5月7日のニュース<br>酸をかけられた代表FWファイサル・ハリムは4時間の手術後に集中治療室へ<br>襲撃事件被害のファイサル・ハリム、アキヤ・ラシド両選手と賭け屋との関連を警察が否定<br>今季開幕戦でジョホールはアウェイサポーターへのチケット割り当てゼロ<br>FAM-MSN プロジェクトがひっそりと解散か

酸をかけられた代表FWファイサル・ハリムは4時間の手術後に集中治療室へ

このブログでも取り上げたスランゴールFCでプレーする代表FWファイサル・ハリムへの酸がかけられた事件ですが、その後の報道ではファイサル選手の火傷は「第2度」ではなく「第4度」と、当初の報道より事態が深刻なようです。なお第4度の火傷では皮膚より下の筋肉、場合によっては骨まで火傷が到達し、傷の色は赤ではなく黒や白、あるいは茶色や黄色になること。また神経系等も傷んでしまい、痛みなどを感じなくなることもあるということです。

英字紙スターは既に4時間に及ぶ手術を受けたファイサル選手は現在、状態は安定しているものの、酸をかけられた腕の感覚がなく、また普通に会話ができる状況にもないということです。事件後に緊急搬送された病院から、スランゴールFCと契約している専門病院へと移されたということですが、そこでは通常の病室ではなくICUに入り10日ほど経過を見る予定であるとも報じてられています。また担当医師の話では、更なる手術が必要な可能性もあり、少なくとも3週間から4週間は入院が必要ということです。

襲撃事件被害のファイサル・ハリム、アキヤ・ラシド両選手と賭け屋との関連を警察が否定

1週間で2度も起こった代表選手襲撃事件によりマレーシアサッカー界に広がった衝撃は未だ収まりませんが、その一方で事件直後からSNS上で見かけたのはブッキーbookieと呼ばれる賭け屋と両選手の関連が疑われる、という投稿でした。しかしマレーシア警察は、ファイサル・ハリム(スランゴールFC)、アキヤ・ラシド(トレンガヌFC)両代表選手と賭け屋との関連を否定しています。

5月5日に起こったファイサル選手に酸がかけられた事件についてラザルディン・フサイン警視総監は、捜査が完了するまでは憶測や思い込み、さらには根拠のない作り話などを広めないように求めています。さらに捜査完了には一定の時間が必要であることへの理解を求めたラザルディン総監は、現在、ファイサル選手に酸を浴びせた犯人の目的を捜査中だと説明しています。またファイサル選手襲撃の3日前に起こったアキヤ選手への強盗傷害事件との関連性は、現時点では見当たらないとも話していルト、マレーシア語紙のシナル・ハリアンが報じています。

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日本で万が一Jリーグの選手が暴漢に襲われたとしても、その事件を賭け屋とすぐに結びつける人はいなそうですが、サッカーの八百長試合で多くの逮捕者が出た歴史があるマレーシアでは、「賭け屋の指示に従わなかったことで、腹いせに襲われたのでは」と考える人がいるのは事実です。マレーシアサッカー界最大の汚点とも言える1994年の八百長事件では、1部リーグとカップ戦での八百長に関わったとして100名を超える選手とコーチが処分を受け、中には国内サッカーからの永久追放となった選手も数名います。その後も2017年、そして2022年にも八百長が疑られる事例がありました。

これまで報じられた八百長試合は、給料が少ない若手選手に賭け屋が八百長を持ちかけるというケースが多くありました。そう考えると金銭的には何の不自由もなさそうな両選手が自身の選手生命を台無しにするような八百長への加担に同意するとは到底考えられませんが、給料未払いのクラブが複数存在するマレーシアサッカーでは、この八百長の誘惑はいまだ存在していると報じるメディアもあり、今回の事件が国内サッカー県警者やファンに過去の嫌な記憶を思い起こさせることにもなっています。

今季開幕戦でジョホールはアウェイサポーターへのチケット割り当てゼロ

スンバンシーカップをリーグ戦の一環として行うからこういうことが起こるのに、MFLはなぜ、何も手を打たないのか。

今季2024/25シーズンは5月10日にジョホール州イスカンダル・プテリにあるスルタン・イブラヒムスタジアムで行われるジョホール・ダルル・タジムFC(JDT)対スランゴールFCのカードで開幕します。この試合はスンバンシーカップと呼ばれる、前年度のリーグ優勝チームとマレーシアカップ優勝チームが対戦するカードにもなっています。スンバンシーとはマレーシア語で「慈善」を意味し、この試合は英国のチャリティーシールド(現コミュニティーシールド)を模したカップ戦となっています。

しかし1985年から始まったこのスンバンシーカップが本家のコミュニティーシールドと異なるのは、リーグ戦の一環として行われること。そして試合はリーグ優勝チームのホームで開催されることです。英国のコミュニティーシールドはリーグ開幕前のーパーカップ」的な位置付けであり、1974年からいくつかの例外を除いてウェンブリースタジアムなど中立地で開催されています。

