先日のこのブログでも取り上げた国内リーグMリーグ改革の具体的な内容が、リーグを運営するマレーシアンフットボールリーグMFLより正式に発表されています。MFLの公式サイトによると、「国内リーグを各チームがよりダイナミックに競い合うものにする」目的のもと、MFLの臨時総会でスーパーリーグとプレミアリーグ全チームの同意を得て、来季2023年リーグから実施される変更は、大きく分けて6つあります。
1)現行のスーパーリーグとプレミアリーグを再編成して一本化-18チーム編成のスーパーリーグを2023年より開始し、2024年以降は16チーム編成に
来季2023年シーズンは、現行の1部スーパーリーグ12チームと2部プレミアリーグ10チームを再編して新たなスーパーリーグとして暫定的に18チーム編成で開催し、2024年シーズン以降はこれを16チームに絞って開催していきます。
また今季のプレミアリーグ9位と10位のチームは、3部リーグのM3リーグの1位、2位と入れ替え戦を行い、この入れ替え戦に勝利した2チームは来季のスーパーリーグでプレーしますが、M3リーグのチームが勝利した場合には、スーパーリーグのクラブライセンス資格を満たすことが条件の上でスーパーリーグ参加となります。
<解説>
現行のチーム数ならば、本来は12+10=22チームとなる2023年シーズンのスーパーリーグですが、プレミアリーグ10チーム中,3チームはスーパーリーグのクラブ(JDT、トレンガヌ、スランゴール)のセカンドチームであり、1チームはマレーシアサッカー協会FAMが運営する育成目的のチームとなっていることから、残る6チーム(クランタン、クチンシティ、クランタン・ユナイテッド、PDRM、UITM、ペラ)全てが2023年シーズンのスーパーリーグに参入することになります。
上の説明では今季のプレミアリーグ9位と10位のチームが入れ替え戦出場と書きましたが、スーパーリーグ昇格権があるのはこの6チームなので、正確にはこの中の下位2チームが入れ替え戦に出場します。
また現在、スーパーリーグでプレーしている日本人選手は加賀山泰毅選手(サバ)だけですが、これに今季はプレミアリーグでプレーしている本山雅志選手、深井脩平選手(いずれもクランタン・ユナイテッド)、谷川由来選手(クチンシティ)、原健太選手(クランタン)の4選手が来季残留となれば、国内トップリーグに日本人選手5名が在籍する可能性もあります。
2)スーパーリーグ18チームのU23チームを対象としたリザーブリーグの開設
新たなスーパーリーグを構成する18チームには、U23チームの保持が義務付けられるとともに、このU23チームが出場するリザーブリーグが新たに発足します。
現行のスーパーリーグとプレミアリーグの各チームには既にU21とU19のチームを持つことが義務付けられていますが、この年代の選手たちとトップチームの選手との実力差、経験差は大きいことから、その差を埋めるものとして設置されるのがリザーブリーグです。このリザーブリーグ設置は、トップチームでは出場機会が少ない若い選手により多くの試合出場機会と試合出場時間を作り出すことを目的としています。
リザーブリーグでプレーするU23チームには、23歳以上の「オーバーエイジ選手」5名(外国籍選手を含む)の登録が可能です。ただしリザーブリーグの主旨であるマレーシア人選手の出場機会確保の目的から、ピッチ上では同時に起用できるのは外国籍選手2名を含む3名のオーバーエイジ選手のみとなります。
<解説>
現在の2部プレミアリーグには3つのセカンドチームが在籍していますが、どのチームにも4名の外国籍選手が存在します。これらのセカンドチームがプレミアリーグでプレーするのは、若い選手の育成目的よりも、外国籍選手を含めたトップチームの選手の調整の場、という性質が強いものです。
今回のリザーブリーグ開設により、各チームの若いマレーシア人選手は試合出場時間を得やすくなる反面、これまでU23チームを持たなかったクラブにとっては、U23チームの設置が義務付けれたことにより、クラブの経営が圧迫され、それが理由となる給料未払い問題が発生しやすい土壌を作ることにならないか、という懸念の声もあります。
3)3部リーグ以下のセミプロ化に伴う再編成が終わるまでプレミアリーグは開催なし
1部スーパーリーグと2部プレミアリーグが一本化されることにより、プレミアリーグは当面開催されません。この休止期間を利用して、MFLは現在の3部リーグにあたるM3リーグ以下を統括するアマチュアフットボールリーグと協力して「クラブ育成プログラム」を発足させます。M3リーグと2部プレミアリーグとのクラブ間では実力差だけでなく、クラブ運営面でもその差が大きいことから、MFLはこのプログラムを通じて、M3リーグ以下のクラブのセミプロ化やプロ化を支援し、国内リーグのレベルの底上げを目指します。
