11月17日のニュース<br>・クラモフスキー監督辞任の噂もサッカー協会は否定

クラモフスキー監督辞任の噂もサッカー協会は否定

明日11月17日は2027アジア杯予選ネパール戦。2025年最後の代表戦ですが、何とこのタイミングでそのマレーシア代表を指揮するピーター・クラモフスキー監督の去就がSNSを中心に話題となっています。

このブログでも取り上げてきた通り、7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)の国籍偽装疑惑で揺れるマレーシアサッカー協会(FAM)に対して、クラモフスキー監督が辞任を検討しているのではとの憶測がSNS上で飛び交っています。その中には明日のネパール戦がクラモフスキー監督にとってマレーシアでの最後の試合になるかもしれない、と言った投稿なども流れてきます。

しかしこれを報じた英字紙ニューストレイツタイムズは、代表チーム関係者の話として、「クラモフスキー監督辞任の噂について『全く根拠がなく』『単なる雑音に過ぎない』と主張している」と伝えています。

*****

ネパールは11月13日に行われたバングラデシュとの国際親善試合に2−2で引き分けるなど調子は良いようですが、ヘリテイジ帰化選手7名を欠くマレーシアであっても順当に行けば勝利は間違いないでしょう。

今年1月に就任したクラモフスキー監督はこれまでの7試合を6勝1分としており、ネパール戦に勝利すれば、2025年を無敗で終えることになります。しかしその一方で2027アジア杯最終戦となる来年3月のベトナム戦は7名のヘリテイジ帰化選手不在、しかも今年6月の対戦ではケガでベンチ外だったブラジル出身の帰化選手で元J仙台のラファエルソンがベトナムのラインアップに復帰すれば、大敗する可能性があるだけでなく、最終戦に敗れることでアジア杯出場を逃しかねません。

また7選手の国籍偽装疑惑への処分について控訴予定のスポーツ仲裁裁判所(CAS)がFIFAの裁定を支持すれば、AFCはそれを理由にヘリテイジ帰化選手たちが出場したアジア杯予選3月のネパール戦と6月のベトナム戦はいずれも無効試合となり勝点6を失い、ベトナムと対戦する前に予選敗退が決定する可能性もあります。

そう考えるとクラモフスキー監督が明日のネパール戦後に代表監督して無敗のまま辞任すれば、自身のキャリアに傷がつくことも無いどころか、むしろ辞任には絶好のタイミングのようにすら思えてきます。またクラモフスキー監督は7選手へのFIFAによる裁定についてマレーシアサッカー協会(FAM)を激しく批判した一方で、マレーシア代表を「善意のサポーター」として支援するジョホール州皇太子(現在は摂政)のトゥンク・イスマイル殿下は「何も悪くない」と支持するなど、FAMとは一線を画しているようです。

もし大量のヘリテイジ帰化選手加入と自身のマレーシア代表監督就任がセットだったと仮定すると、帰化選手の代表チーム復帰の可能性が消滅した場合、クラモフスキー代表監督にとっては、当初の契約条件(明文化されているかどうかは別として)が反故になるわけです。言い換えれば、沈みつつある泥舟から逃げ出す絶好のタイミングであるとも言えますが、果たしてどうなるでしょうか。

11月15日のニュース<br>・ファイナンシャルフェアプレー違反の2クラブに罰金と選手移籍禁止処分<br>・代表合宿で甲状腺疾患が判明のジョーダン・ミンターに代わりルクマン・ハキムが合流<br>・アセアン選手権「ヒュンダイカップ」の日程発表-30周年となる大会は来年7月からおよそ1ヶ月の長丁場に

ファイナンシャルフェアプレー違反の2クラブに罰金と選手移籍禁止処分

マレーシア1部スーパーリーグを運営するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)はケランタン・ザ・リアル・ウォリアーズFCとPDRM FCに対し、ファイナンシャルフェアプレー(FFP)規則違反により罰金とトランスファーウィンドウでの選手移籍禁止を科したことを公式サイトで発表しています。

シェイク・モハメド・ナシル第一審機関(FIB)委員長名で発表された声明によると、両クラブは財務報告書の提出義務についてMFLの指示に従わなかったことが理由と説明されています。

今季からMFLが本格的に導入したファイナンシャルフェアプレー(FFP)に基づき、スーパーリーグの全クラブに対し、2025年9月までの期間の滞納金の有無と、2025年8月および9月の財務報告書を、10月16日を提出期限として提出するよう求められていました。

MFLのFFP部門が各クラブの財務報告書を精査した結果、ケランタン・ザ・リアル・ウォリアーズFCとPDRM FCは昨シーズンから給料未払い問題を抱えていることが判明。MFLのFFP部門はマレーシアプロサッカー選手協会(PFAM)の協力も得て、この問題があることが確認されたということです。

MFLのFFP部門は両クラブに対して、未払い給料の支払い済みを証明する書類、もしくは未払い給料の支払い計画を求める警告書を2通発行したが、何の解決策も得られなかったと述べた。

FFP部門の報告を受けたFIBは、規則違反を理由に両クラブに1度目の警告と共に1万リンギ(およそ36万円)の罰金を科し、未払い給料を14日以内に支払うよう命じたということですが、その後、両クラブから支払い領収書や支払い計画を受け取っていないため、FIBはさらに2度目の警告と2万リンギットの罰金を科したということです。しかし、それでも両クラブからは何の回答も得られなかったため、FIBは両クラブに対して3度目となる4万リンギットの罰金と、今季2025/26年シーズンの2度目のトランスファーウィンドウにおける選手の移籍禁止の処分が科されたということです。

なおマレーシアリーグの今季2度目のトランスファーウィンドウは、2016年1月6日から2月1日までとなっています。

クランタン・ザ・リアル・ウォリアーズFCとPDRM FCには、給料未払い問題を解決するために2025年12月31日までの猶予が与えられたということですが、シェイク・モハメド・ナシルFIB委員長は、両クラブが指定された期日までに遵守しない場合にはより厳しい措置が取られることを明言しています。

*****

今季開幕直後から未払い給料の噂が出ていたPDRMについてはやっぱりそうだったか…という感じです。一方、昨季の最下位から現在は7位、そして昨季のシーズン2勝を上回る3勝目を8試合終了時点で既に記録するなど、大躍進しているクランタン・ザ・リアル・ウォリアーズFCについては、昨季の汚名をそそぐためとはいえ、身の丈以上の無謀な補強だったのかもしれません。


代表合宿で甲状腺疾患が判明のジョーダン・ミンターに代わりルクマン・ハキムが合流

ガーナ出身のジョーダン・ミンターは、2020年シーズンにトレンガヌFCに加入すると、そこからクアラルンプール・シティFCなどを経て、昨季からはクチン・シティFCでプレーしています。

今年8月29日にマレーシア国籍を取得したミンター選手は、先月10月に初めてマレーシア代表合宿に召集されましたが、マレーシア代表選手として試合に出場するための資格を証明する書類が準備できてないとして、出場はありませんでした。今月11月の代表合宿にも再び召集されたミンター選手ですが、その後、体調不良を理由に代表候補から外れ、代わりにルクマン・ハキムが召集されました。

そのミンター選手について、スポーツ専門メディアのスタジアム・アストロは、合宿での健康診断で甲状腺疾患及び心臓疾患があることが判明した結果の合宿辞退だったことを報じています。

代表チームのハイパフォーマンス・ディレクターを務めるクレイグ・ダンカン博士は、ミンター選手が当初は単なる風邪と診断されていたその数日前にウイルスが検出されたと説明しています。

「検査結果が出て、パフォーマンスを確認し、そこで何かしらの疑いがあれば調査を行う必要があるのは当然だ」と話したダンカン博士は、ミンター選手にさらに検査を行った結果、甲状腺と心臓に関わる慢性的な健康問題を抱えていることが判明したということですしかし、健康上の問題は個人情報でありそれ以上の情報開示はできないと説明したダンカン博士は、病気の詳細などは明らかにしていないということです。


ミンター選手に代わって代表合宿に加わったのは、3年ぶりの代表復帰となるルクマン・ハキム(ヌグリ・スンビランFC)です。これまで代表戦9試合に出場している23歳のルクマン選手は、2022年3月26日の国際親善試合シンガポール戦以来の代表復帰となります。

2018年9月にマレーシアで行われたU16アジア選手権(現U17アジア杯)では、開催国枠で出場したマレーシアはグループステージで敗退したものの、ルクマン選手はこの大会で優勝した日本の唐山翔自(現東京ヴェルディ)、その日本に準決勝で敗れたオーストラリアのノア・ボティッチ(オーストリア1部アウストリア・ウィーン)らと共に通算5ゴールで得点王を分け合いました。

マレーシアのサッカー界を背負って立つ存在と期待されたルクマン選手はその後、スランゴールFCを経て、マレーシア人ビジネスマンのヴィンセント・タン氏がオーナーのベルギー1部コルトレイクと2020年8月から5年契約を結びました。しかしそこでは出場機会を得ることができず、出場機会を求めてUMFニャルドヴィク(アイスランド2部)、横浜Y.S.C.C(ルクマン選手在籍時はJ3)などを転々とし、コルトレイクとの契約が切れた今年からはヌグリ・スンビランFCに加入しています。

今季のシーズン当初はケガなどで出場がなかったものの、回復後は徐々に出場時間を増やし、11月10日に行われたヌグリ・スンビランFC対東ティモール代表との練習試合では、2ゴールを挙げるなど調子を上げてきています。


アセアン選手権「ヒュンダイカップ」の日程発表-30周年となる大会は来年7月からおよそ1ヶ月の長丁場に

1996年開催の第1回大会から30周年記念となる第16回アセアン選手権は、2026年7月24日からグループステージが始まることが発表されています。東南アジアサッカー連盟(AFF)に加盟する11カ国が出場して隔年開催されるこの大会は、今回からヒュンダイモーターズが冠スポンサーとなり、大会名が「ヒュンダイカップ」となります。

タイガービールが冠スポンサーとなり「タイガーカップ」として始まった東南アジア選手権(当時)の第1回大会はシンガポールでの集中開催で、決勝ではタイがマレーシアを1−0で破り優勝しています。

2004年までスポンサーを務めたタイガービールに代わり、2008年からはスズキ自動車がスポンサーとなったことで「スズキカップ」となったこの大会は、2018年からはそれまでの集中開催からホームアンドアウェイ方式となっています。また大会名はスポンサーの変更にあわせて2022年からは「三菱電機カップ」、2026年の大会からは「ヒュンダイカップ」と変わっています。また大会の正式名称も2024年からは東南アジア選手権からアセアン選手権へと変更されています。

前回2024年大会では、ベトナムがタイをホームで2−1、アウェイでは3−2といずれも破って3大会振りに優勝しています。また総合優勝回数ではタイが7回、シンガポール4回、ベトナム3回となっており、マレーシアは2010年大会優勝の1回のみです。

2026年開催の第16回大会はグループステージの組み合わせ抽選は来年、行われます。6月2日と9日にはプレイオフが行われ、この勝者を含めた全10チームが、それぞれ5チームに分かれて、7月24日から8月8日にかけて1回戦総当たり方式のグループステージで争います。

