのウェールズ出身のマット・ホランド氏を、新たなダイレクターオブフットボールとして招聘したことを発表しました。ノーザンライオンズの愛称で知られ、今シーズンは2部に当たるプレミア・リーグで戦うプルリスは、現代表監督のタン・チェンホーの招聘に動いていましたが、FAMがタン監督と2020年までの契約を更新したことで、このマット・ホランド氏がPFAのダイレクターオブフットボールとなりました。このホランド氏は、かつてはNFDPでリム・ティオンキムとも指導にあったこともあり、タイやインドでもアシスタントコーチの経験があります。また、マレーシア語も堪能だということですので、低迷しているノーザンライオンズを彼がどう立て直すのかに注目が集まります。

ところでダイレクターオブフットボールとは何でしょうか。ネット上でしらべてみたところ、ウイキペディア以外にもこんな記事やまたこんな記事さらにこんな記事も見つかりました。このマット・ホランド氏はブリーラム・ユナイテッドではテクニカルダイレクターをしていたようなので、ヘッドコーチをサポートあるいは監督する現場に直結する役割を担うのかも知れません。

2016年から続いている(!)監督や選手への給料不払い問題が未だに解決していないPFAですが、昨年10月にPFAの会長に就任したダト・アーマド・アミザル・シャイフィット・アーマド・ラフィ氏とマレーシアサッカー協会FAMやマレーシアフットボールリーグMFLとの交渉の結果、猶予期間として60日が与えられ、その間に問題の解決ができない場合にはFAM、MFLからPFAへの2019年度分の供与金は全て未払い給料の解消に当てられることも決まりました。(元記事はマレーシア語です)

ちなみのこの給与未払い問題はPFAに限ったことではなく、マレーシアのチームでは毎年どこかで起こるので、またどこかで触れることがあるでしょう。

PFAのダイレクターオブフットボールに就任したマット・ホランド氏(PFAのFacebookより)

マレーシア代表の2018年 (5) フル代表 Part3

2018年を締めくくるスズキカップ の決勝は、大会3連覇を目指したタイを破ったマレーシアと、もう一方の準決勝でフィリピンをホーム、アウェイともに2-1で破ったベトナムの対戦となりました。マレーシアは2010年以来の、ベトナムは2008年以来のそれぞれ2回目の優勝を目指します。決勝第1戦はマレーシアのホーム、ブキ・ジャリル国立競技場で開催されました。公式発表で8万8433人の観衆が見守る中、マレーシアは22分にグエン・フイ・フンのゴールで先制を許し、25分にはファム・ドゥック・フイにゴールを決められリードを広げられます。しかしマレーシアも36分にシャマル・クティ・アバが倒されて得たフリーキックをシャルル・サアドが頭で合わせてまず1点、60分にはサファウィ・ラシドが自ら獲得したフリーキックを直接、ゴールに叩き込み同点とします。ディフェンダーのアミル・アザン・アズマンに代えて、フォワードのシャフィック・アーマドを投入し、より攻撃重視のフォーメーションに切り替えた直後のことでした。その後も一進一退を繰り返し、この試合は2-2の引き分けとなりました。

続いてハノイのミーディン国立競技場で行われた決勝第2戦は、試合開始直後の6分にグエン・クアン・ハイの左からのクロスをグエン・アイン・ドゥックがボレーでシュート、一見オフサイドに見えなくもなかったのですが、ベトナムが1点を先制しました。このままマレーシアがゴールを割ることができず試合終了。0-1でベトナムが2度めのスズキカップ制覇を果たしました。

次のスズキカップまではまた2年待たなければいけませんが、2018年はベテランのノーシャルル・イドラン・タラハ の復活があった一方で、若手ではU19、U23、フル代表と全ての代表チームげゴールを挙げたアクヤ・ラシドや、U23から昇格しスズキカップのノックアウトステージでそれぞれタイとベトナムを相手にゴールを挙げたシャミ・サファリとサファウィ・ラシド(彼はアジア競技大会の韓国戦でも2得点を挙げています)などが活躍した年となりました。スズキカップでの決勝敗退は残念でしが、2019年に向けて、フル代表には今後の期待が持てる1年の終わり方であったのは間違いありません。

