マレーシア代表の2018年 (3) U16代表

2014年に立ち上げられたNational Football Development Plan(通称NFDP)は、マレーシアの省庁の一つである青年スポーツ省所轄のサッカー選手育成のための国家プログラム。日本の文科省に当たる教育省とFAMマレーシアサッカー協会も協力する大プロジェクトです。そしてその第一期生となる選手たちが2018年のU16代表です。このU16代表は、7月の終わりから8月にかけてインドネシアのスラバヤで開催されるAFF(アセアンサッカー連盟)U16選手権で弾みをつけ、、9月から10月にかけては自国開催となるAFC(アジアサッカー連盟)U16選手権で好成績を収めて、FIFA U17ワールドカップの出場権を獲得することを目標としていました。2018年の年始には当時のカイリー・ジャマルディン青年スポーツ相が、このU16代表のKPI(目標達成度の評価指標)がFIFA U17ワールドカップの出場資格獲得であるとも発言するなど、マレーシアサッカー界の期待が高まりました。

しかし、U16代表はいきなりAFF U16選手権でつまづきます。ホスト国のインドネシア相手にに準決勝敗退を喫してしまったのです。しかも、勝った方が準決勝進出の懸かったラオス戦すら、相手のオウンゴールのおかげで勝利した試合でした。アセアンのチーム相手に苦しい戦いを繰り広げたU16代表は、続く9月のAFC U16選手権に臨みました。

バイエルン・ミュンヘンのジュニアチームで12年間アシスタントマネージャーを務めたマレーシア人のリム・ティオンキムを監督とするU19代表は、開幕戦ではタジキスタンに6-2と大勝しましたが、アセアン域内のライバルであるタイに2−4と敗れ、勝てば自力でノックアウトステージ進出のチャンスが残っていた最終戦でも日本に0−2と敗れ、結局、グループステージ最下位で敗退しました。また皮肉なことに、この大会ではマレーシアとグループステージで同組だったタジキスタンと日本が決勝で対戦し、1−0で日本が優勝しています。大会後、リム・ティオンキム監督はマレーシアサッカー協会によってU19監督の職を解任されました

しかし、話はここで終わりません。ご存知のかたもいらっしゃるかと思いますが、2018年はマレーシアにとって激動の年でした。1957年のイギリスからの独立以来、政権を守ってきた与党が5月9日の下院議員選挙で大敗を喫し、新しい政権が樹立されたのです。これは多くのメディアの予想も外れる歴史的な出来事でした。政権交代の結果、当然のことながら、首相を始め各省庁の大臣も変わったのですが、新たに就任したサイド・サディック青年スポーツ相は、U16代表が日本に敗れた試合の後に記者会見を開き、リム・ティオンキム元監督の月給が免税の17万5000マレーシアリンギ(現在の為替レートでは450万円強)であることを公表したのです。リム・ティオンキム元監督は、政府が毎年5億円を投じることになっている国家プロジェクトであるNFDPの中心となるサッカーアカデミーの責任者も兼ねていますので、この給料が果たして高いのか安いのかはわかりませんが、青年スポーツ省が雇用主とは言え、担当大臣としてはやや感情的な行動であった印象は否めません。この時期は前政権の行った事業全てを否定するような風潮が感じられる時期でもありましたので、前政権の大臣が任命したリム・ティオンキム元監督を非難するは大臣のスタンドプレーだったようにも思われます。しかもサイド・サディック青年スポーツ相は、2020年まで残っているリム・ティオンキム元監督のNFDPアカデミー責任者としての契約の見直しについても言及しているので、この話題はこれで終了しそうもありません。

追記:ちなみにネット上で探したところ、参考までにJリーグ1部の監督の平均給与は5322万円でした。

U16マレーシア代表 2018年戦績
<AFF U16選手権>
グループステージ
2018.07.30 1-2 タイ   得点者:ムハマド・ヌル・アズラン・モハマド・ユソフ
2018.08.03 6-1 ブルネイ   得点者:ムハマド・アスマン・アスルル・スルカナ2, ムハマド・ファミ・ダニエル・ムハマド・ザイム, モハマド・イクワン・モハマド・ファイゾ, ハリス・ナイム・ジャイネ
2018.08.05 4-0 シンガポール 得点者:アリフ・ダニエル・アブドゥル・アジズ, ハリス・ナイム・ジャイネ, ムハマド・ファミ・ダニエル・ムハマド・ザイム, O.G
2018.08.07 1-0 ラオス    得点者:O.G
ノックアウトステージ(準決勝)
2018.08.09 0-1 インドネシア 得点者:なし