そして各組上位2チームが、8月15日からホームアンドアウェイ方式で行われる準決勝を経て、やはりホームアンドアウェイ方式による決勝に進出し、8月26日の決勝2ndレグで大会王者が決定します。

*****

東南アジアサッカー連盟(AFF)のチエフ・サメス会長は公式発表の生命の中で、30周年を迎えるこの大会の歴史の長さを強調していますが、その裏には今年10月にマレーシアで行われた東南アジア首脳会議アセアンサミットの際にこの地を訪れたFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長の口から飛び出した新大会「FIFAアセアンカップ」への対抗意識がありそうです。このFIFAアセアンカップの詳細は何も明らかになっていませんが、FIFA国際マッチカレンダー(FIFAデイズ)内で行われることが発表されています。

アセアン選手権は例年、FIFAデイズ外で開催されることから、マレーシア国内リーグ11連覇中のジョホール・ダルル・タジムが選手の招集を完全に拒否する状況が続いています。代表チームの主力の多くが所属するジョホールの選手招集拒否により近年の大会には「本当の」マレーシア代表が出場できていないのが現状です。そんな状況下でFIFAアセアンカップがFIFAデイズ内で開催されるのであれば、これが真の東南アジア王者決定戦となる可能性もあります。

FIFAは2021年からAFC傘下の中東の13カ国とアフリカサッカー連盟(CAF)所属の10カ国が参加する「FIFAアラブカップ」を主催しており、こちらは4年に1度の開催となっています。このため、FIFAアセアンカップもアセアン選手権と共存する形で4年に1度の開催となる可能性もあります。

*****

ちなみに今季2025/26シーズンのマレーシア1部スーパーリーグは8月8日に開幕しました。来季はヒュンダイカップが7月24日に開幕することで、マレーシアスーパーリーグを主催するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)は、日程変更を余儀なくされそうです。またFIFAデイズ外の大会ということで、開幕前の大事なプレシーズンに選手が代表召集されることを拒否するクラブも出そうで、過去大会と同じならジョホール・ダルル・タジムの選手は召集拒否が濃厚です。2025年は無敗で終えることになりそうなピーター・クラモフスキー代表監督にとっても、このヒュンダイカップは選手選考が難しい頭の痛い大会となりそうです。

11月14日のニュース<br>・マレーシア代表選手の国籍偽装問題:ロドリゴ・オルガドは所属クラブが契約解除<br>・イマノル・マチュカの所属クラブはスポーツ仲裁裁判所の判断が出るまで給料支払いを表明<br>・アジア杯予選:対戦相手のネパールもピッチ外の問題で混乱中

マレーシア代表選手の国籍偽装問題:ロドリゴ・オルガドは所属クラブが契約解除

英字紙ニューストレイツタイムズは、国籍偽装が疑われるマレーシア代表のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)7名の内の1人、アルゼンチン出身のロドリゴ・オルガドが所属クラブとの契約が解除されたことを報じています。

コロンビア1部のアメリカ・デ・カリは、所属するオルガド選手がFIFAから12ヶ月間のあらゆるサッカー関連の活動禁止処分が科されたことを受け、契約を解除したということです。

マレーシアサッカー協会(FAM)は、国籍偽装疑惑に関してFIFAの規律委員会が9月26日に発表した裁定を覆そうと控訴していましたが、11月3日に同じFIFAの控訴委員会がFAMおよび7選手への処分内容を支持し、控訴は却下されていました。

FIFAはFAMに対し35万スイスフラン(およそ6830万円)の罰金、またオルガド選手の他、ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、エクトル・ヘヴェルの6選手に対しても、書類偽造に関するFIFA規律規程22条違反で、それぞれ12カ月の出場停止と2,000スイスフラン(およそ39万円)の罰金という裁定を下していました。

アメリカ・デ・カリはFIFA控訴委員会による控訴却下を受けて、29歳のオルガド選手との契約を11月11日に正式に解除したと、コロンビアのメディア「ElDeportivo.com.co」が伝えているということです。今年1月にアルゼンチン1部のヒムナシアから加入したオルガド選手は1年足らずでチームを去ることになりました。

なお、ElDeportivo.com.coによれば、アメリカ・デ・カリの法務チームと選手側代理人の双方が契約解除に合意に達しており、オルガド選手は契約条件に基づき、給与を全額受け取り続けるということです。

*****

このブログでも既報の通り、スペイン出身のガブリエル・パルメロは、期限付き移籍中であったスペイン3部のウニオニスタス・デ・サラマンカ、そしてパルメロ選手の所属元であるクルブ・デポルティーボ・テネリフェが、それぞれ期限付き移籍および契約終了を発表しており、所属クラブがなくなったのはオルガド選手で2人目となりました。

今回の国籍偽装疑惑問題でFIFAを批判している、ジョホール州摂政(皇太子)のトゥンク・イスマイル殿下がオーナーのジョホール・ダルル・タジムFCに所属するジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、エクトル・ヘヴェルの3選手は契約解除の心配はなさそうです。そうなると残るファクンド・ガルセス、イマノル・マチュカ両選手の動向が気になりますが、次の記事はそのマチュカ選手に関連するニュースです。


マレーシア代表選手の国籍偽装問題:イマノル・マチュカの所属クラブはスポーツ仲裁裁判所の判断が出るまで給料支払いを表明

ガブリエル・パルメロ、ロドリゴ・オルガド両選手が所属クラブとの契約解除となった一方で、アルゼンチン出身のヘリテイジ帰化選手、イマノル・マチュカは所属するアルゼンチンのクラブから給与を受け取り続けることになるようです。

マチュカ選手が所属するアルゼンチン1部のベレス・サルスフィエルドは、FIFAによる処分に対してマレーシアサッカー協会(FAM)が予定しているスポーツ仲裁裁判所(CAS)への控訴の最終判断を待つ間、25歳のマチュカ選手の給与を全額支払い続けると発表しています。

アルゼンチンのメディア「Sabado Velez」によれば、ベレスはすべての控訴手続きが終わるまで、マチュカの将来に関して最終的な決定を下さないと発表したということです。ブラジル1部のフォルタレザから期限付き移籍中のマチュカ選手は、ベレス・サルスフィエルドとの契約が12月31日までとなっています。


アジア杯予選:対戦相手のネパールもピッチ外の問題で混乱中

国籍偽装疑惑問題に揺れるマレーシアは11月18日に2027アジア杯予選F組の第5節でネパールと対戦しますが、そのネパールも深刻なピッチ外の問題を抱えていると英字紙ニューストレイツタイムズが報じています。

来週火曜日の試合は、本来はネパールのホームゲームとしてカトマンズにあるスタジアムでの開催が予定されていましたが、そのスタジアムが試合開催要件を満たしていないと判断したアジアサッカー連盟(AFC)は、試合会場をクアラルンプールのブキ・ジャリル国立競技場に変更しています。ネパールは今年3月に予定していたホームゲームを、マレーシアのホームゲームとして開催するよう依頼をした過去もあります。なおスルタン・イブラヒム・スタジアムで行われた3月の試合ではネパールに0−2でマレーシアに敗れています。

さらにネパール国内では、同国サッカー協会に当たる全ネパールサッカー協会(ANFA)が主催する1部リーグのAディビジョンリーグの開催が3シーズン連続で中止となるなど、ネパールのサッカー界はマレーシアに負けず劣らず混乱に揺れているようです。

今週月曜日、カトマンズの全ネパールサッカー協会(ANFA)本部で代表チーム壮行会が行われた際には、「ANFAは常に選手やサッカー関係者のために最善を尽くしている」と、ANFAのパンカジ・ビクラム・ネンバン会長は地元メディアに語ったようですが、最近リーグ再開を求めて街頭抗議を行ったネパール選手会との確執についての言及はなかったということです。

11月10日のニュース<br>・ACL2敗退のスランゴールはCEOが逃げキャプテンがサポーターに応対<br>・今月のアジア杯予選に向けた代表27名が発表-キャプテンのマシュー・ディヴィーズが復帰<br>・国籍偽装疑惑のガブリエル・パルメロは所属クラブが契約を解除

ACL2敗退のスランゴールはCEOが逃げ、試合後はベンチ外だったキャプテンが怒れるサポーターに応対

11月6日にスランゴール州のMBPJスタジアムで行われたACL2グループステージG組第4節では、ホームのスランゴールFCが前半で挙げた2点のリードを守りきれず、後半に3得点を挙げたプルシブ・バンドンが逆転で勝利しています。

これによりスランゴールは2シーズン連続となるACL2グループステージ敗退が決まりました。この試合後には怒れるスランゴールサポーター数百人がスタジアム外に集まり、クラブ経営陣との対話を求めましたが、ジョハン・ハミドンCEOらは早々とスタジアムを去っており、サポーターを落ち着かせたはこの試合では膝のケガによりベンチ外だったキャプテンのファイサル・ハリムだったと報じられています。(ちなみにこの日は現地観戦しましたが、不穏な空気を感じたので、試合後には私はすぐにスタジアムを後にしました。)

サポーターらはファイサル選手に対して、経営陣に対して今シーズン当初から続く不安定なチーム状況の改善を直ちに行うことを求める、というメッセージを託したということですが、SNS上には、暴走した一部サポーターがハミドンCEOを探してスタジアムのVIPエリアに侵入しようとして保安係に止められる映像なども上がっています。

スランゴールは今季開幕からのリーグ戦5試合を2勝3敗でスタートすると、昨年11月に就任した喜熨斗勝史監督を解任しています。なお喜熨斗氏は2020年以降にスランゴールが解任した7人目の監督です。その一方で2016年に就任したジョハン・ハミドンCEOの元では国内タイトルは1つも獲得できておらず、度々サポーターからの批判を受けてきました。過去2シーズン2位のチームは現在、4勝1分3敗で6位、しかも首位のジョホール・ダルル・タジムからは勝点差14と大きく離され、さらにACL2では4戦全敗で敗退となっています。


今月のアジア杯予選に向けた代表27名が発表-キャプテンのマシュー・ディヴィーズが復帰

11月18日にクアラルンプールのブキ・ジャリル国立競技場で行われる2027アジア杯予選のネパール戦に臨むマレーシア代表27名が発表されています。10月に行われた同じアジア杯予選ラオス戦で招集された29名からDFシャールル・サアド(ジョホール)、リチャード・チン(スコットランド2部レイス・ローヴァーズ)、MFアフィク・ファザイル(ジョホール)、FWロメル・モラレス(ジョホール)が外れる一方で、ケガから復帰したキャプテンでDFマシュー・デイヴィーズ(ジョホール)が復帰、さらにMFライアン・ランバート(クアラルンプール)が代表に初めて招集されています。なおマレーシア代表にはライアン選手の双子の兄弟、デクラン・ランバートも招集されていますが、代表チームで双子の兄弟が同時にプレーするのは2019年のアイディル・ザフアンとザクアン・アドハ兄弟以来2組目ということです。