マレーシア代表 2018年戦績(注記がないものは国際親善試合、@はアウェイ)
2018.03.22 2-2 モンゴル 得点者:O.G, アクヤ・ラシド
2018.03.27 1-2 @レバノン(アジアカップ3次予選) 得点者:シャフィック・アーマド
2018.04.01 7-0 ブータン 得点者:ワン・ザック・ハイカル, ザクアン・アドハ 4, イフラン・ザカリア, シャフィック・アーマド
2018.07.05 1-0 フィジー 得点者:シャフィック・アーマド
2018.09.07 2-0 @台湾 得点者:なし
2018.10.12 3-1 スリランカ 得点者:ノーシャルル・イドラン, アダム・ノー・アズリン, O.G, モハマド・スマレ
2018.10.16 1-0 キルギスタン 得点者:なし
2018.11.03 3-0 モルジブ 得点者:ザクアン・アドハ, サファウィ・ラシド, Mohamadou Sumareh

<AFF選手権 Suzuki Cup>
グループステージ
2018.11.08 @カンボジア 1-0 得点者:ノーシャルル・イドラン
2018.11.16 @ベトナム 0-2 得点者:なし
2018.11.12 ラオス 3-1 得点者:ザクアン・アドハ , ノーシャルル・イドラン 22018.11.24 ミャンマー 3-0 得点者:ノーシャルル・イドラン, ザクアン・アドハ2
ノックアウトステージ(準決勝)
2018.12.01 タイ 0-0 得点者:なし
2018.12.05 @タイ 2-2 得点者:シャミ・サファリ,ノーシャルル・イドラン
決勝
2018.12.11 ベトナム 2-2 得点者:シャミ・サファリ, サファウィ・ラシド
2018.12.15 @ベトナム 0-1 得点者:なし

決勝のベトナム戦のモハマド・スマレ(FAMホームページより)

ベトナムとの決勝でのキャプテン ザクアン・アドハ(FAMホームページより)

準決勝のタイ戦でボールを奪いに行くノーシャルル・イドラン(FAMホームページより)

マレーシア代表の2018年 (5) フル代表 Part2

スズキカップの準決勝へは、グループAからは1位のベトナム(FIFAランキング100位)と2位のマレーシア(同167位)が、グループBから1位のタイ(同118位)と2位のフィリピン(116位)が進出しました。準決勝からはホームアンドアウェイ方式となりますが、準決勝第1試合はマレーシアの首都クアラルンプールのブキ・ジャリル国立競技場にタイを迎えて行われました。過去47年間ホームではタイには負けたことがないマレーシアでしたが、今回もその記録を更新したものの、ホームでのスコアレスドローという結果でした。数少ない得点の機会を活かすことができず、タイの守備陣に守り切られたという印象でした。その4日後、バンコクのラジャマンガラ国立競技場で行われた第2戦は、勝つか1点以上取って引き分ければアウェイゴールルールでマレーシアの決勝進出が決まります。

試合は21分にティティパン・プアンチャンのヘディングがイフラン・ザカリアに当たりオウンゴールでタイが先制しスタンドが盛り上がりましたが、28分には右サイドを上がったシャミ・サファリがペナルティーエリアの外から放ったスーパーシュートで同点に追いつきます。後半に入ると、63分にフリーキックのこぼれ球をパンサ・ヘーミボーンが頭で叩き込み、タイが再びリードを奪います。これに対してマレーシアは今回のスズキカップで既に3得点を挙げているノーシャルル・イドラン・タラハがゴールを背にしてボールを受けたものの、そこから反転してシュートを放ち71分に同点に追いつきます。そしてこのまま逃げ切ればアウェイゴールルールでマレーシアの決勝進出が決まるという中、90分を過ぎアディショナルタイムに入ったところで同点ゴールを決めたシャミ・サファリが自陣ペナルティーエリアでハンドの反則を犯してしまいます。(しかもシャミ・サファリは2枚目のイエローで退場。)PKを蹴るのは今大会8得点を挙げ得点王争いを独走するアディサク・クライソーン。マレーシアの決勝進出の望みも万事休すか、という場面でしたが、ここでなんとゴールバーの上を超えるミスキック!その後は10人のマレーシアが守りきって2-2の引き分けで試合終了。マレーシアの2014年以来の決勝進出が決まりました。

