11月6日のニュース<br>・国籍偽装疑惑-元FAM事務局長「謙虚にミスを認めるべき-CASへの控訴は危機を長引かせるリスクが高い」<br>・イスマイル殿下はCASへの控訴費用全額負担を申し出<br>・前FAM会長「公平を期すために訴訟手続きを最後まで進めさせるべき」<br> 国籍偽装疑惑選手の1人はクラブが解雇を検討か

マレーシア代表でプレーする7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、ロドリゴ・ホルガド、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、ヘクター・ヘベルとマレーシアサッカー協会(FAM)に対し、FIFAは国籍偽装があったとして7選手には罰金と12ヶ月間の出場停止処分を、またFAMには罰金処分の裁定を下しました。

しかしこれを不服とした7選手とFAMはこの裁定に対して控訴を行いましたが、FIFAの控訴委員会は11月3日にこれを却下し、当初の裁定を指示することを発表しています。しかしこれに納得しないFAMのユソフ・マハディ会長代行は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴するための準備を整えていると報じられています。

しかし、CASへの提訴についてはマレーシア国内のサッカー関係者全員が支持しているわけではなく、様々な見方が報じられています。

元FAM事務局長「謙虚にミスを認めるべき-提訴は危機を長引かせるリスクが高い」

CASへの提訴に否定的な意見を持つ元FAM事務局長のアズディン・アフマド氏は、今回の件をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に持ち込むことは、既存の危機を長引かせるだけでなく、最悪の場合にはFAMがFIFAから資格停止処分を受ける可能性につながると述べています。

マレーシア語紙ブリタハリアンのインタビューに答えたアズディン氏は「提訴を行えば、7選手だけでなくFAM自体に活動停止処分が科される可能性がある。そうなれば、現在行われているマレーシアリーグが直ちに停止されるだけでなく、国内のサッカー活動全てが麻痺してしまう。」

「最善の方法は、謙虚に間違いを認めることだ。『不正行為』という言葉を使う必要はないが、重要な点を見逃したという事実は受け入れる必要がある」

さらにアズディン氏は、今回の処分が下された際にFIFAが示した証拠や文書はどれも非常に明白で反論が難しいと説明しています。」

「もし控訴が続けば、さらなる疑問が生じ、(7選手の祖父母の出生届を再発行した)マレーシア政府の国民登録局、そして入国管理局などの政府機関が関与が疑られる可能性すらあると懸念している。」

FIFAが示した証拠は確固たるもので、もう疑問の余地がないと話したアズディン氏はFAMがCASに提訴すれば、より大きな影響が出る懸念すらあると述べています。


前代表チームマネージャー「CASへの控訴は時間と金の無駄で意味がない」

マレーシア代表のチームマネージャー(監督ではなくいわゆる事務方のマネージャー)カマルル・アリフィン・モハド・シャハル氏は、マレーシアサッカー協会(FAM)が、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴を行うことは無駄だと断じています。

英字紙ニューストレイツタイムズとのインタビューでカマルル氏は、FIFAの決定は最終的なものであり、CASへの上訴を行っても判決が変わることはないだろうと述べています

「現実的に見て、この問題をCASに持ち込んでも何も変わらないだろう。FIFAは既に7名のヘリテージ帰化選手が書類の偽造に関与したと判断している。このためCASへの控訴は時間とお金の無駄であり、FAMはこの問題にこだわるのではなく、組織の立て直しに力を注ぐべきだ。」

さらにカマルル氏は、FAMが今最優先で取り組むべきは、協会としての信頼と誠実さを回復し、サポーターや国際的なパートナーからの信用を取り戻すことだと強調しています。

「FAMの信用は傷ついたが、今こそ運営陣は、どのように立て直すかを戦略的に考えるときである。過去を振り返るのではなく、内部の問題を修正することに集中しなければならない。今のFAMはまるで空気の抜けたボールのようなもので、これ以上蹴り続けるのではなく、回復するための支援と時間、そして余地を与えるべきだ。」