直近のFIFAランキングでは2005年11月以来となる118位のマレーシアは、同180位のネパールとクアラルンプールで対戦しますが、この試合はネパールのホームゲームとして行われます。これは、試合会場となるはずだったネパール国内のスタジアムがアジアサッカー連盟(AFC)から承認を受けなかったため、自国での試合開催できなくなったことに伴う措置です。

なおネパールは2027アジア杯予選の初戦となった3月25日の試合もネパールで行う予定でしたが、このときはカトマンズのダシャラート・スタジアムが改修工事中だったため、ネパールサッカー協会(ANFA)がこの試合をマレーシアのホームゲームとするよう要請し、スルタン・イブラヒム・スタジアムに変更されていました。

ネパールへの移動が不要になったマレーシア代表は、マレーシア国内で本日11月10日から試合前日の17日まで代表合宿を行います。

2027アジア杯予選に向けた11月合宿に参加するマレーシア代表(全27名)

P氏名年齢所属
GKシーハン・ハズミ29ジョホール
シーク・イズハン23スランゴール
ハジク・ナズリ27クチン
DFラヴェル・コービン=オング34ジョホール
マシュー・デイヴィーズ30ジョホール
ジュニオール・エルドストル34ジョホール
ハリス・ハイカル23スランゴール
クエンティン・チェン26スランゴール
デクラン・ランバート27クアラルンプール
ダニエル・ティン33サバ
ドミニク・タン28サバ
アザム・アズミ24トレンガヌ
ウバイドラー・シャムスル22トレンガヌ
ディオン・クールズ29セレッソ大阪
MFナズミ・ファイズ31ジョホール
ノーア・ライネ23スランゴール
ライアン・ランバート27クアラルンプール
スチュアート・ウィルキン27サバ
エンドリック・ドス・サントス30ホーチミン市公安
エゼキエル・アグエロ31カーンチャナブリパワー
FWアリフ・アイマン23ジョホール
ファイサル・ハリム27スランゴール
アリフ・イズワン21スランゴール
サファウィ・ラシド28クアラルンプール
パウロ・ジョズエ36クアラルンプール
ラマダン・サイフラー25クチン
ジョーダン・ミンター30クチン

国籍偽装疑惑のガブリエル・パルメロは所属クラブが契約を解除

国籍偽装が疑われるマレーシア代表のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)7名に対してFIFAが罰金と12ヶ月の出場停止の裁定に対す控訴を却下した余波が現れ始めているようです。

英字紙ニューストレイツタイムズは、出場停止処分を受けたヘリテイジ帰化選手の1人でスペイン出身のDFガブリエル・パルメロが所属クラブから契約解除を発表されたと報じています。

11月3日にFIFAがパルメロ選手を含む7選手の控訴を却下したことを受け、期限付き移籍中であったスペイン3部のウニオニスタス・デ・サラマンカと、パルメロ選手の所属元であるクルブ・デポルティーボ・テネリフェが、パルメロ選手の期限付き移籍および契約を終了したと発表したということです。

ウニオニスタスによる11月7日の公式声明は以下の通りです。。
「ウニオニスタス・デ・サラマンカは、FIFAから9月25日に通知を受け、11月3日に選手の控訴が棄却されたことを受け、クルブ・デポルティーボ・テネリフェとガブリエル・パルメロのレンタル契約を解除することで合意した。この合意には、クラブ側に金銭的な負担は一切発生していません。ウニオニスタス・デ・サラマンカは、サラマンカ在籍中に示した選手の献身に感謝の意を表します。」

一方、テネリフェも声明を発表し、パルメロ選手とのとの契約が11月7日付で終了したこと発表しています。「ガブリエル・パルメロのウニオニスタス・デ・サラマンカへの期限付き移籍契約およびクルブ・デポルティーボ・テネリフェとの契約は、11月7日をもって終了した」

パルメロ選手は、マレーシア代表としてプレーするために書類を偽造したとしてFIFAから出場停止処分を受けたヘリテイジ帰化選手7名の1人です。この他に処分を受けているのは、ロドリゴ・オルガド、ファクンド・ガルセス、ジョン・イラサバル、ジョアン・フィゲイレド、ヘクトル・ヘーベル、イマノル・マチュカの6選手で、FIFAの控訴委員会は11月3日にパルメロ選手を含む7選手全員の控訴を棄却し、12か月間の出場停止と各選手に2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金という処分を確定させています。

なおパルメロ選手の他には、コロンビア1部のアメリカ・デ・カリが、同じく処分を受けたアルゼンチン出身のロドリゴ・オルガドとの契約を解除する手続きに入っていることをニューストレイツタイムズが報じています。

2025/26ACL試合結果とハイライト映像<br>・ACLエリートリーグステージ第4節:ジョホールは中国クラブに連勝で2位浮上<br>・ACL2グループステージ第4節:スランゴールは4連敗で早くも敗退決定

ACLエリートリーグステージ第4節:ジョホールは中国クラブに連勝で2位浮上

ヘリテイジ帰化選手不在もなんのその。

FWジョアン・フィゲイレド、MFエクトル・ヘヴェル、DFジョン・イラザバルの主力3選手が国籍偽装疑惑で出場停止処分を受けているジョホールは、第1節で域内ライバルのBGパトゥム・ユナイテッド(タイ)に敗れ、続く第2節ではACLエリート初出場のJリーグ町田と引き分けるなどノックアウトステージ進出を狙うチームにとってはやや不安なスタートでした。しかし続く第3節では成都蓉城(中国)をアウェイで撃破し、チームに勢いが出てきたこの第4節では同じ中国の上海申花と対戦しています。

前節の成都蓉城戦勝利後には、国内リーグで優勝争いをしている成都蓉城が控え中心で臨んだ試合だからジョホールが勝てた、などといった声も聞こえてきましたが、それはあちらの問題であって、何を言われようと勝ったことが事実。そしてこの第4節もやはり中国スーパーリーグ2位、首位の上海海港を勝点差2で追う上海申花との対戦でした。

この試合の両チームの先発XIは以下の通り。ジョホールの先発XIを見ると、マレーシアで生まれ育ったマレーシア人はアリフ・アイマンただ1人とこれまた振り切った布陣です。一方の上海申花は11月2日の国内リーグ深圳新鵬城戦と全く同じ11名が先発しています。

試合はホナタン・シウバが2ゴール、スペイン出身のフィリピン国籍を持つ(しかしなぜか代表に召集されない)オスカル・アリバスも2試合連続のゴールを決めて快勝しています。

前半を両チームとも無得点で折り返すと、後半の48分にジョホールが均衡を破ります。アリフ・アイマンがペナルティエリア内で2人のDFをかわしてゴール前に送ったボールが上海申花DFに当たって、ホナタン・シウバの足元へ。これをシウバが押し込んでジョホールが先制します。

その5分後には上海申花がアンドレ・ルイスのシュートで同点かと思われましたが、その直前のルイス・アスエとジョホールGKアンドニ・ズビアウレの接触がファウルとなり、得点には至りません。逆にジョホールはプレッシャーをかけ続け、63分には途中出場のアフィク・ファザイルからのパスを受けたオスカル・アリバスがゴールの左隅に滑り込むシュートを決めてリードを広げます。

上海申花はペナルティエリアでシュー・ハオヤンがジョホールのナチョ・インサに倒されて得たPKをサウロ・ミネイロが決めて1点を返しますが、88分にジョホールも再びアリフ・アイマンからのパスをホナタン・シウバがゴールして再び点差を広げると、そのまま逃げ切ってACLエリート2連勝を飾っています。

2025/26ACLエリート リーグステージ第4節
2025年11月5日@スルタン・イブラヒム・スタジアム(ジョホール州イスカンダル・プテリ
ジョホール・ダルル・タジム 3-1 上海申花
⚽️ジョホール:ホナタン・シウバ2(48分、88分)オスカル・アリバス(63分)
⚽️上海申花:サウロ・ミネイロ(71分PK)

この試合のハイライト映像。アストロ・アリーナのYouTubeチャンネルより。

ACL2 グループステージG組第4節:スランゴールは4連敗で早くも敗退決定

第1節のバンコク・ユナイテッド(タイ)、第2節のライオン・シティ・セイラーズ(シンガポール)にいずれも4失点、第3節のプルシブ・バンドン(インドネシア)にも敗れてここまでACL2では3連敗のスランゴール。ホーム開催となったこの第4節のプルシブ戦で敗れれば、2シーズン連続でグループステージ敗退が決まってしまいます。しかもプルシブは3試合で2勝1分の成績でグループステージG組のトップです。

試合前会見でペルシブ・バンドンのボヤン・ホダック監督は、MBPJスタジアムのピッチの状態は単に悪いだけではなく、AFCの基準を満たしていないと感じると述べて軽くジャブ。前クアラルンプール・シティの指揮官は、「MBPJスタジアムは外から見るととても美しいがピッチはとてもひどい」「スタジアムにとって一番大切なのはピッチだということをマレーシア人は理解していない」とコメントしています。ジョホールやクランタンなどでも優勝監督を経験し、マレーシアのサッカー界を熟知しているホダック監督は、自身がマレーシアを去ってから2年経っても改善されていない問題点を厳しく指摘していました。

この指摘をスランゴールの運営陣にどのように響いたのかは興味があるところです。ACL2に向けて、スタンドはペンキが塗り直され、マレーシアではお約束の不潔なトイレも完全に改修され、MBPJスタジアムの設備や外見は確かに見違えるほど改善されていますが、結局、「見栄えだけを整える」ことに忙しい今のスランゴールの運営陣の対応を見抜いているようにも思えるコメントです。

以下はこの試合の両チームの先発XIです。スランゴールの86番ママドゥ・ディアラはセネガル出身のCB。コソボ代表MFトニ・ドムジョニとともにこの試合の直前に加入が発表されています。国内リーグのトランスファーウィンドウ期間でないので、この2選手はACL2要員としての獲得ですが、付け焼き刃感が否めず、やはりここでも「見栄えだけを整える」発想に思えます。ちなみにドムジョニ選手は「食中毒」を理由にこの試合ではベンチ外でした…。またスランゴールのマレーシア代表FWファイサル・ハリムは膝痛のためベンチ外となることも発表されていました。またマレーシア代表ハリス・ハイカルと、リーグ戦では主力のリッチモンド・アンクラの両CBはなぜかベンチスタートです。

それでも試合は開始3分、クリゴール・モラレスがアルヴィン・フォルテスのクロスを押し込んで先制するスランゴールにとっては最高の展開で始まります。さらに17分にはクリゴールのクロスをザック・クラフと競ったプルシブDFのパトリシオ・マトリカルディのオウンゴールで追加点を挙げたスランゴールが前半2−0で折り返します。

この試合は後半から現地観戦となりましたが、後半開始からペースを挙げたプルシブに対し、スランゴールは2点のリードが逆にプレッシャーになったのか、不要なバックパスが多く、まるで残る45分を守り切るつもりなのかと思うようなプレーを頻発します。

そして後半開始直後の48分にゴール前の混戦からアンドリュー・ユングにゴールを決められると、スランゴールはますます自陣に押し込まれる場面が多くなりますが、それでもGKシーク・イズハンが好セーブを連発してそれに耐える展開が続きます。