<AFC U16選手権>
グループステージ
2018.09.20 2-6 タジキスタン 得点者:ルクマン・ハキム 4, ナジムディン・アクマル, アリフ・ムタリブ
2018.09.23 2-4 タイ     得点者:ルクマン・ハキム, フィルダウス・カイロニザム
2018.09.27 0-2 日本     得点者:なし

AFC U16選手権に参加したマレーシアU16代表(FAMホームページより)

マレーシア代表の2018年 (2) U19代表

U19代表の2018年のハイライトは、7月にインドネシアで開催されたAFF(Asean Football FederationU19選手権で初優勝を果たしたことでしょう。AFFに加盟する全12カ国の内、オーストラリアを除く11カ国が参加したこの大会では、マレーシアはミャンマー、カンボジア、東ティモール、ブルネイと同組になりました。グループステージでは、東ティモールに1-1と引き分けたものの、残る試合はカンボジア2-0ブルネイ2-0ミャンマー1-0と全て勝利を収めたマレーシアはグループBの1位でノックアウトステージ(ベスト4)へ進みました。開催国インドネシアとの対戦になった準決勝はフルタイム1-1の後、PK戦に勝利し、グループA1位のタイを破って決勝に進出したミャンマーを退け、4−3で初優勝を遂げました。

また、10月には、前年の予選で12年ぶりに出場資格を得たAFC U19選手権へも出場しましたが、同組のタジキスタンと引き分けサウジアラビア中国に敗れました。クロアチア人監督ボジャン・ホダック率いるU19代表は、わずか勝ち点1を挙げただけでグループステージ敗退となり、アセアンとは違うアジアの壁に跳ね返されてしまいました。それでもAFF U19選手権初優勝と12年ぶりのAFC U19選手権出場は、マレーシアサッカーにとっては希望の光となりました。

また、AFC U19選手権でマレーシアの全得点を挙げる活躍をしたハディ・ファイヤッド選手は、12月21日にJ2のファジアーノ岡山と1年契約を結びました。このハディ選手は8月には同じJ2のロアッソ熊本の練習にも参加し、ちょうど来日中だったマレーシアのマハティール首相からも激励を受けたのですが、流石に1週間程度の練習参加では契約には至りませんでした。Jリーグでプレーするという夢を実現させたハディ選手の今後の活躍を期待したいと思います。

U19マレーシア代表 2018年戦績
<AFF U19選手権>
グループステージ
2018.07.04 2-0 カンボジア  得点者:シバン・ピライ, アクヤ・ラシド
2018.07.06 2-0 ブルネイ   得点者:ニザルディン・ジャズィ, ムハマド・シャミ
2018.07.08 1-1 東ティモール 得点者:アクヤ・ラシド
2018.07.08 1-0 ミャンマー  得点者:シバン・ピライ
ノックアウトステージ(準決勝)
2018.07.12 1-1 インドネシア(PK3-2)得点者:シャイフル・アリアス
決勝
2018.07.14 4-3 ミャンマー  得点者:アワン・ファイズ・ハジック, ニック・アキフ2, シバン・ピライ

<AFC U19選手権>
グループステージ
2018.10.20 1-2 サウジアラビア 得点者:ハディ・ファイヤッド
2018.10.23 2-2 タジキスタン  得点者:ハディ・ファイヤッド, O.G
2018.10.26 2-0 中国      得点者:なし

AFF(アセアンサッカー連盟)U19選手権で優勝したマレーシアU19代表(FAMホームページより)

AFC U19選手権に参加したマレーシアU19代表(FAMホームページより)


1月9日のニュース(1):U22代表の候補選手が発表

マレーシアフットボール協会(FAM, Football Association of Malaysia)は、本日1月9日から始まる強化合宿に招集するU22代表候補選手を発表しています。(リンク先の記事はマレー語です)。今回の合宿は、2月17日から3月2日まで開催されるAFF(アセアンサッカー連盟)のU22選手権、さらには3月22日から26日にクアラルンプールで開催される2020年のAFC U23選手権の予選へ向けての強化合宿です。AFF U22選手権ではマレーシアは開催国カンボジア、インドネシア、シンガポール、ミャンマーのいるB組に、AFC U23選手権予選では予選J組に入り、中国、フィリピン、ラオスと同組になっています。初めて開催されるAFF U22選手権で好成績を収め、続くAFC U23選手権予選へ弾みをつけたいところです。