またカマルル氏は、FAMの運営陣に対し、今後同様の事件を防ぐために、全ての手続きや書類管理システムを見直すようことにも着手するべきだとも提言しています


元FAM理事「CASへの提訴でFAMが勝つには奇跡を祈るしかない」

また元FAM理事会のメンバーだったクリストファー・ラジ氏は、マレーシアサッカーのサポーターとして、CASへ控訴することは否定せず、またそこでFAMが勝つことを心から願っているものの、現実的には奇跡が起きるしかないと、ブリタハリアンとのインタビューで述べています。

ラジ氏によると、2023年と2024年にCASに持ち込まれたFIFAを相手取った控訴54件中、FIFAはその54件全てに勝訴しているということです。このため、FIFAの規律委員会で処分が決定され、その処分がFIFAの控訴委員会でも支持されている今回の件について、FAMがCASで勝訴することができれば奇跡的なことだと述べています。


スポーツ専門弁護士「CASでの勝訴はFAMが新たな証拠を提示できるかどうかにかかっている」

またスポーツ弁護士のニック・エルマン氏は、CASでのFAMの訴訟は具体的な新たな証拠を提示できるかどうかにかかっていると述べています。

「FAMは一貫して、書類が偽造されていることを知らなかったと主張しているが、選手が代表チームでプレーする資格があることを保証するのは協会の責任である。「FAMが『原本』の存在を否定するのであれば、FIFAが入手した書類が不正確であるか、あるいはそれが7選手の祖父母のものではないことを示す証拠を提出する必要がある。」

「CASにおけるFAMの勝訴の可能性は、FIFA控訴委員会が下した決定から事実上の誤りと法律上の誤りを見つけることが必要にある。」

さらにFAMはCASで新たな証拠を提示することはできた場合には、その証拠を提示する合理的な理由と、なぜ以前の段階で提示されなかったのかという理由も必要になるとニック・エルマン氏は述べています。

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ここでおさらいしておくと、FIFAの規律委員会における事実関係の主な争点は、7名のヘリテイジ帰化選手の祖父母の出生届の『原本』の存在の有無に関するものでした。これについてFAMは『原本』が存在していないとし、マレーシア政府の国民登録局も『原本』が入手できなかったとして、(7選手の出身地である)アルゼンチンやブラジル、スペインから得た書類に基づき、7選手の祖父母の出生届を『再発行』したと説明しています。

しかしFIFAはFAMが存在しないと主張した『原本』を入手した上で、7選手がマレーシア国籍を取得するための書類が1次資料(原本)によるものではないとして、FAMによる精査が不完全であると判断し、今回の裁定を下しています。

これに対してFAMは適切な手続きをすべて踏んでいたと主張しています。具体的にはた。1)選手の申請書は、必要な書類をすべて揃えてマレーシア政府に提出された。2)国民登録局は必要なすべての検証を実施した。3)選手の祖父母とマレーシアのつながりは、マレーシア憲法に基づき認証された。4)FAMは、申請は誠意を持って行い、提出した書類が偽造される可能性があることを知らなかった。

そしてFAMも7名の選手も、提出された書類が偽造されている可能性があることを全く認識していなかったと主張しています。またFIFAが偽造であると主張している文書は、FAMが作成したものではないとして、FAMと選手の行動は正当であり、いかなる意図や過失もないとも主張しています。

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ニック・エルマン氏は、CASへの控訴の目的は、裁定そのものに異議を唱えること、あるいは裁定内容の軽減を求めることのいずれかだが、CASの手続きは100万リンギを超えることもあるため、裁定内容軽減のみを訴えても時間と費用に見合わない可能性があるとと説明しています。


イスマイル殿下はCASへの控訴費用全額負担を申し出

FAMとは無関係を主張する一方で、代表チーム強化の中心的人物でもあるジョホール州摂政のトゥンク・イスマイル殿下は、マレーシアサッカー協会(FAM)が7名のヘリテイジ帰化選手に関するFIFAの裁定をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴する際の訴訟費用や弁護団の移動費用など全額を負担することを表明してい4ます。