個人的に悪手だと思ったのはクリゴールの交代でした。スランゴールのクリストファー・ギャメル監督代行は、いわゆるFresh pair of legsとして70分に元Jリーグ甲府のウィリアン・リラと交代させますが、守備でも献身的に動き回るクリゴールが抜け、前方で待つタイプのリラが入ったことで守備のバランスが崩れたように感じました。またギャメル監督となり、解任された喜熨斗勝史監督時代に採用していた5バックから4バックとなった結果、それまで積極的なオーバーラップでサイド攻撃を担っていたクエンティン・チェンが守備に気を取られて持ち味が消えてしまっているように感じます。しかも守備も上手いわけではないので、この試合でも見られたようにチェン選手のサイドから攻め込まれることも多くなっています。

その後の81分には不用意なバックパスからボールを奪われたスランゴールは、バンドンで行われた前節でも得点を挙げていたインドネシア代表FWアダム・アリスがスランゴールDFを振り切って同点ゴールを決めて2-2となってしまいます。

こうなると試合は完全にプルシブが主導権を握ります。防戦一方ながらもなんとか勝点1は取れるのかと思ったアディショナルタイムに決勝点が入ります。バックパスを受けたGKシーク・イズハンが前方へ蹴ろうとしたところにアダム・アリスが詰め、イズハンの蹴ったボールがアダムに当たり、なんとそのままゴールイン。膝から崩れ落ちたイズハンでしたが、それまでのスーパーセーブがなければスランゴールはもっと早い時間で勝負を決められていただけに責めることはできません。

前半2点をリードしながら、後半にまさかの3失点を喫したスランゴール。不安定で自信のないプレーが随所に見られたのはまさに今季のチームを象徴しているようでした。喜熨斗勝史監督を解任しても何も変わっていないスランゴールは、4試合を終えて勝点0となりACL2の敗退が決まりました。

*****

試合はプルシブサポーターに近い席で観戦しましたが、同点になったあたりから大盛り上がりのプルシブサポーターに対して、試合展開にも、そしておそらく今季のプレーぶりにも、そしてそれを引き起こしたクラブの運営陣にも不満が溜まったスランゴールサポーターが試合そっちのけで怒鳴り合いを始めるなど、久しぶりにスタンドが盛り上がる試合を見ることができました。

ピッチ乱入後にスタンドに戻ったサポーターを捕まえようとする警備陣と揉めるプルシブサポーター。

2025/26ACL2 グループステージ第4節
2025年11月6日@MBPJスタジアム(スランゴール州プタリン・ジャヤ)
スランゴール 2-3 プルシブ・バンドン
⚽️スランゴール:クリゴール・モラエス(3分)、パトリシオ・マトリカルディ(17分OG)
⚽️プルシブ:アンドリュー・ユング(48分)、アダム・アリス2(81分、90+7分)

この試合のハイライト映像。アストロ・アリーナのYouTubeチャンネルより。

G組のもう1試合は、バンコク・ユナイテッドが、オマーン代表FWムセン・アル=ガッサニのゴールなどでライオン・シティ・セイラーズを2−1で破り2位を堅守しています。

2025/26 ACL2 グループステージG組順位表(第4節終了)

クラブ勝点
ペルシブ・バンドン431082610
バンコク・ユナイテッド43017529
ライオン・シティ・セーラーズ41126604
スランゴール4003613-70

11月6日のニュース<br>・国籍偽装疑惑-元FAM事務局長「謙虚にミスを認めるべき-CASへの控訴は危機を長引かせるリスクが高い」<br>・イスマイル殿下はCASへの控訴費用全額負担を申し出<br>・前FAM会長「公平を期すために訴訟手続きを最後まで進めさせるべき」<br> 国籍偽装疑惑選手の1人はクラブが解雇を検討か

マレーシア代表でプレーする7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、ロドリゴ・ホルガド、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、ヘクター・ヘベルとマレーシアサッカー協会(FAM)に対し、FIFAは国籍偽装があったとして7選手には罰金と12ヶ月間の出場停止処分を、またFAMには罰金処分の裁定を下しました。

しかしこれを不服とした7選手とFAMはこの裁定に対して控訴を行いましたが、FIFAの控訴委員会は11月3日にこれを却下し、当初の裁定を指示することを発表しています。しかしこれに納得しないFAMのユソフ・マハディ会長代行は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴するための準備を整えていると報じられています。

しかし、CASへの提訴についてはマレーシア国内のサッカー関係者全員が支持しているわけではなく、様々な見方が報じられています。

元FAM事務局長「謙虚にミスを認めるべき-提訴は危機を長引かせるリスクが高い」

CASへの提訴に否定的な意見を持つ元FAM事務局長のアズディン・アフマド氏は、今回の件をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に持ち込むことは、既存の危機を長引かせるだけでなく、最悪の場合にはFAMがFIFAから資格停止処分を受ける可能性につながると述べています。

マレーシア語紙ブリタハリアンのインタビューに答えたアズディン氏は「提訴を行えば、7選手だけでなくFAM自体に活動停止処分が科される可能性がある。そうなれば、現在行われているマレーシアリーグが直ちに停止されるだけでなく、国内のサッカー活動全てが麻痺してしまう。」

「最善の方法は、謙虚に間違いを認めることだ。『不正行為』という言葉を使う必要はないが、重要な点を見逃したという事実は受け入れる必要がある」

さらにアズディン氏は、今回の処分が下された際にFIFAが示した証拠や文書はどれも非常に明白で反論が難しいと説明しています。」

「もし控訴が続けば、さらなる疑問が生じ、(7選手の祖父母の出生届を再発行した)マレーシア政府の国民登録局、そして入国管理局などの政府機関が関与が疑られる可能性すらあると懸念している。」

FIFAが示した証拠は確固たるもので、もう疑問の余地がないと話したアズディン氏はFAMがCASに提訴すれば、より大きな影響が出る懸念すらあると述べています。


前代表チームマネージャー「CASへの控訴は時間と金の無駄で意味がない」

マレーシア代表のチームマネージャー(監督ではなくいわゆる事務方のマネージャー)カマルル・アリフィン・モハド・シャハル氏は、マレーシアサッカー協会(FAM)が、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴を行うことは無駄だと断じています。

英字紙ニューストレイツタイムズとのインタビューでカマルル氏は、FIFAの決定は最終的なものであり、CASへの上訴を行っても判決が変わることはないだろうと述べています

「現実的に見て、この問題をCASに持ち込んでも何も変わらないだろう。FIFAは既に7名のヘリテージ帰化選手が書類の偽造に関与したと判断している。このためCASへの控訴は時間とお金の無駄であり、FAMはこの問題にこだわるのではなく、組織の立て直しに力を注ぐべきだ。」

さらにカマルル氏は、FAMが今最優先で取り組むべきは、協会としての信頼と誠実さを回復し、サポーターや国際的なパートナーからの信用を取り戻すことだと強調しています。

「FAMの信用は傷ついたが、今こそ運営陣は、どのように立て直すかを戦略的に考えるときである。過去を振り返るのではなく、内部の問題を修正することに集中しなければならない。今のFAMはまるで空気の抜けたボールのようなもので、これ以上蹴り続けるのではなく、回復するための支援と時間、そして余地を与えるべきだ。」

またカマルル氏は、FAMの運営陣に対し、今後同様の事件を防ぐために、全ての手続きや書類管理システムを見直すようことにも着手するべきだとも提言しています


元FAM理事「CASへの提訴でFAMが勝つには奇跡を祈るしかない」

また元FAM理事会のメンバーだったクリストファー・ラジ氏は、マレーシアサッカーのサポーターとして、CASへ控訴することは否定せず、またそこでFAMが勝つことを心から願っているものの、現実的には奇跡が起きるしかないと、ブリタハリアンとのインタビューで述べています。

ラジ氏によると、2023年と2024年にCASに持ち込まれたFIFAを相手取った控訴54件中、FIFAはその54件全てに勝訴しているということです。このため、FIFAの規律委員会で処分が決定され、その処分がFIFAの控訴委員会でも支持されている今回の件について、FAMがCASで勝訴することができれば奇跡的なことだと述べています。


スポーツ専門弁護士「CASでの勝訴はFAMが新たな証拠を提示できるかどうかにかかっている」

またスポーツ弁護士のニック・エルマン氏は、CASでのFAMの訴訟は具体的な新たな証拠を提示できるかどうかにかかっていると述べています。

「FAMは一貫して、書類が偽造されていることを知らなかったと主張しているが、選手が代表チームでプレーする資格があることを保証するのは協会の責任である。「FAMが『原本』の存在を否定するのであれば、FIFAが入手した書類が不正確であるか、あるいはそれが7選手の祖父母のものではないことを示す証拠を提出する必要がある。」

「CASにおけるFAMの勝訴の可能性は、FIFA控訴委員会が下した決定から事実上の誤りと法律上の誤りを見つけることが必要にある。」

さらにFAMはCASで新たな証拠を提示することはできた場合には、その証拠を提示する合理的な理由と、なぜ以前の段階で提示されなかったのかという理由も必要になるとニック・エルマン氏は述べています。

*****

ここでおさらいしておくと、FIFAの規律委員会における事実関係の主な争点は、7名のヘリテイジ帰化選手の祖父母の出生届の『原本』の存在の有無に関するものでした。これについてFAMは『原本』が存在していないとし、マレーシア政府の国民登録局も『原本』が入手できなかったとして、(7選手の出身地である)アルゼンチンやブラジル、スペインから得た書類に基づき、7選手の祖父母の出生届を『再発行』したと説明しています。

しかしFIFAはFAMが存在しないと主張した『原本』を入手した上で、7選手がマレーシア国籍を取得するための書類が1次資料(原本)によるものではないとして、FAMによる精査が不完全であると判断し、今回の裁定を下しています。

これに対してFAMは適切な手続きをすべて踏んでいたと主張しています。具体的にはた。1)選手の申請書は、必要な書類をすべて揃えてマレーシア政府に提出された。2)国民登録局は必要なすべての検証を実施した。3)選手の祖父母とマレーシアのつながりは、マレーシア憲法に基づき認証された。4)FAMは、申請は誠意を持って行い、提出した書類が偽造される可能性があることを知らなかった。

そしてFAMも7名の選手も、提出された書類が偽造されている可能性があることを全く認識していなかったと主張しています。またFIFAが偽造であると主張している文書は、FAMが作成したものではないとして、FAMと選手の行動は正当であり、いかなる意図や過失もないとも主張しています。

*****

ニック・エルマン氏は、CASへの控訴の目的は、裁定そのものに異議を唱えること、あるいは裁定内容の軽減を求めることのいずれかだが、CASの手続きは100万リンギを超えることもあるため、裁定内容軽減のみを訴えても時間と費用に見合わない可能性があるとと説明しています。


イスマイル殿下はCASへの控訴費用全額負担を申し出

FAMとは無関係を主張する一方で、代表チーム強化の中心的人物でもあるジョホール州摂政のトゥンク・イスマイル殿下は、マレーシアサッカー協会(FAM)が7名のヘリテイジ帰化選手に関するFIFAの裁定をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴する際の訴訟費用や弁護団の移動費用など全額を負担することを表明してい4ます。

