5月10日のニュース<br>・スランゴールFCの出場辞退によりMFLはスンバンシー・カップの中止を決定<br>・スランゴール州スルタンがスランゴールFCのスンバンシー・カップ出場辞退を支持<br>・東南アジアクラブ選手権の組み合わせ決定ーKLシティはACL経験を持つ3チームと同じ「死の組」に

昨夜の大陸間プレーオフでギニア(アフリカ4位)に惜敗したインドネシアの長かった冒険が終わりました。まさかこの大陸間プレーオフまで試合が続くとは思っていなかったのか、この試合はU23アジアカップのメンバーから主力が抜ける苦しい布陣で臨むことになりました。しかし、この経験は協会にとっては重要な経験となったはず。これでまたマレーシアはインドネシアに話されてしまったなぁ。

マレーシア国内に目を転じると、本日予定されていた2024/25シーズン開幕戦を兼ねていたスンバンシー・カップがスランゴールFCの出場辞退により中止になりました。今日のニュースはこの話からです。

スランゴールFCの出場辞退によりMFLはスンバンシー・カップの中止を決定

国内リーグを運営するマレーシアン・フットボール・リーグ(MFL)は公式サイトで、本日5月10日に予定されていたスンバンシー・カップ2024についてスランゴールFCが出場を辞退したために中止とし、またこの試合が今季2024/25シーズン開幕戦も兼ねていたことから、ジョホール・ダルル・タジムFC (JDT)を開幕戦の3−0の勝者として勝点3を与えることを発表しています。

5月5日に起こったファイサル・ハリムが酸をかけられた事件を受け、スランゴールFCは「安全上の理由」からこのスンバンシー・カップの延期をMFLに求めていましたが、ジョホール州警察が警官を増員して警備を行うなど対策は十分にとられているとして、MFLはスランゴールFCの試合延期申請を却下していました。

MFLによる発表では、スランゴールFCCの出場辞退にに関連する問題は、さらなる検討のためにMFLの取締役会で議論されることも明らかにしています。

スンバンシー・カップ(スンバンシーはマレーシア語で「貢献」の意味)は、英国のチャリティー・シールド(現FAコミュニティー・シールド)を模して1995年から始まったカップ戦で、前年のリーグチャンピオンとマレーシアカップチャンピオンが対戦する「スーパーカップ」です。昨シーズンはJDTがリーグ、マレーシアカップ、FAカップ全てに優勝する国内三冠を達成していることから、今回は昨季リーグ2位のスランゴールFCがJDTと対戦することになりました。

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今回の一件で明らかになったのは、スンバンシー・カップはリーグ戦とは切り離して行うべき、ということです。JDTのホームで行われる今回のスンバンシー・カップは、ファイサル選手の事件の前から不穏な空気になっていました。手始めには、スランゴールFCから申請がなかったという理由でJDTがアウェイサポーター向けチケットを発売しないと発表したことでした。JDT主催のリーグ戦ならまだしも、このカップ戦はMFL主催試合であるべきで、チケットの販売についてもJDTではなくMFLが決定すべきことでした。(しかしMFLはこれについては公式コメントを出しませんでした。)結果として、スランゴールサポーターがいない試合を、自分たちの士気が上がらない中、メンタルを傷つけてまでやる必要がないとスランゴールFCが判断したのだとしたら、JDTの自業自得と言ったら言い過ぎでしょうか。

スランゴール州スルタンがスランゴールFCのスンバンシー・カップ出場辞退を支持

スランゴールFCは公式SNSに、クラブの後見人(パトロン)でもあるスランゴール州スルタンのスルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下による声明を掲載し、殿下が本日5月10日に行われる予定だったスンバンシー・カップ2024の出場を辞退するというセランゴール FCの決定を承認し、全面的に支持しました。

また殿下は、マレーシアン・フットボール・リーグ(MFL)がセランゴールFCから公式に文書で出されていた試合延期の要求を拒否したことに対して失望も表明しています。セランゴール FCの後見人として、殿下は、最近、選手やスタッフに関わる生命の危機に関するいくつかの事件が発生した後、セランゴールFCが、2024年スーパーリーグの開幕戦も兼ねるこのスンバンシー・カップに出場しないのは、時宜に適っていると考えているとも述べて、現時点でのクラブの最優先事項は、カップを勝ち取ることではなく、選手たちの命と安全だと述べています。

さらに殿下は、安全上の問題だけでなく、ファイサル・ハリムへの酸攻撃事件の影響を受けて精神的に動揺しているチームの士気も考慮すべきだとし、さらにスポーツにおけるあらゆる形態の暴力と戦う連帯を支持しているとも述べています。

スルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下は、今回のように選手の命に関わる事件の重大さは、これまでの事件とは異なることを理解して欲しいと強調し、さらに、この事件が試合の日程に非常に近い時期に発生したことも考慮に入れるべきだとのべています。またセランゴール FCは、出場辞退という決定に伴ういかなる措置にも対応する準備ができていると強調しています。

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スルタンとはイスラム教国の特定の地域の政治を司る支配者のことを指します。マレーシアのスルタンは王家の血を引くマレー人の男性に限定され、現在はプルリス、クダ、クランタン、トレンガヌ、パハン、ペラ、スランゴール、ヌグリスンビラン、ジョホールの9州にスルタンがいます。(ただし、、ペルリス州ではスルタンと呼ばずにラジャ、ヌグリスンビラン州ではヤン・ディ・プルトゥアン・ブサルと呼ばれています。)現在のマレーシアの政治の仕組みでは。政治的な権力はないものの、スルタンは自州内のイスラム教徒の長であり,イスラム教徒であるマレー人の保護者でもあります。このためスルタンの発言は非常に重く、その発言に批判的な内容を述べれば不敬罪などに問われることもあります。

今回、スルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下が発言したのは、相手のJDTのオーナーがジョホール州スルタンの長子、皇太子のトゥンク・イスマイル殿下であることとも関係しているでしょう。皇族に物申せるのは皇族だけということです。

個人的には今回のスルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下の声明で触れられていた「精神的に動揺しているチームの士気も考慮すべき」という部分に触れているが素晴らしいと思いました。「安全上の理由」での出場辞退なら、警備を増員したので心配無用と却下されることもありますが、精神面が理由の辞退では受け入れられないとしても、反論されることはありません。スランゴールFCもMFLに延期の申請をする際に安全上の理由に加えてこの精神面での理由も明言していれば、別の結果になっていたのではないかという気もします。

スランゴールFCを過度に敵視している印象が強いJDTは、辞退を決めたスランゴールFCに対し、しつこいほどの対戦要求を繰り返しています。今回のスンバンシー・カップでスランゴールFCを破り、現在は8回で並んでいる優勝回数でスランゴールFCを抜き、さらに煽りたかったのだろうなと思います。JDTが強いことは国内サッカーファンなら誰もが分かっているのだから、もう少し大人の振る舞いをしても良かったとも思います。今回のスンバンシー・カップもスランゴールFCに対して思いやりを見せ、敢えてJDTから試合の延期を持ちかけていれば、JDTの株も上がり、アンチの多くもJDTを見直していたでしょう。

東南アジアクラブ選手権の組み合わせ決定ーKLシティはACL経験を持つ3チームと同じ「死の組」に

2024/25シーズンのアセアン(東南アジア)クラブ選手権、通称ショッピー・カップの組み合わせ抽選が昨日5月9日にベトナムのホーチミンで行われ、マレーシアから出場するトレンガヌFCはA組、KLシティFCはB組に振り分けられています。今回の大会にはベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアからはそれぞれ2チームが、フィリピンとシンガポールからはそれぞれ1チーム出場するほか、ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーのチームによるプレーオフを経て出場する2チームの合計12チームが出場します。

KLシティFCが入ったB組は、昨季のタイ1部チャンピオンでマレーシア代表DFディオン・コールズも所属するブリーラム・ユナイテッドFC、シンガポールの昨季王者、ライオン・シティ・セイラーズFC、そしてフィリピン1部でリーグとカップの二冠を達成しているカヤ・イロイロFCと、昨季のACL出場クラブが3チームも入った「死の組」になっています。しかもこの他には、先月終わったばかりのインドネシア1部リーグを首位で突破した元JDTの廣瀬慧選手を擁するボルネオ・サマリンドFC、そして昨季のベトナム王者のハノイ公安FCと各国の強豪、計6チームで構成されています。

マレーシアのスポーツメディア、フラッシュ・スカンの取材に対してKLシティFCのスタンリー・バーナードCEOは「A組と比較すると、自分たちは明らかに死の組に入ったが、この大会でプレーできることを誇りに思い。相手が誰であっても気にしない。また自分たちが2022年のAFCカップで、ASEANゾーンで勝利し、決勝に進出して2位になった事実は、選手たちの経験において重要な役割を果たしている。」と述べ、ミロスラフ・クルヤナック監督はグループの上位2位以内に入ってノックアウトステージに進むことができると自信を持っていると話しています。

シンガポールのECサイト「ショッピー」が冠スポンサーとなっているショッピー・カップは7月から2025年5月にかけて開催され、グループステージは3試合はホームで、さらに3試合はアウェーで行われる予定です。