2020年のAFC U23選手権は東京オリンピックのアジア予選も兼ねており、上位3チームに入れば、東京オリンピックへの出場権も獲得できます。(開催国枠を持つ日本が上位3位に入れば、準決勝進出で出場権獲得となります。)ソ連によるアフガニスタン侵攻のため、参加をボイコットした1980年のモスクワオリンピック以来の出場を目指すには、予選を突破して本選に参加し、さらにグループステージ突破が目標となります。

2018年のAFC U23選手権でベスト8まで進んだマレーシアは、日本、韓国、ベトナム、北朝鮮とともに第1シードになり、これらの国とのグループステージでの対戦は避けられましたが、J組のメンバーを見てもグループステージ突破は簡単ではありません。グループ1位は難しいとしても、2位の上位4チームにまで(U23選手権の開催国であるタイがグループ1位を取れば、2位の上位5チームまで)に与えられる本選出場権を目指すことになりそうです。

またAFC U23選手権の後には東南アジア競技大会、通称SEA Gamesも控えています。昨年ジャカルタで開催されたアジア競技大会がアジア版オリンピックだとすると、2年毎に開催される東南アジア競技大会は東南アジア版オリンピックとも言えるこの地域最大のスポーツイベントです。前回2017年大会はマレーシアが開催国となったものの、サッカーの決勝はタイに0-1と苦杯を喫しているので、今回の開催国フィリピンではなんとしても金メダルを狙いたいところです。2019年は前半がAFC U23選手権予選、後半がSEA Gamesというのがこの年代の重要な目標です。

<U22代表候補選手(カッコ内は所属チーム)>
*#^ニック・アキフ・シャヒラン・ニック・マット MF
ムハマド・ダニアル・ハキム・ドラマン MF
モハマド・シャルール・ニザム・ロス・ハスニ DF
^ムハマド・シャイフル・アリアス DF
アフィック・サラウディン FW
ムハマド・ジャズアエルール・ジャスミ FW(以上クランタン)
*ダニエル・アミール・ノーヒシャム MF
^ムハマド・ザリル・アズリ MF
^ムハマド・アズリ・アブ・ガニ GK
アザルル・ナザリス・アズハ DF(以上フェルダ・ユナイテッド)
ダミアン・リム・チェンカイ GK
アリフ・アル・ラシド・アリフィン MF
*ムハマド・ジャフリ・チュウ FW(以上PKNS)
アリウスディウス・ジャイス FW
エバン・ウェンスリー・ウェンセスラウス DF
ジョーダン・オレンショウ MF(以上サバ)
#*コジレスワラン・ラジ FW
#モハマド・ファイサル・アブドゥル・ハリム FW(以上パハン)
モハマド・ハリズ・カマルディン DF(JDT II)
モハマド・ファズルル・ダネル・モハマド・ニザム DF (クダ)
ムハマド・ダニシュ・ハジック・サイプル・ヒシャムDF(ヌグリ・スンビラン)
ムハマド・ナジルル・アフィフ・イブラヒム DF(ペラ)
ムハマド・アミルル・ハジック・ロスミザル DF(スランゴール)
ムハマド・イザン・シャミ・ムスタパ FW(トレンガヌ)
カトゥル・アヌア・モハマド・ジャリル GK(KL)
*は2018AFC U23選手権のメンバー、#印は2018アジア競技大会のメンバー、^印は2018AFF U19選手権のメンバー

この強化合宿参加メンバーは1月13日から19日までタイのバンコクへ遠征し、練習試合を3試合(1月14日対バンコク・グラス、1月16日対アーミー・ユナイテッド、1月18日対アユタヤ・ユナイテッド)行います。U22を指揮するオン・キムスイ監督の談話では、今回のメンバーに、AFF選手権 スズキカップでも活躍し、大会後の休養を終えてクラブのプレシーズン練習に参加しているサファウィ・ラシド(JDT)やシャミ・サファリ(スランゴール)などが最終的に加わって、AFC U23選手権予選に臨む予定のようです。

FAMホームページより

タン・チェンホー監督は2020年まで監督契約を延長

昨年末のAFF(アセアンサッカー連盟)選手権 スズキカップの決勝で惜しくも敗れたマレーシア代表。そのチームを率いたタン・チェンホー監督と新たに2020年12月31日までの契約を結んだことが、マレーシアフットボール協会(FAM)から発表されました。タン監督とFAMとの契約は昨年12月31日に切れており、その後の動向が注目されていましたが、契約延長は順当なので、私も含め多くのファンが安心したでしょう。

