国籍偽装が疑われるマレーシア代表のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)7名に対し、FIFAはマレーシアサッカー協会(FAM)に罰金、7選手に対しては罰金と12ヶ月に及ぶあらゆるサッカー活動への参加禁止処分を科したのが9月26日。これに対してFAMは10月14日にFIFA控訴委員会に正式な上訴書を提出して控訴を行いました。この控訴内容を審議し、FIFAが最終判断を下すのが10月30日と発表されていましたが、この記事の執筆時点ではFIFAからの発表はありません。
マレーシアのニュースポータルサイトであるスクープは、「事情に詳しい関係者」の話として、控訴委員会が控訴手続き中にFAMが提出した特定の祖先に関する文書について追加の説明を求めたと報じています。この関係者によると、この事件の規模と影響を考慮して、控訴委員会は慎重なアプローチを取っている、ということです。
さらにその関係者は「書類にはまだ矛盾点がいくつかあり、相互検証が必要だ。最終判決はどちらに転ぶか分からないが、完全な無罪判決が出る可能性は極めて低いだろう。」とも述べているということです。
またスクープは、控訴委員会に近い別の関係者の話として、FIFAはこの件がマレーシアサッカー界だけでなく、今後世界中で帰化や資格問題がどのように扱われるかに関わる繊細な問題であることを理解しており、裁定の正当性に影響を与えないよう徹底することに熱心であり、最終判断を急いでいない」と付け加えたということです。
国籍偽装疑惑問題-アルゼンチンメディアがガルセスとマチュカの祖父母がマレーシア生まれでないと報道
そんな中、アルゼンチンのニュースポータルサイトが自国出身のヘリテイジ帰化選手2名について、その祖父母の出身地がマレーシアではなくアルゼンチンであると報じています。
アルゼンチンのニュースポータルサイト(Capital de Noticias(CDN)を引用する形で、マレーシアの英字紙ニューストレイツタイムズが報じているのは、いずれも今年6月にマレーシア国籍を取得し、6月10日のAFCアジアカップ予選ベトナム戦に出場したDFファクンド・ガルセス(スペイン1部デポルティーボ・アラベス)、FWイマノル・マチュカ(アルゼンチン1部ベレス・サルスフィエルド)両選手の持つマレーシアのルーツについての情報です。
CDNはこの両選手の祖父母の出身地について新たな証拠を発見したと報じています。ガルセス選手の祖父は1930年5月29日にアルゼンチン北部のサンタフェ州の州都サンタフェ・デ・ラ・ベラクルスで生まれ、またマチュカ選手の祖母は同じサンタフェ州のロルダンという街で生まれたとし、記事には出生届の写真も掲載されています。
なおこのCDNの記事を引用しているニューストレイツタイムズは、この記事にその写真が記載されている出生届については公式文書であるかどうかについては確認が取れていないと注意書きも記載しています。
FAMがFIFAに提出した書類では、ガルセス選手の祖父、マチュカ選手の祖母にいずれもペナン生まれと記載されており、これが両選手の持つマレーシアのルーツとして、マレーシア代表としてベトナム戦に出場していました。
国籍偽装疑惑は、この両選手に加えてアルゼンチン出身のFWロドリゴ・オルガド(コロンビア1部アメリカ・デ・カリ)、スペイン出身のDFガブリエル・パルメロ(スペイン3部ウニオニスタス・デ・サラマンカ)とDFジョン・イラザバル(ジョホール・ダルル・タジム)、ブラジル出身のFWジョアン・フィゲイレド(ジョホール・ダルル・タジム)、オランダ出身のMFエクトル・へヴェル(ジョホール・ダルル・タジム)の5選手も処分の対象となっています。
FIFAの最終判断が出る前に、今回の国籍偽装疑惑問題のこれまでの経緯を振り返ってみると以下のようになります。
2024年
- 年末:マレーシアサッカー協会(FAM)がヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ選手)」の発掘を開始を発表。
- 12月4日:ハミディン・アミンFAM会長が2025年1月の任期終了を前に再選を目指さないことを発表。
- 12月16日:マレーシア代表監督にピーター・クラモフスキー氏就任。
- 12月30日:マレーシア代表CEOにロブ・フレンド氏就任。
2025年
- 1月11日:トゥンク・イスマイル殿下が6〜7人のヘリテイジ帰化選手候補を特定したことを発表。
- 1月(時期不明):ヘリテイジ帰化選手たちのMyKad(マレーシア国民身分証)申請が開始される。
- 2月15日:FAM会長にジョハリ・アユブ氏が就任。
- 3月25日:ヘリテイジ帰化選手のヘクター・ヘベルがマレーシア代表デビュー(マレーシア対ネパール戦)。
- 5月29日:ヘリテイジ帰化選手のガブリエル・パルメロがマレーシア代表デビュー(マレーシア対カーボベルデ戦)。
- 6月10日:いずれもヘリテイジ帰化選手のファクンド・ガルセス、ロドリゴ・オルガド、ジョン・イラサバル、ジョアン・フィゲイレード、イマノル・マチュカがマレーシア代表デビュー(マレーシア対ベトナム戦)。
- 6月11日:ヘリテイジ帰化選手のマレーシア代表資格(国籍偽装)についてFIFAに正式な苦情が送付される。
- 8月27日:ジョハリ・アユブFAM会長が病気を理由に辞任。
- 9月26日:FIFAが制裁処分発表。FAMに罰金処分、7人の帰化選手には罰金と12ヶ月の出場停止処分が下される。
- 9月27日:内務大臣が、7人のヘリテイジ帰化選手の国籍取得はマレーシア連邦憲法に基づくものであると説明。
- 10月6日:FIFAが「決定理由通知書(Notification of ground of decision)」をFAMに送付。
- 10月7日:FAMが控訴の意向を正式に表明。
- 10月14日:FAMがFIFA控訴委員会に正式な上訴書を提出。
- 10月17日:FAMがノー・アズマン事務総長の無期限停職処分を発表。
- 10月25日:トゥンク・イスマイル殿下がヘリテイジ帰化選手の国籍偽装疑惑問題に関する記者会見を開催。
- 10月27日:ラウス・シャリフ元最高裁長官がFAM設立の独立調査チームのトップに任命される。
- 10月30日:FIFAがFAMの控訴に対する最終決定を発表する予定
*しかし、11月1日午前10時現在(マレーシア時間)発表なし。