国内リーグ11連覇中でマレーシア代表チームのおよそ3分の2が所属するジョホール・ダルル・タジム(JDT)のオーナーでもあるイスマイル殿下は、これがFIFAから出場停止処分を受けた選手たちのために正義を求める取り組みを全面的に支持するためであると述べています。またこれを伝えた英字紙ニューストレイツタイムズは、この支援がFAMの財政負担を軽減するとともに、訴訟に関わる弁護団への信頼も示しているとしています。

またかつてはFAM会長を務めたこともあるイスマイル殿下はFIFAに対する最近の自身による批判(詳しくは下)について、FIFAから何らかの報復を受ける可能性についても動じていないと述べています。

*****

このブログでも既に取り上げましたが、イスマイル殿下は、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手への処分に対するFIFAの控訴棄却決定を強く批判しています。

イスマイル殿下はFIFAが規定の適用を誤っていると主張しています。FIFAが今回の処分の根拠としている規程第22条では、「偽造文書を作成または使用した者に対して制裁を科す」となっており、当事者である選手には適用されないと主張し、規定の誤った適用によって選手が不当に処罰を受けていると主張しています。そしてこの誤用については、「『政治的な動機』に基づいているように思われる。」と主張しています。

その上で殿下は「非難する者もいれば、騒ぎ立てる者もいる。しかし私は、選手たちのために最後までどんな犠牲を払ってでも闘い続けることを決意し、その闘いは独立機関であるCASで行われることになる」とも述べています。た。

前FAM会長「公平を期すために訴訟手続きを最後まで進めさせるべき」

前FAM会長で前マレーシア国王でもあるパハン州のアル=スルタン・アブドラ殿下は、現在進行中の調査は適切な手続きをもって進められるべきであり、関係者たちが真実を明らかにするだろうと述べています。

「既に多くの人々が意見を述べているので、この件について私が何かコメントする必要はないだろう。と述べたアル=スルタン・アブドル陛下は、「公平を期すために、手続きを最後まで進めさせまべきだ。そうすれば関係する当事者たちから真実が示されるだろう。」

さらにアル=スルタン・アブドゥラ陛下は、今回のナショナルチームの出来事は、今後同じ過ちを繰り返さないための貴重な教訓とすべきだとも述べています。

「もちろん、この件は今後の全ての人々への警鐘とすべきである。我々はマレーシアのサッカーの発展のために状況を改善する努力を怠らず、また、国内のサッカー界が直面している不安や困難から立ち上がる必要がある」


国籍偽装疑惑選手の1人はクラブが解雇を検討か

マレーシアサッカー協会(FAM)のFIFAへの控訴が失敗に終わったことを受け、アルゼンチン出身のマレーシア代表FWロドリゴ・オルガドが所属クラブとの契約が解除される可能性があると英字紙ニューストレイツタイムズが報じています。

オルガド選手が所属するコロンビア1部のアメリカ・デ・カリは、オルガド選手との契約を解除する手続きを進めているとコロンビアのスポーツ記者パイプ・シエラ氏が自身のX(旧Twitter)に投稿しています。

「クラブ・アメリカは、FIFA控訴委員会からの最新の回答を受け、弁護士を通じてロドリゴ・オルガドの契約解除手続きを進めている。」

FIFAの控訴委員会は11月3日にFAMの控訴を棄却し、FIFA規律委員会による以前の裁定を支持することを発表しています。規律委員会は遡ること9月26日に、FAMには35万スイスフラン(約およそ6660万円)の罰金処分、また、7名のヘリテイジ帰化選手に対しては、マレーシア代表資格を得るための書類偽造に関与したとして、それぞれ12か月の出場停止処分と2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金処分を科していました。

30歳のオルガド選手は2024年からアメリカ・デ・カリに所属しており、これまで77試合に出場して18ゴール5アシストを記録しています。また今年6月4日にマレーシア国籍を取得すると、6月10日のアジアカップ3次予選ベトナム戦で代表デビューを果たし、さらにその試合でマレーシア代表としての初ゴールを決めて、11年ぶりとなるベトナム戦勝利に貢献していました。

11月4日のニュース<br>・国籍偽装疑惑問題-FIFAはマレーシアサッカー協会による控訴を棄却<br>・サッカー協会はFIFAの決定を受け入れた上でスポーツ仲裁裁判所へ控訴準備<br>・トゥンク・イスマイル殿下-FIFAの制裁は「政治的動機によるもの」

国籍偽装疑惑問題-FIFAはマレーシアサッカー協会による控訴を棄却

そうなるとは思っていたけれど、いざ正式に棄却されるとやはり辛い。しかもこの後にはAFCによる処分がまだ残っている…。

FIFAの控訴委員会は11月3日に声明を発表し、国籍偽装疑惑について、マレーシアサッカー協会(FAM)とマレーシア代表として試合に出場したヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)7名に科した制裁を支持することを発表しています。以下はFIFAによる声明全文です。

「FIFA控訴委員会は、マレーシアサッカー協会(FAM)と7名の選手–ガブリエル・フェリペ・アローチャ、ファクンド・トマス・ガルセス、ロドリゴ・フリアン・ホルガド、イマノル・ハビエル・マチュカ、ジョアン・ビトール・ブランダオ・フィゲイレド、ジョン・イラサバル・イラウルギ、エクトル・アレハンドロ・ヘベル・セラーノ–から提出された控訴に対して決定を下した。これは偽造と改ざんに関するFIFA規律規定(FIFA Disciplinary Code、FDC)第22条の違反に対してFIFA規律委員会が出した決定に対しての控訴であった。

提出された意見を分析し、審問を行った後、控訴委員会は控訴を棄却し、FAMと7名の選手に科せられた以下の制裁を全面的に承認することを決定した。

・FAM:35万スイスフラン(およそ6660万円)の罰金支払い。
・ガブリエル・フェリペ・アローチャ、ファクンド・トマス・ガルセス、ロドリゴ・フリアン・ホルガド、イマノル・ハビエル・マチュカ、ジョアン・ヴィトール・ブランダオン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル・イラウルギ、エクトル・アレハンドロ・ヘベル・セラーノはそれぞれ2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金支払い
・前述の選手は、追加制裁としてサッカー関連の全ての活動から12か月間の出場停止

FAMと選手は本日、決定の条件について告知された。これに対して10日以内に理由を付した決定内容についてを開示を求めることができ、この通知後、21日以内にスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴することができる。」

*****

FAMと7名のヘリテージ帰化選手は今年9月、文書偽造に関するFIFA規律規定(FDC)第22条に違反したとして、FIFAの規律委員会から制裁を受けていました。

この制裁についてFIFAは、FAMが7選手の資格を確認するために偽造文書を提出し、6月10日に行われた2027年アジアカップ3次予選ベトナム戦への出場を許可したことを制裁理由に挙げていました。

FAMはその後、7選手の資格確認書類の提出手続きにおいて、事務職員による「軽微なミス」があったことを認める一方で、その後はこの制裁処分に関してFIFAに控訴を行なっていました。

しかしFIFAが控訴を却下したことで、FAMの「軽微なミス」という主張は全く的外れであったということのようです。


サッカー協会はFIFAの決定を受け入れた上でスポーツ仲裁裁判所へ控訴準備

またこれを受けたマレーシアサッカー協会(FAM)は同日、公式サイトでユソフ・マハディ会長代行名で以下のような声明を発表しています。

「FAMは、国際サッカー連盟(FIFA)からの上訴棄却の決定を受け取った。FAMは、スポーツ仲裁裁判所(CAS)への控訴という次のステップに進む前に、FIFAから決定の詳細と理由を書面で入手する予定である。FAMにとってこのような状況に直面するのは初めてであり、弁護士と経営陣は今回の決定に大変驚いている。しかしながら、FAMは今後も選手の権利と国際レベルにおけるマレーシアサッカーの利益のために、断固として闘っていく。」

この声明発表を報じた英字紙ニューストレイツタイムズは、「マレーシアサッカー協会(FAM)はFIFAとの闘争を自国のサッカーを守るための『大戦争』と呼ぶ」の見出しで、FAMがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に申立てを行うため、必要な全ての文書、証拠、主張を準備すると報じています。

FAMのユソフ・マハディ会長代行は、FAMは今回の処分について沈黙を守るつもりはなく、あらゆる手段を尽くし、正義を求めると述べて、マレーシアサッカーの将来に重大な影響を及ぼすと考えられるこの決定に対して、FAMは譲歩するつもりはないと強調しています。

ユソフ会長代行は、さらに法廷闘争は長期化し、費用もかかる可能性があると認めた上で、FAMは国際社会でマレーシアの評判を守るためにその重荷を負う覚悟があると主張、。また同時に、国内サッカーファンには、引き続きFAMへの祈りと支援を求めたいとしています。


トゥンク・イスマイル殿下-FIFAの制裁は「政治的動機によるもの」

現在のマレーシア代表は、ジョホール・ダルル・タジム(JDT)の選手が全体の3分の2近くを占めますが、そのJDTのオーナーでもあり、マレーシア代表強化の中心的存在でもあるジョホール州摂政のトゥンク・イスマイル殿下は、今回のFIFAの決定を激しく非難する内容を自身のSNSに投稿しています。

マレーシアサッカー協会(FAM)とは距離を置きながらも、代表チームの「アドバイザー」でもあるイスマイル殿下は、FIFAの行動は自らの規定を誤って適用していると主張しています。

「FIFAは規定を誤用して選手を処罰し続けている。FIFA規約第22条では、制裁は偽造文書を作成または使用した者に対してのみ課せられると規定されているが、その規定は選手には適用されない」

「言い換えれば、この制裁は法律に基づかずに課されており、他の何物よりも政治的な動機によるものであるように思われる。」

と投稿したイスマイル殿下は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に訴訟を持ち込む準備をする選手たちを今後も支援していくとも綴っています。

「非難する者もいれば、騒ぎ立てる者もいる。しかし私は、最後までいかなる犠牲を払ってでも選手たちのために立ち上がって闘うことを選んだ。闘いは今後、独立機関であるCASで行われることになる」と投稿を締め括っています。

*****

殿下の投稿の「制裁は偽造文書を作成または使用した者に対してのみ課せられると規定されているが、その規定は選手には適用されない」という部分は、偽造文書を作成、使用したFAMが処分を受けるのは当然だが、選手は処分を受けるべきでないと主張しているように読み取れます。ヘリテイジ帰化選手7名の知らないところでFAMが偽造文書を作成した、という事実が証明できない限りこの主張は筋が通らないと思いますが、果たしてこの主張に賛同する者はいるのでしょうか。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節 試合結果とハイライト映像<br>・FAカップ準決勝の前哨戦はスランゴールが勝利<br>・クチンはロナルド・ンガのハットトリックなどで3位堅守<br>・イミグレセンが待望の1部昇格後初勝利