国内リーグ11連覇中でマレーシア代表チームのおよそ3分の2が所属するジョホール・ダルル・タジム(JDT)のオーナーでもあるイスマイル殿下は、これがFIFAから出場停止処分を受けた選手たちのために正義を求める取り組みを全面的に支持するためであると述べています。またこれを伝えた英字紙ニューストレイツタイムズは、この支援がFAMの財政負担を軽減するとともに、訴訟に関わる弁護団への信頼も示しているとしています。

またかつてはFAM会長を務めたこともあるイスマイル殿下はFIFAに対する最近の自身による批判(詳しくは下)について、FIFAから何らかの報復を受ける可能性についても動じていないと述べています。

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このブログでも既に取り上げましたが、イスマイル殿下は、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手への処分に対するFIFAの控訴棄却決定を強く批判しています。

イスマイル殿下はFIFAが規定の適用を誤っていると主張しています。FIFAが今回の処分の根拠としている規程第22条では、「偽造文書を作成または使用した者に対して制裁を科す」となっており、当事者である選手には適用されないと主張し、規定の誤った適用によって選手が不当に処罰を受けていると主張しています。そしてこの誤用については、「『政治的な動機』に基づいているように思われる。」と主張しています。

その上で殿下は「非難する者もいれば、騒ぎ立てる者もいる。しかし私は、選手たちのために最後までどんな犠牲を払ってでも闘い続けることを決意し、その闘いは独立機関であるCASで行われることになる」とも述べています。た。

前FAM会長「公平を期すために訴訟手続きを最後まで進めさせるべき」

前FAM会長で前マレーシア国王でもあるパハン州のアル=スルタン・アブドラ殿下は、現在進行中の調査は適切な手続きをもって進められるべきであり、関係者たちが真実を明らかにするだろうと述べています。

「既に多くの人々が意見を述べているので、この件について私が何かコメントする必要はないだろう。と述べたアル=スルタン・アブドル陛下は、「公平を期すために、手続きを最後まで進めさせまべきだ。そうすれば関係する当事者たちから真実が示されるだろう。」

さらにアル=スルタン・アブドゥラ陛下は、今回のナショナルチームの出来事は、今後同じ過ちを繰り返さないための貴重な教訓とすべきだとも述べています。

「もちろん、この件は今後の全ての人々への警鐘とすべきである。我々はマレーシアのサッカーの発展のために状況を改善する努力を怠らず、また、国内のサッカー界が直面している不安や困難から立ち上がる必要がある」


国籍偽装疑惑選手の1人はクラブが解雇を検討か

マレーシアサッカー協会(FAM)のFIFAへの控訴が失敗に終わったことを受け、アルゼンチン出身のマレーシア代表FWロドリゴ・オルガドが所属クラブとの契約が解除される可能性があると英字紙ニューストレイツタイムズが報じています。

オルガド選手が所属するコロンビア1部のアメリカ・デ・カリは、オルガド選手との契約を解除する手続きを進めているとコロンビアのスポーツ記者パイプ・シエラ氏が自身のX(旧Twitter)に投稿しています。

「クラブ・アメリカは、FIFA控訴委員会からの最新の回答を受け、弁護士を通じてロドリゴ・オルガドの契約解除手続きを進めている。」

FIFAの控訴委員会は11月3日にFAMの控訴を棄却し、FIFA規律委員会による以前の裁定を支持することを発表しています。規律委員会は遡ること9月26日に、FAMには35万スイスフラン(約およそ6660万円)の罰金処分、また、7名のヘリテイジ帰化選手に対しては、マレーシア代表資格を得るための書類偽造に関与したとして、それぞれ12か月の出場停止処分と2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金処分を科していました。

30歳のオルガド選手は2024年からアメリカ・デ・カリに所属しており、これまで77試合に出場して18ゴール5アシストを記録しています。また今年6月4日にマレーシア国籍を取得すると、6月10日のアジアカップ3次予選ベトナム戦で代表デビューを果たし、さらにその試合でマレーシア代表としての初ゴールを決めて、11年ぶりとなるベトナム戦勝利に貢献していました。