PKを失敗したアディサク・クライソーン選手(タイ)(タイの新聞The Nationより)

マレーシア代表の2018年 (4) フル代表 Part1

2013年と2014年は154位、2015年は170位、2016年161位、2017年は174位、そして昨年2018年は167位。これは過去5年間のマレーシア代表のFIFAランキングの推移です。この低迷状態を打破するため、満を持してポルトガル人のネロ・ヴィンガダが2017年5月に監督に就任しましたが、就任直後7試合で6敗1引き分けの成績で辞任し、彼のもとでアシスタントコーチを務めていたタン・チェンホーが同年12月7日付で監督に昇格したのは自然な流れでした。タン新監督の元、フル代表が2018年を迎えました。

タン監督就任後の初戦は2018年3月22日のモンゴル戦でした。スペイン生まれながらマレーシア人の祖母を持つナチョ・インサ、イギリス生まれカナダ育ちながらマレーシア人の母親を持つラヴェル・コービン=オンなどが初代表に選出されましたが、結果は2−2の引き分けでした。そしてこの試合後、代表チームに選出された29名の内、14名が1部リーグのJDTからの選手であったこと、さらにその内の9名が出場したことで「特定チームに偏重した選手選考」という批判をメディアやファンから浴びることになりました。まぁ一つのチームからレギュラーだけでなく控えの選手まで招集してしまえば、こんな批判が出るのはやむを得ませんが、言い換えれば、それだけJDTの選手層が厚く、充実しているということでもあります。

そのモンゴル戦後、タン監督は、今度はJDTから招集した14選手全員を代表チームから外し、他のチームの選手達と入れ替えるというこれまで驚く行動に出ました。記者会見で理由を問われたタン監督は「ファンの求めることをしたまで。」と答えました。モンゴル戦から5日後に行われたAFC Asian Cupの最終予選レバノン戦は、すでに予選敗退が決まっていたこともあり、モチベーションが上がらなかったのか敵地で1−2の敗戦でした。

て迎えたエイプリルフールならぬ4月1日のブータン戦はレバノン戦とほぼ同じメンバーで臨み、それまでのうっぷんを晴らすかのような7−0のスコアとともに、フル代表は2016年11月のカンボジア戦以来の勝利を挙げ、2016年11月から続いていたインターナショナルマッチ白星なしという状況を脱することができました。ブータン代表の当時のFIFAランキングはFIFAに加盟する211の国と地域中184位であっても良いんです。とにかく勝って良かった!

その後はフィジー、台湾、カンボジア、スリランカ、キルギスタン、モルジブとの試合で勝ち負けを繰り返しながら、今年最大の目標であったAFF スズキカップへの調整を進めました。グループAでカンボジアベトナムラオスミャンマーと同組となったグループステージ初戦は、本田圭佑GM率いるカンボジアが相手です。試合は31分にキャプテンザクアン・アドハのクロスにベテランのノーシャルル・イドラン・タラハが頭で合わせて先制し、そのまま1-0で逃げ切りました。攻撃陣の精度が高ければもっと余裕のある試合展開となったでしょうが、とにかくアウェイの試合で貴重な1勝を挙げました。

その後はホームでラオスに3-1で勝利したものの、アウェイのベトナムには0-2で敗れてしまいました。グループステージ突破の懸かった最終戦は収容人数87000人を超えるブキ・ジャリル国立競技場を満員にしたホームサポーターの前で行われ、3-0でミャンマーに快勝し、ノックアウトステージ(ベスト4)へ進みました。グループステージの殊勲者は、完封されたベトナム戦以外の全ての試合で得点を挙げたフォワードのノーシャルル・イドラン・タラハでしょう。マット・ヨー(Mat Yo)の愛称で呼ばれる32歳のベテランは2010年、2012年、2014年に続いてのスズキカップ出場でした。2014年のスズキカップ準決勝ベトナム戦でゴールを決めたものの、その後は低調で、2017年は一度も代表に招集されませんでしたが、このスズキカップで復活を遂げました。

スズキカップに参加するマレーシア代表メンバー(FAMホームページより)