FAMによると、昨年12月15日のスズキカップ決勝ベトナム戦の後、タン監督は2週間の休暇を取っていたことから、新たな契約の発表まで時間が空いてしまったとのことです。今後、タン監督には、Hariamu Malaya(マレーの虎)のニックネームを持つ代表チームを、2020年のスズキカップ、2022年開催ワールドカップの予選、そして2023年開催アジアカップの予選といった大会で好成績が求められています。

一番左がタン監督、一番右はスチュアート・ラマリンガムFAM事務局長(FAMホームページより)


マレーシア代表の2018年 (1) U23代表

2019年のアジアのサッカーはアジアカップとともに幕を開けましたが、マレーシアは予選で惨敗したため、残念ながら出場しません。それでもここ10年近く暗黒の時代を過ごしていたマレーシアのサッカーにとって、昨年2018年はフル代表を含めた各年代で良い結果を残すことができた年でした。そこで今回から数回に分けて、各年代ごとにその成績を見ていきます。まずは一年間を通して好調であったU23代表から始めましょう。

U23代表チームはAFC U23選手権に初出場を果たしただけでなく、ノックアウトステージまで進む快挙を果たしました。前年にタイで行われた予選ラウンドでは、インドネシアを3−0、モンゴルを2−0で勝利し、タイには0−3で破れたものの、タイがモンゴル、インドネシアとそれぞれ引き分けてくれた恩恵もあり、予選グループを1位で突破し、今年1月に中国で行われた本戦では、イラク、ヨルダン、サウジアラビアと行った強豪と同組となったグループステージをなんと突破したのです。イラクには1−4と完敗でしたが、ヨルダンとは1−1で引き分け、そしてなんとサウジアラビアには1−0と番狂わせを演じて快勝しました。グループステージを2位で通過し準々決勝に進出したマレーシアは韓国と対戦し、戦前の予想に反して、一時は同点に追いつく接戦でしたが最後は1−2で負けてしまいました。しかし2018年のマレーシア国内ベストヤングプレーヤー、ベストミッドフィルダー、そしてMVPにも選ばれたサファウィ・ラシドを筆頭に攻撃陣が頑張った結果が、初出場ながらベスト8という輝かしい結果となりました。

U23代表チームは、8月にジャカルタで開催されたアジア競技大会でも快進撃を続けました。韓国、バーレーン、キルギスタンと同組になったグループステージでは、初戦のキルギスタン戦を3−1で快勝した勢いに乗り、続く韓国も2−1で撃破するこれまた大番狂わせを見せました。プレミアリーグのトットナムでプレーするソン・フンミンを先発から外す余裕を見せた韓国ですが、今回はマレーシアがAFC U23選手権のリベンジに成功しました。ちなみにこの試合で2点を挙げたのが、前述したSafawi Rasidでした。この勝利でグループステージ突破を確定させたマレーシアは、先発8人を入れ替えて主力を休ませたバーレーン戦は2−3と破れましたが、予選グループ2位でノックアウトステージとなるベスト16へ進みました。ベスト8を賭けた試合の相手はU21代表を送り込んできた日本でした。予選グループを1位で突破していれば相手がイランでしたので、U21の日本のほうがベスト8進出のチャンスが有るかと思いましたが、89分にPK(このPKを与えたファウルの判定は個人的には微妙と思いましたが)を与えてしまい0-1でした日本のメディアでも「辛勝」「紙一重の勝利」などの見出しがつけられるほどの惜敗だっただけに残念!なお、Fox Sports Asiaと英字サッカー雑誌Four Four Twoのエディターによるこの大会のベスト11にSafawi Rasidが選出されました。

U23マレーシア代表 2018年戦績
<AFC U23選手権>
グループステージ
2018.01.10 1-4 イラク     得点者:サファウィ・ラシド
2018.01.13 1-1 ヨルダン    得点者:サファウィ・ラシド
2018.01.16 1-0 サウジアラビア 得点者:ダニアル・アミール
ノックアウトステージ(準々決勝)
2018.01.20 1-2 韓国      得点者:タナバラン
<アジア競技大会>
グループステージ
2018.08.15 3-1キルギスタン 得点者:サファウィ・ラシド, アクヤ・ラシド, シャフィック・アーマド
2018,08.17 2-1韓国     得点者:サファウィ・ラシド 2
2018.08.20 2-3バーレーン  得点者:シャミ・サファリ, サファウィ・ラシド
ノックアウトステージ(ベスト16)
2018.08.24 0−1日本     得点者:なし

中国で行われたAFC U23のメンバー(FAMホームページより)
ジャカルタアジア競技大会、2-1で勝利した韓国戦の1コマ(FAMホームページより)