国籍偽装疑惑へのFIFAの処分に対して、7選手とマレーシアサッカー協会(FAM)が控訴を行いましたが、その最終判断が発表される予定だった10月30日から既に3日が経ちました。この間の報道によると、FIFAはこの件がマレーシアサッカー界だけでなく、今後世界中で帰化や資格問題がどのように扱われるかに関わる繊細な問題であることを理解しており、その規模と影響を考慮して、FIFAは慎重なアプローチを取り、最終判断を急いでいない、などと報じられています。

そんな状況下でもマレーシアスーパーリーグは平常運転。第9節の4試合が10月31日から11月1にかけて行われています。なお今季のマレーシアスーパーリーグは13チーム編成のため、今節はマラッカFCの試合はありません。
*ハイライト映像はマレーシアンフットボールリーグの公式YouTubeチャンネルより。


ジョホールは難敵トレンガヌを相手にジャイロのハットトリックなどで完勝

先日のFAカップ準々決勝ではクチン・シティに敗れて敗退が決まったトレンガヌ。そこから気持ちを切り替えて、という時に当たったのは絶好調のジョホールでした。

開始5分でベルグソン・ダ・シウバが自身の持つマレーシアスーパーリーグ最多ゴール記録を114に更新する先制ゴールを決めてジョホールがリードを奪います。しかしトレンガヌもケガから復帰し3試合ぶりの先発となった前ジョホールのアキヤ・ラシドを中心に反撃しますが、何度かあった同点機を逃します。そうする間にジョホールはコロンビア出身のマレーシア代表FWロメル・モラレスがゴールを決めてリードを広げ、前半を終了します。

後半に入ると途中出場のジャイロ・ダ・シルバが出場わずか3分でゴールを決めるとそこからトレンガヌのミスなどもあり出場からわずか16分でハットトリックを達成。大量点に守られたジョホールが完勝し、開幕から9連勝を飾っています。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年10月31日@スルタン・ミザン・ザイナル・アビディン・スタジアム(トレンガヌ州ゴン・バダ)
トレンガヌ 0-5 ジョホール・ダルル・タジム
⚽️ジョホール;ベルグソン・ダ・シウバ(5分)、ロメル・モラレス(31分)、ジャイロ・ダ・シウバ3(64分、71分、77分)
MOM:ハイロ・ダ・シウバ(スランゴール)


FAカップ準決勝の前哨戦はスランゴールが勝利

奇しくも11月30日のFAカップ準決勝と同じカードとなったこの試合は、今季リーグ戦は未勝利のサバがホームにスランゴールを迎えての対戦となりました。

U23代表FWファーガス・ティアニーの移籍後初ゴールで先制したサバでしたが、前半終了間際にアルヴィン・フォルテスのゴールでスランゴールが追いつき、前半は1-1で終了します。

後半は両チームがせめぎ合う中、60分にスランゴールが逆転します。この試合がトップチーム初出場となったスランゴールU23キャプテン、ライミ・シャムスルが右サイドからペナルティエリアに侵入にし、ゴール前へ低いクロス。これはサバDFドミニク・タンがクリアしたものの、そのボールは左サイドを駆け上がったエース、ファイサル・ハリムの足元へ。このボールを落ち着いて蹴り込んだファイサルのゴールで挙げた1点を守り切り、スランゴールが遅まきながら今季初の連勝となりました。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年11月1日@リカス・スタジアム(サバ州コタ・キナバル)
スランゴール 2-1 サバ
⚽️スランゴール;アルヴィン・フォルテス(45分)、ファイサル・ハリム(60分)
⚽️サバ:ファーガス・ティアニー(9分)
MOM:ファイサル・ハリム(スランゴール)


クアラルンプールは無敗記録を8に伸ばす

首位ジョホールを勝点差7で追う2位のクアラルンプールが、今季初の連勝を狙うクラン担と対戦。

昨季はわずか2勝で最下位に終わったクランタンは、今季は第8節を終えて既に3勝。さらにこの試合前までは6位と好調です。そんなクランタンを相手にクアラルンプールは無得点で前半を折り返します。

試合が動いたのは65分。チーム得点王のサファウィ・ラシドがドリブルでペナルティエリアにボールを持ち込むと、クランタンDFを引きつけてからカットバックでゴール前へパス。これをクパー・シャーマンが落ち着いて押し込み今季初ゴール。クアラルンプールが先制します。

さらに81分には交代出場のザフリ・ヤーヤが追加点を決めたクアラルンプールが、クランタンの反撃を1点に抑えて勝利。無敗記録を8に伸ばしています。

この試合で気になったのは、クランタンは今季ここまでの7試合でいずれも先発し、チームトップの4ゴールを挙げていたキャプテンのFWイフェダヨ・オルセグン、そして6試合先発のMFハビブ・ハルーンがなぜかベンチスタートだったこと。E・エラバラサン前監督の「休養」に伴い就任したアクマル監督はこの試合が2試合目の采配でした。が、「より熱心にトレーニングに取り組み、試合の戦術プランに合致する選手を地元選手、若手選手、外国人選手を問わず、起用していく。」と試合後の会見で説明しています。昨季はペナンの監督してスタートしながら「休養」となったアクマル監督ですが、チームの主力といえども容赦ない器用には賛否が分かれそうです。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年11月1日@KLフットボールスタジアム(クアラルンプール)
クアラルンプール・シティ 2-1 クランタン・ザ・リアル・ウォリアーズ
⚽️クアラルンプール;クパー・シャーマン(65分)、ザフリ・ヤーヤ(81分)
⚽️クランタン:シャフィク・イスマイル(90+2分)
MOM:ザフリ・ヤーヤ(クアラルンプール・シティ)


クチンはロナルド・ンガのハットトリックなどで3位堅守

過去2試合はいずれも下位のサバ、ペナンを相手に2試合で2ゴールのみのクチンは、2戦連続で無得点で敗れているPDRMと対戦。このためこの試合も僅差の試合が予想されました。

しかし、クチンは13分に谷川由来選手のヘディングシュートで早々と先制すると、そこからはエースのロナルド・ンガが38分までにハットトリックを決め、前半だけで4点をリードします。

この試合は現地観戦しましたが、前半は両チームともにチャンスはあり、それを確実に得点につなげたクチンとそれができなかったPDRMという展開でした。ただしボールの競り合いになるとクチンの選手が競り勝つ場面が多く、ボールへの執着はクチンが圧倒していました。また主審の判定も不安定で笛を吹くタイミングが悪く、PDRMに不利な判定に思える場面がいくつかありました。

クチン・シティの谷川由来選手は先発して今季初ゴールを決め、試合終了までプレーしています。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年11月1日@MPSスタジアム(スランゴール州スラヤン)
PDRM 0-5 クチン・シティ
⚽️クチン:谷川由来(13分)、ロナルド・ンガ3(20分、31分、38分)、ラマダン・サイフラー(54分PK)
MOM:ロナルド・ンガ(クチン・シティ)


ヌグリ・スンビランはPK2本を許して引き分けに

昨季は13チーム中12位だったヌグリ・スンビランは、シーズン当初はスランゴールを破るなど絶好調でしたが、シーズンが進むにつれてやや息切れ気味。10月に入るとFAカップは準々決勝でスランゴールに4失点で敗れ敗退、リーグ戦でも下位のペナンに今季初勝利を許すなど、不安定な試合が続いています。

そんな中でこの日は今季からマレーシアリーグに参入したDPMMと対戦。前節はジョホールに10失点の相手は今季ここまで1勝と苦しんでおり、この試合に勝って勢いをつけたいところでした。

前半を0−0で折り返した試合は、ヨヴァン・モティカのフリーキックをジョセフ・エッソが頭で合わせてヌグリ・スンビランが54分に先制します。しかし62分に今度はペナルティエリア手前でフリーキックをDPMMに与えると、ハキミ・ヤジド・サイードのFKがゴール前に作った壁にいたクザイミ・ピーの手に当たってしまいます。VARが入った結果、判定はハンド。これにより得たPKをジョーダン・マレーが決めて、DPMMは同点に追いつきます。

しかしヌグリ・スンビランはその4分後、ヨヴァン・モティカのゴールで再びリードを奪いますが、今度は81分にこの試合がマレーシアリーグ出場2試合目となったモンゴル代表DFフィリップ・アンダーソンがペナルティ・エリア内でハンド。この試合2度目のPKを得たDPMMは再びマレーが決めて、試合は引き分けに終わっています。

ヌグリ・スンビランの佐々木匠選手はキャプテンとして先発してフル出場、常安澪選手は80分から交代出場し、試合終了までプレーしています。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年11月2日@ハサナル・ボルキア国立競技場(ブルネイ)
DPMM 2-2 ヌグリ・スンビラン
⚽️DPMM:ジョーダン・マレー2(62分PK、81分PK)
⚽️ヌグリ・スンビラン:ジョセフ・エッソ(54分)、ヨヴァン・モティカ(66分)
MOM:ジョーダン・マレー(DPMM)


イミグレセンが待望の1部昇格後初勝利

クラブ史上初の1部昇格を果たしたイミグレセンFCは、マレーシア政府の出入国管理局(イミグレーション)が母体のクラブ。元々は出入国管理局がある行政首都のプトラ・ジャヤに本拠地を置くクラブですが、リーグ基準に合うスタジアムがないことから、1部昇格に伴い、今季はペナン州バトゥ・カワンにあるペナン州立スタジアムをホームとしています。

初の1部ということもあってか、イミグレセンは今季ここまで3分4敗と未だ勝利がなく、この試合前は最下位に低迷しています。同じペナン州を本拠地とするペナンFCと初の「ペナンダービー」となったこの試合は、前半は0-0で終了します。

今季1勝のペナンを相手に先手を取ったのは未勝利のイミグレセンでした。59分にファズルル・ダネルのシュートをペナンGKが弾いたところをヴィルマー・ホルダンが押し込んでリードを奪います。

両チームとも今季7試合通算得点がいずれも5得点ということもあってか、その後は共にゴールを奪うことができず、結果的にイミグレセンが逃げ切り、待望の1部初勝利を挙げています。またこの結果、イミグレセンは一気に8位まで順位を上げています。

2025/26マレーシアスーパーリーグ第9節
2025年11月2日@シティ・スタジアム(ペナン州ジョージタウン)
ペナン 0-1 イミグレセン
⚽️イミグレセン:ヴィルマー・ホルダン(59分)
MOM:ザリフ・イルファン(イミグレセン)


2025/26マレーシアスーパーリーグ順位表(第9節終了)

チーム勝点
1ジョホール99004834527
2クアラ・ルンプール86201641220
3クチン85211841417
4トレンガヌ84132014613
5スランゴール84131410413
6ヌグリ・スンビラン73221411311
7クランタン9324916-711
8イミグレセン8134617-116
9PDRM8134822-146
10ペナン8125516-115
11DPMM8125628-225
12サバ8044518-134
13マラッカ603339-63

2025/26マレーシアスーパーリーグ得点トップ10(第9節終了)

得点選手名所属
110ベルグソン・ダ・シウバジョホール
10ジャイロ・ダ・シウバジョホール
37アリフ・アイマンジョホール
7ロナルド・ンガクチン
56ヤン・マベラトレンガヌ
6ジョアン・フィゲイレドジョホール
6ヨヴァン・モティカヌグリ・スンビラン
85クリゴール・モラエススランゴール
5サファウィ・ラシドクアラルンプール
5ジョセフ・エッソヌグリ・スンビラン