リーグ戦10連覇を果たしているJDTは過去9シーズンにわたり、リーグ覇者としてこのスンバンシーカップをリーグ戦の主催試合として行なっていますが、この仕組みが今季のすんバンシーカップでは議論を巻き起こしています。

昨季は国内三冠(リーグ戦、マレーシアカップ、FAカップ)を達成したJDTは、マレーシアカップ準優勝のスランゴールFCと、今回のスンバンシーカップで対戦しますが、何とアウェイのスランゴールFCのサポーター向けに割り当てられるチケットがないことが明らかになっています。JDTはクラブ公式SNSで、スランゴールFCからサポーター向けチケットの割り当てを依頼されていないため、ホームサポーター向けのチケットのみを販売することを公式声明として発表しています。この声明では、スランゴールFCから依頼されたのは、チームに対する警察警護、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、氷、そしてメインスタンド30席分のチケットのみだと説明しています。JDTはこれらの依頼に応じる一方で、アウェイチームはサポーターのためのチケット割り当てについても、ホームチームのチケット販売前に依頼するべきにも関わらず、そういった依頼がなかったとして、アウェイチームへの割り当ては今回は行わないと生命を結んでいます。

正式な手順を踏まず、サポーターチケットが割り当てられることを当然と思っていたのであればスランゴールFCに非があるかも知れませんが、国内で圧倒的な実力を誇り、マレーシアを代表するクラブでもあるJDTの対応も大人気ないように思えます。しかもスンバンシーカップは、リーグ戦の一環でもあると同時に、タイトルのかかるカップ戦でもあるわけで、もう少し柔軟な対応をしても良いようにも思えます。

ボラセパマレーシアJP的には、このスンバンシーカップはマレーシアスーパーリーグを運営するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)が主催し、本家に倣ってブキ・ジャリル国立競技場のような中立地で、リーグ戦とは別のカップ戦として行うべきだと考えています。リーグ戦の他にACLを控え、しかも国内カップ戦でも優勝候補の筆頭のJDTにとっては、リーグ戦とスンバンシーカップを1試合で行うことで、少しでも過密日程を減らすことになると考えているかも知れませんが、今回の一件でMFLがどのような対応をするのかに注目してみたいともいます。

FAM-MSN プロジェクトがひっそりと解散か

東南アジアのサッカー関連ニュースを報じるSNSの”Asean Football”は、マレーシアサッカー協会(FAM)とマレーシアスポーツ評議会(MSN)が共同で運営するクラブのFAM-MSNプロジェクトが解散すると報じています。

FAMの公式サイトやSNSでは何も報じられていませんが、Asean Footballによると、解散の理由はこのプロジェクトを通じて才能ある選手を見つけることができなかったからだとしています。

2020年にFAMとMSNが協力して創設したFAM-MSNプロジェクトは、翌2021年から当時のマレーシア2部リーグ、マレーシアプレミアリーグ(現在は休止中)に参戦し、2021年は1勝3分16敗と2022年は2勝2分14敗、そしてプレミアリーグがスーパーリーグと統合された昨季2023年は新設されたU23リーグのMFLカップで3勝1分10敗という成績を残しています。

Asean Footballは、「このチームの半数が参加した東南アジアサッカー連盟AFF U20選手権(筆者注:実際にはAFF U19選手権)で優勝しており、FAMーMSNプロジェクトは失敗ではない。」FAMのテクニカル・ディレクターのスコット・オドネル氏の談話も紹介しています。

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FAMとMSNが共同で運営する、国家サッカー選手育成プログラム(NFDP)の卒業生と、その中核となるエリートアカデミーのモクタル・ダハリ・アカデミー(AMD)の卒業生で編成されるこのFAM-MSNプロジェクトは、当初からその目的や効果に疑問の声が上がっていました。というのもNFPDやAMDの卒業生の内、特にAMDの卒業生はすぐにマレーシアリーグのプロクラブから声がかかり、そのまま入団しますが、その一方でNFPDの卒業生でもプロクラブに入団できない選手がいます。そういった18歳から20歳のNFDP卒業生に競技活動を中断させることなく、実戦での経験を積ませた上で、再度プロクラブ入りを実現させようというのがこのFAM-MSNプロジェクトというチーム設立の目的でした。

しかしこのFAM-MSNプロジェクトが参戦したのは2部とは言え、れっきとしたプロリーグであり、要するにユースチームが大人の、しかも生活のかかったプロの世界にいきなり放り込まれた格好になりました。それまでは同年代としか試合をしたことがなかった若い選手たちにとっては、体格も経験も技術も勝るプロ選手との対戦で連戦連敗、しかも大敗続きでした。1年目を終えてチームは20試合で1勝3分16敗、得点20失点56という成績に終わり、2部リーグ参戦という育成方法には1年目が終わった段階で、その効果に期待できないのではという声が上がっていました。それでもこのFAM-MSNプロジェクトは翌2022年シーズンも参戦し、18試合で2勝2分14敗、得点10失点33という成績でした。また当初考えられていたFAM-MSNプロジェクトから他のプロクラブへの移籍は、サフワン・マズラン、ウバイドラー・シャムスル(いずれもトレンガヌFC)、アズハド・アラズ(サバFC)など、数名に止まっています。