またM3リーグのクラブは来季以降もFAカップに出場します。
<解説>
今季のMリーグ3部、M3リーグ以下は、各クラブに外国籍選手や外国籍指導者との契約を禁止するなど、上部リーグとは異なる条件で開催されています。また一昨年からM3リーグをアマチュアとプロが混在するセミプロリーグ化する意向があることを明らかにしていますが、新型コロナを理由にこれが全く進んでいませんでした。
今回の発表では、現在のM3リーグが将来の2部プレミアリーグに該当することから、プロリーグであるスーパーリーグとの間で行われる将来の入れ替え戦に耐えうるクラブの育成が急務となります。
4)外国籍選手は1チームあたり最大9名まで契約可能-ただしベンチ入り6名でピッチ上には5名まで
現行の規定では、スーパーリーグでは外国籍選手5名(国籍問わず3名+アジア1名+アセアン1名)、プレミアリーグでは同4名(国籍問わず3名+アジア1名)が可能ですが、プレミアリーグにセカンドチームを持つJDT、トレンガヌ、スランゴールはこの規定に基づき9名の外国籍選手を登録していた一方で、セカンドチームを持たない各クラブはスーパーリーグでは5名、プレミアリーグでは4名のみの登録が可能でした。この「不均衡」を解消するため、2023年シーズンからはスーパーリーグ各チームは最大で9名の外国籍選手の登録が可能になります。
<解説>
アジアサッカー連盟AFCは、2023/24シーズンからAFCチャンピオンズリーグACLでの外国籍選手枠拡大を発表しています。現行の4名(国籍問わず3名+アジア枠1名)から6名(国籍問わず5名+アジア枠1名)へとなることから、Mリーグもそれに近づけるために、現行の5名ベンチ入りから6名ベンチ入りへと変更していますが、その一方でマレーシア人選手の出場機会の確保を目的として、ピッチ上でプレーできるのは最大5名という数字は維持しています。
また最大9名が登録可能になったことにより、外国籍選手を多く獲得するだけの 資金のあるチームとそうでないチームとの差が大きく現れそうです。
5)FAカップおよびマレーシアカップの開催方式の変更
AFCはACLの秋春制への移行を発表していますが、この変更に伴い、マレーシアカップおよびFAカップの開催方式の変更が検討されています。
<解説>
従来はリーグ戦終了後の8月以降に開催されてきたマレーシアカップの開催方式と開催時期が見直されます。マレーシアカップは、現行ではスーパーリーグ1位から11位までとプレミアリーグのセカンドチームを除いた上位5チームの合計16チームだけが出場する大会ですが、新たなスーパーリーグの上位16チームのみが出場するのか、スーパーリーグ全18チームによる大会となるのか。今後の発表を待ちたいと思います。ACLやAFCカップの日程と重なってしまうことを避けるために開催時期も変更になることは必至です。
またスーパーリーグ各チームの試合数が現在の22試合から34試合となることで、リーグ戦と並行して行われてきたFAカップについても何らかの変更が実施されそうです。
6)U19チーム出場のユースカップとU21チーム出場のプレジデントカップの開催方式の見直し
MリーグのU19チームが出場とするユースカップと、U21チームが出場するプレジデントカップはマレーシアサッカー協会が運営するリーグ戦ですが、MFLはFAMに協力して、各年代別チームの試合数を増やすような 開催方式を提案していくということです。
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「国内トップリーグであるスーパーリーグが1チームあたり年間22試合では少なすぎる」というFIFAの「助言」をもとに動き出したMリーグ改革ですが、今回の改革により試合数は確かに増えるものの、その質が担保できるのかという疑問は残ります。トップリーグのチーム数が増えることで、クラブ間の格差もより明らかになり、資金力が豊富なチームはさらに有利に、そうでないチームはさらに不利になる改革に思えます。
例えば資金力のあるJDTがリーグ10連覇、20連覇を続け、ACLでも結果を残すようになる可能性がある反面、下位のクラブは降格しない程度に勝ち星を重ねるといった国内リーグにもなりかねず、トップリーグがその中で二極化するといった事態も考えられます。
ボラセパマレーシア的には不安しか感じられないこの改革ですが、この改革によってMリーグがより多くのファンを惹きつけ、また商業的にも成功するのかどうかはMFLと各クラブの努力、そしてそれを支える私たちファンにかかっています。
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