11月1日のニュース<br>・国籍偽装疑惑問題-アルゼンチンのニュースポータルがガルセス、マチュカ両選手の祖父母がマレーシア生まれでないと報道

国籍偽装が疑われるマレーシア代表のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)7名に対し、FIFAはマレーシアサッカー協会(FAM)に罰金、7選手に対しては罰金と12ヶ月に及ぶあらゆるサッカー活動への参加禁止処分を科したのが9月26日。これに対してFAMは10月14日にFIFA控訴委員会に正式な上訴書を提出して控訴を行いました。この控訴内容を審議し、FIFAが最終判断を下すのが10月30日と発表されていましたが、この記事の執筆時点ではFIFAからの発表はありません。

マレーシアのニュースポータルサイトであるスクープは、「事情に詳しい関係者」の話として、控訴委員会が控訴手続き中にFAMが提出した特定の祖先に関する文書について追加の説明を求めたと報じています。この関係者によると、この事件の規模と影響を考慮して、控訴委員会は慎重なアプローチを取っている、ということです。

さらにその関係者は「書類にはまだ矛盾点がいくつかあり、相互検証が必要だ。最終判決はどちらに転ぶか分からないが、完全な無罪判決が出る可能性は極めて低いだろう。」とも述べているということです。

またスクープは、控訴委員会に近い別の関係者の話として、FIFAはこの件がマレーシアサッカー界だけでなく、今後世界中で帰化や資格問題がどのように扱われるかに関わる繊細な問題であることを理解しており、裁定の正当性に影響を与えないよう徹底することに熱心であり、最終判断を急いでいない」と付け加えたということです。

国籍偽装疑惑問題-アルゼンチンメディアがガルセスとマチュカの祖父母がマレーシア生まれでないと報道

そんな中、アルゼンチンのニュースポータルサイトが自国出身のヘリテイジ帰化選手2名について、その祖父母の出身地がマレーシアではなくアルゼンチンであると報じています。

アルゼンチンのニュースポータルサイト(Capital de Noticias(CDN)を引用する形で、マレーシアの英字紙ニューストレイツタイムズが報じているのは、いずれも今年6月にマレーシア国籍を取得し、6月10日のAFCアジアカップ予選ベトナム戦に出場したDFファクンド・ガルセス(スペイン1部デポルティーボ・アラベス)、FWイマノル・マチュカ(アルゼンチン1部ベレス・サルスフィエルド)両選手の持つマレーシアのルーツについての情報です。

CDNはこの両選手の祖父母の出身地について新たな証拠を発見したと報じています。ガルセス選手の祖父は1930年5月29日にアルゼンチン北部のサンタフェ州の州都サンタフェ・デ・ラ・ベラクルスで生まれ、またマチュカ選手の祖母は同じサンタフェ州のロルダンという街で生まれたとし、記事には出生届の写真も掲載されています。

なおこのCDNの記事を引用しているニューストレイツタイムズは、この記事にその写真が記載されている出生届については公式文書であるかどうかについては確認が取れていないと注意書きも記載しています。

FAMがFIFAに提出した書類では、ガルセス選手の祖父、マチュカ選手の祖母にいずれもペナン生まれと記載されており、これが両選手の持つマレーシアのルーツとして、マレーシア代表としてベトナム戦に出場していました。

国籍偽装疑惑は、この両選手に加えてアルゼンチン出身のFWロドリゴ・オルガド(コロンビア1部アメリカ・デ・カリ)、スペイン出身のDFガブリエル・パルメロ(スペイン3部ウニオニスタス・デ・サラマンカ)とDFジョン・イラザバル(ジョホール・ダルル・タジム)、ブラジル出身のFWジョアン・フィゲイレド(ジョホール・ダルル・タジム)、オランダ出身のMFエクトル・へヴェル(ジョホール・ダルル・タジム)の5選手も処分の対象となっています。


FIFAの最終判断が出る前に、今回の国籍偽装疑惑問題のこれまでの経緯を振り返ってみると以下のようになります。

2024年

  • 年末:マレーシアサッカー協会(FAM)がヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ選手)」の発掘を開始を発表。
  • 12月4日:ハミディン・アミンFAM会長が2025年1月の任期終了を前に再選を目指さないことを発表。
  • 12月16日:マレーシア代表監督にピーター・クラモフスキー氏就任。
  • 12月30日:マレーシア代表CEOにロブ・フレンド氏就任。

2025年

  • 1月11日:トゥンク・イスマイル殿下が6〜7人のヘリテイジ帰化選手候補を特定したことを発表。
  • 1月(時期不明):ヘリテイジ帰化選手たちのMyKad(マレーシア国民身分証)申請が開始される。
  • 2月15日:FAM会長にジョハリ・アユブ氏が就任。
  • 3月25日:ヘリテイジ帰化選手のヘクター・ヘベルがマレーシア代表デビュー(マレーシア対ネパール戦)。
  • 5月29日:ヘリテイジ帰化選手のガブリエル・パルメロがマレーシア代表デビュー(マレーシア対カーボベルデ戦)。
  • 6月10日:いずれもヘリテイジ帰化選手のファクンド・ガルセス、ロドリゴ・オルガド、ジョン・イラサバル、ジョアン・フィゲイレード、イマノル・マチュカがマレーシア代表デビュー(マレーシア対ベトナム戦)。
  • 6月11日:ヘリテイジ帰化選手のマレーシア代表資格(国籍偽装)についてFIFAに正式な苦情が送付される。
  • 8月27日:ジョハリ・アユブFAM会長が病気を理由に辞任。
  • 9月26日:FIFAが制裁処分発表。FAMに罰金処分、7人の帰化選手には罰金と12ヶ月の出場停止処分が下される。
  • 9月27日:内務大臣が、7人のヘリテイジ帰化選手の国籍取得はマレーシア連邦憲法に基づくものであると説明。
  • 10月6日:FIFAが「決定理由通知書(Notification of ground of decision)」をFAMに送付。
  • 10月7日:FAMが控訴の意向を正式に表明。
  • 10月14日:FAMがFIFA控訴委員会に正式な上訴書を提出。
  • 10月17日:FAMがノー・アズマン事務総長の無期限停職処分を発表。
  • 10月25日:トゥンク・イスマイル殿下がヘリテイジ帰化選手の国籍偽装疑惑問題に関する記者会見を開催。
  • 10月27日:ラウス・シャリフ元最高裁長官がFAM設立の独立調査チームのトップに任命される。
  • 10月30日:FIFAがFAMの控訴に対する最終決定を発表する予定
    *しかし、11月1日午前10時現在(マレーシア時間)発表なし。

10月30日のニュース<br>・国籍偽装疑惑:パハン州皇太子が7人のヘリテイジ帰化選手をFAMに推薦したことを明かす<br>・イスマイル殿下が会見「FAMでの役職はない。ただ代表チームを支援したいだけ」<br>・FAMの独立調査委員会には元最高裁長官が就任<br>・FIFAアセアンカップ新設-ASEAN11カ国が参加へ

本日10月30日は、ここおよそ1ヶ月に渡ってマレーシアサッカーを揺るがしているヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)の国籍偽装疑惑についてFIFAが最終判断を明らかにすることになっています。

9月26日にFIFAは国籍偽装に関わったとしてマレーシアサッカー協会(FAM)に対しては罰金を科し、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手にはそれぞれの罰金と12か月の出場停止処分を下しています。FAMはこの処分に対してFIFAに控訴しており、その最終判断が本日発表されることになっています。

国籍偽装疑惑:パハン州皇太子が7人のヘリテイジ帰化選手をFAMに推薦したことを明かす

パハン州皇太子で前国王のアブドラ国王の弟君でもあるトゥンク・ムダ・パハンことトゥンク・アブドル・ラーマン・スルタン・アフマド・シャー殿下は、FIFAから処分を受けた7名のヘリテージ帰化選手について、自身がマレーシアサッカー協会(FAM)に推薦した選手の中に含まれていたことを明らかにしています。

殿下は、自身の推薦はマレーシア代表を強化するための取り組みの一環だったと説明し、きっかけは昨年、数名の代理人から、評価を目的として複数の選手を紹介する連絡を受けたと話しています。

「私はその提案をFAMに送り、より詳細な評価を行うように求めた。これは彼らがヘリテイジ帰化選手として代表チームでプレーする資格を持つかどうかを判断するためだ」と、殿下は10月24日にメディアに向けた声明で明らかにしています。

さらに殿下は、7人の選手はいずれも政府の法的手続きに基づいて市民権を付与された、正真正銘のマレーシア国民であると強調した上で、選手の推薦はマレーシアにルーツを持つ選手たちが国のために貢献する機会を得られるようにという善意から行ったものだ」とも説明しています。

またこの声明の中でトゥンク・アブドル・ラーマン殿下は、ジョホール皇太子トゥンク・イスマイル殿下に対し、ジョホール・ダルル・タジム(JDT)を通じて国内サッカーのレベル向上、クラブ運営のプロフェッショナリズム確立に尽力していることへの敬意を表しています。

*****

パハン州もこれまでに、ガンビア出身のFWモハマドゥ・スマレ(現在はジョホール所属)、アルゼンチン出身のMFエゼキエル・アグエロ(現在はタイ1部カーンチャナブリーパワーFC)、リー・タック(引退)といった選手のマレーシア国籍取得に関わり、マレーシア代表の強化に貢献してきたことについても、トゥンク・アブドル・ラーマン殿下は声明の中で述べていますが、上記の3選手はいずれもマレーシア国内で5年間正確したことで代表資格を得た帰化選手で、今回のヘリテイジ帰化選手とは別のケースです。

父君のアフマド・シャー殿下は1994年から2002年までAFCの会長を務め、FAMによる会長を1994年から2014年まで務めたこともあり、兄君のスルタン・アブドラ殿下もAFCの理事やFIFA評議会の委員を務めたことがあるなど、パハン州の王族は国内外でサッカーに関わってきたこともあり、選手の売り込みなどが集まってきやすい環境だったのかもしれません。しかし、FAMへ推薦した選手を売り込んできたのがどの代理人なのかは、トゥンク・アブドル・ラーマン殿下が口を開かない限りわからなくなってしまいました。

このブログでも取り上げてきたように、FIFAはFAMが提出した祖父母の出生証明書などの一部の補足書類に、選手の実際の出生国における公式記録と一致しない情報が含まれていたとして、マレーシアサッカー協会(FAM)および7名のヘリテイジ帰化選手に対する懲戒処分の詳細な理由書を公表した。なおFAMはすでに控訴を行っており、7人の選手の代表資格手続きに不正は一切なかったと主張、さらにFIFAに提出されたすべての書類は正式な手続きに従って取得されたものであると強調しています。


イスマイル殿下が会見「FAMでの役職はない。ただ代表チームを支援したいだけ」

10月25日にクアラルンプール郊外のホテルで、ジョホール州摂政でジョホール・ダルル・タジムFCのオーナーとしても知られているトゥンク・イスマイル殿下の記者会見が行われました。

会場にはマレーシアサッカー協会(FAM)のバナーとロゴが掲げられる一方で、壇上に設けられたのはトゥンク・イスマイル殿下の席一つと異例のセッティング。しかも報道によると、会長不在の現在、会長代行を務めるユソフ・マハディ副会長や、今年1月まで会長を務めたはアミディン・アミン名誉会長らFAMの幹部は壇上ではなく一般席に座っていたということです。

なぜかジョホール・ダルル・タジムFCの公式SNSでもライブ配信されたこの会見には、およそ30名ほどの報道関係者が集まり、イスマイル殿下は「何でも自由に質問してほしい」とメディアに呼びかけ、その言葉どおり率直に答えています。

メディアサイトのTwentytwo13から「FAMの代表ではないあなたが、どの立場でメディアに対応しているのか」と問われた殿下は以下のように答えています。

「数か月前、FAMから『代表チームプロジェクト』への関与を求められたからだ。
インフラ、人的ネットワーク、予算、必要なことなら何でも支援すると約束した。代表チームは我々にとって非常に大切な存在です。各州のサッカー協会を含むマレーシアの全てのサッカー関係者が、選手育成やリーグ運営、スポーツ施設の活用を通じて、代表を支える役割を果たすべきだと思います。」と答えてイスマイル殿下は、その一方で以下のような発言もしています。

「私はFAMでの役職は持っていない。しかし代表を支援したい。そのためにここに来ている。」

さらにイスマイル殿下は、代表チーム支援のためマレーシア政府に働きかけ、FAMが資金を確保できるよう助力したことも明かしています。その説明通り、2025年度予算の審議で、アンワル・イブラヒム首相は「代表強化のために」1,500万リンギ(およそ5億4300万円)を割り当てています。またこの件について、代表チームのロブ・フレンドCEOは、10月17日にFAC本部で開かれた記者会見で「このプロジェクトには3つの主体が関わっている」と述べ、トゥンク・イスマイル殿下、代表チーム、そしてFAMの名を挙げています。(ただしその直後すぐに「FAMが主導機関である」と補足していました。)

なおイスマイル殿下は、政府からの支援金の具体的な使用方法については把握しておらず、資金はFAMを通じて管理されており、代表チーム関係者もFAMに報告していると説明しました。

*****

さらにTwentytwo13から自らの役割を定義する正式文書があるかと問われた殿下の回答は以下のようなものでした。

「その必要はないと思っている。私は国内で最も充実したサッカー施設を持っており、この「業界」の一員である。代表チームが支援を必要とするなら、できる限りそれを行う。」

またジョホール・ダルル・タジムFCのオーナーという立場が利益相反になるのではとの指摘には、こう反論しています。

「利益相反だとは思っていない。FAMを支援するのはクラブも協会も立場は変わらない。私が代表チームに関わることで得られる『利益』などなく、むしろリスクの方が大きい。それは何か問題が起きれば責められるのは私自身だからだ。しかしそれでも私は善意でやっているのだ。」

また、かつて2017から2018年にかけて務めたFAM会長職への復帰の可能性を問われた際の回答は以下のようなものでした。

「(会長職は)もう経験済みだが、(2017年から2018年)当時も、FAMを常勤で運営できる人物に任せていた。(当時事務局長だった)ハミディン・アミン氏はとてもよくやってくれたと思っている。現在の私には多くの責務があり、再びFAMに戻るつもりはない。」

*****

さらにFIFAの規律委員会によって12ヶ月の出場停止処分を受けた7名のヘリテイジ帰化選手(ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、ロドリゴ・オルガド、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、エクトル・ヘヴェル) に関して、イスマイル殿下は「約27人の候補を代理人から紹介された」と明かしています。そしてそのうち7名だけが国民登録局(NRD)の要件を満たし、市民権を得たと説明した上で、独立調査の結果を待つ間、FAMがノー・アズマン・ラーマン事務総長を無期限職務停止とした判断に異議を唱えています。

「このプロジェクトには、スカウト、採用担当、事務担当なお多くの人が関わってきた。今回の処分については、全員が責任を共有すべきであり、それはロブ・フレンドCEOも例外ではない。責任の押し付け合いの結果、事務総長だけを責めるのは間違いであり、今は問題解決に集中すべきだ。」

また、以前に自身のSNSに投稿した際に「ニューヨークから苦情があった」と述べた件についても説明し、実際は「6月10日のベトナム戦(4-0の勝利)に関する抗議は、ベトナム国内の第三者から出されたもので、ベトナムサッカー協会(VFF)からのものではなかった」と明らかにしています。
注)「ニューヨークから苦情があった」とは、殿下がFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長とインドネシアサッカー協会のエリク・トヒル会長が一緒に写っている写真と共に自身のSMGBに行った投稿を指しています。

さらにイスマイル殿下は、「マレーシア代表の立場は厳しいが、FAMは最後まで戦う姿勢を示していると述べ、代表チームのFIFAランキングはここ数か月で上昇している」と述べた上で、最後に皮肉を交えてこう締めくくった。

「私を責めることで、誰かが夜ぐっすり眠れるのなら、喜んでその役を引き受けるつもりだ。」


FAMの独立調査委員会には元最高裁長官が就任

マレーシアサッカー協会(FAM)は、12ヶ月の出場停止処分を受けた7名のヘリテイジ帰化選手に関する国籍偽装疑惑問題を調査するため、元最高裁長官ラウス・シャリフ氏を委員長とする独立調査委員会を設置したと発表しています。

この国籍偽装疑惑問題についてFAMは、7名のヘリテイジ帰化選手に関しての書類をFIFAに提出する際に、担当したFAMの職員が国民登録局(NRD)が発行した7名の正式な身分証明書ではなく、選手代理人から提出された書類を誤ってアップロードしてしまったという「事務的なミス」が原因だと説明しています。

この「誤った書類」を理由に、9月26日にFIFAは国籍偽装に関わったとしてFAMに対して35万スイスフラン(およそ6690万円)の罰金を科し、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手にはそれぞれ2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金と12か月の出場停止処分を下しています。

10月17日にFAM本部で開かれた記者会見でシヴァスンダラムFAM副会長は、公正かつ透明な調査を行うため、独立委員会にはFAMの関係者を一切含めないと発表していました。

ラウス氏は2017年にマレーシア最高裁判所の長官を務め、法曹界で数十年にわたる経験を持ち、数多くの要職を歴任してきた人物で、Fラウス氏および彼が指名する独立委員会のメンバーが、徹底的かつ専門的な調査を行うことが期待されています。

なおこの登録手続きを監督していたノー・アズマンFAM事務局長は、無期限の職務停止処分を受けており、FAMは既にFIFAに対し処分に対する正式な控訴を提出しており、最終的な判断は本日10月30日に下される見通しです。

FIFAアセアンカップ新設-ASEAN11カ国が参加へ

10月24日から26日かけてマレーシアのクアラルンプールで開催されていたASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)首脳会談。これに合わせてマレーシア入りしていたFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は「FIFAアセアンカップ」の創設を発表しています。これは今回のASEAN首脳会議でそれまでのオブザーバーというポジションから正式にASEAN加盟が認められた東ティモールを加えた加盟全11カ国が参加する地域サッカー大会となるということです。

インファンティーノFIFA会長は、この大会について「地域のサッカーに新たな命を吹き込み、世界で最も人気のあるスポーツを通じてASEANの団結を象徴するもの」と述べています。

インファンティーノFIFA会長とカオ・キム・ホーンASEAN事務局長による、FIFAとASEANのサッカー発展に関する覚書(MoU)署名式後の記者会見では、この大会が、FIFAの国際マッチカレンダー内で開催されることも明らかにし、域内の最高の選手たちが競うことでサッカーを大きく発展させ、地域にとどまらず世界に輝きを放つことを目指すとし、このFIFAアセアンカップは、この地域で大成功を収めるだろうとも述べています。

*****

今回発表された「FIFAアセアンカップ」ですが、この新大会の具体的な詳細については何も明らかにされませんでした。この地域には1996年の第1回大会から続いてる「アセアン選手権」があり、これまで「スズキカップ」、「三菱電機カップ」そして2026年からは現代自動車が冠スポンサーとなり「現代カップ」に改称されるこの大会との関係については一切説明ありませんでした。このアセアン選手権は例年、年末から年始にかけて行われ、FIFA国際マッチカレンダー外で行われることから、代表の主力選手が集まるジョホール・ダルル・タジムFCは選手の招集にほぼ応じず、マレーシア代表はベストメンバーを組めずに大会に参加しています。FIFAアセアンカップは国際マッチカレンダー内での開催ということで、クラブが選手の招集を拒否することはできなくなるという点では本当の代表チーム同士の対戦になりますが、そうなるとアセアン選手権が今後も続く意味がなくなり、消滅してしまう可能性もあります。

*****

またこのMoU署名式後の会見では、同じイスラム教国としてマレーシアと国交があるパレスチナ問題に関連する形で、マレーシアメディアからFIFAがロシアを出場停止とする一方でイスラエルのワールドカップ予選参加を許可している「二重基準」について質問を受けたインファンティーノ会長は、「サッカーは政治的または地政学的な問題に影響されるべきではなく、あくまで人々を結びつける力であるべきだ」となんとも答えにならない返答をしていました。

またこの日の署名式には10月17日に国籍偽装疑惑問題で「事務的なミス」の責任を取らされる形でFAMから無期限の職務停止処分を受けているノー・アズマン元FAM事務局長の姿も目撃されています。

その後FAMの声明を発表し、ノー・アズマン元FAM事務局長はこのイベントに公務ではなく、「個人の立場」で参加していたことを明らかにしています。

ユソフ・マハディFAM会長代行は、メディアに掲載された写真は、FAMやFIFAの公式行事や式典とは関係のない場で撮影されたものだと説明し、10月17日の停職処分以降、ノー・アズマン元FAM事務局長はFAMの公式活動、会議、またはプログラムには一切関与していないとも説明しています。

*****

またFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長とジョホール・ダルル・タジムFCオーナーのトゥンク・イスマイル殿下が会談する様子を写した写真がインターネット上で拡散し、インファンティーノ会長のクアラルンプール訪問が制裁問題と関係しているのではとの臆測が報じられました。両者は10月26日に会談し、マレーシアサッカーの発展と将来の方向性について協議したと報じられています。

なおイスマイル殿下は前述の通り、前日10月25日に自身が開いた会見の中で、FAM内に自分の役職はなく、単に代表チームを支援している「一個人」いう立場を説明していました。

またこの会談がFIFAによるマレーシアサッカー協会(FAM)への制裁問題に関連しているのではないかという憶測がSNSなどで広がると、イスマイル殿下は「責任の押し付け合いをするために集まったのではなく。解決策を見つけ、マレーシアのサッカーのために強固な基盤を築くため」の会談であったと説明しています。

またFIFAも公式サイト上で声明を発表し、インファンティーノ会長の訪問は制裁問題とは無関係であり、公式業務出張の一環であったと明言しています。