本日10月30日は、ここおよそ1ヶ月に渡ってマレーシアサッカーを揺るがしているヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)の国籍偽装疑惑についてFIFAが最終判断を明らかにすることになっています。
9月26日にFIFAは国籍偽装に関わったとしてマレーシアサッカー協会(FAM)に対しては罰金を科し、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手にはそれぞれの罰金と12か月の出場停止処分を下しています。FAMはこの処分に対してFIFAに控訴しており、その最終判断が本日発表されることになっています。
国籍偽装疑惑:パハン州皇太子が7人のヘリテイジ帰化選手をFAMに推薦したことを明かす
パハン州皇太子で前国王のアブドラ国王の弟君でもあるトゥンク・ムダ・パハンことトゥンク・アブドル・ラーマン・スルタン・アフマド・シャー殿下は、FIFAから処分を受けた7名のヘリテージ帰化選手について、自身がマレーシアサッカー協会(FAM)に推薦した選手の中に含まれていたことを明らかにしています。
殿下は、自身の推薦はマレーシア代表を強化するための取り組みの一環だったと説明し、きっかけは昨年、数名の代理人から、評価を目的として複数の選手を紹介する連絡を受けたと話しています。
「私はその提案をFAMに送り、より詳細な評価を行うように求めた。これは彼らがヘリテイジ帰化選手として代表チームでプレーする資格を持つかどうかを判断するためだ」と、殿下は10月24日にメディアに向けた声明で明らかにしています。
さらに殿下は、7人の選手はいずれも政府の法的手続きに基づいて市民権を付与された、正真正銘のマレーシア国民であると強調した上で、選手の推薦はマレーシアにルーツを持つ選手たちが国のために貢献する機会を得られるようにという善意から行ったものだ」とも説明しています。
またこの声明の中でトゥンク・アブドル・ラーマン殿下は、ジョホール皇太子トゥンク・イスマイル殿下に対し、ジョホール・ダルル・タジム(JDT)を通じて国内サッカーのレベル向上、クラブ運営のプロフェッショナリズム確立に尽力していることへの敬意を表しています。
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パハン州もこれまでに、ガンビア出身のFWモハマドゥ・スマレ(現在はジョホール所属)、アルゼンチン出身のMFエゼキエル・アグエロ(現在はタイ1部カーンチャナブリーパワーFC)、リー・タック(引退)といった選手のマレーシア国籍取得に関わり、マレーシア代表の強化に貢献してきたことについても、トゥンク・アブドル・ラーマン殿下は声明の中で述べていますが、上記の3選手はいずれもマレーシア国内で5年間正確したことで代表資格を得た帰化選手で、今回のヘリテイジ帰化選手とは別のケースです。
父君のアフマド・シャー殿下は1994年から2002年までAFCの会長を務め、FAMによる会長を1994年から2014年まで務めたこともあり、兄君のスルタン・アブドラ殿下もAFCの理事やFIFA評議会の委員を務めたことがあるなど、パハン州の王族は国内外でサッカーに関わってきたこともあり、選手の売り込みなどが集まってきやすい環境だったのかもしれません。しかし、FAMへ推薦した選手を売り込んできたのがどの代理人なのかは、トゥンク・アブドル・ラーマン殿下が口を開かない限りわからなくなってしまいました。
このブログでも取り上げてきたように、FIFAはFAMが提出した祖父母の出生証明書などの一部の補足書類に、選手の実際の出生国における公式記録と一致しない情報が含まれていたとして、マレーシアサッカー協会(FAM)および7名のヘリテイジ帰化選手に対する懲戒処分の詳細な理由書を公表した。なおFAMはすでに控訴を行っており、7人の選手の代表資格手続きに不正は一切なかったと主張、さらにFIFAに提出されたすべての書類は正式な手続きに従って取得されたものであると強調しています。
イスマイル殿下が会見「FAMでの役職はない。ただ代表チームを支援したいだけ」
10月25日にクアラルンプール郊外のホテルで、ジョホール州摂政でジョホール・ダルル・タジムFCのオーナーとしても知られているトゥンク・イスマイル殿下の記者会見が行われました。
会場にはマレーシアサッカー協会(FAM)のバナーとロゴが掲げられる一方で、壇上に設けられたのはトゥンク・イスマイル殿下の席一つと異例のセッティング。しかも報道によると、会長不在の現在、会長代行を務めるユソフ・マハディ副会長や、今年1月まで会長を務めたはアミディン・アミン名誉会長らFAMの幹部は壇上ではなく一般席に座っていたということです。
なぜかジョホール・ダルル・タジムFCの公式SNSでもライブ配信されたこの会見には、およそ30名ほどの報道関係者が集まり、イスマイル殿下は「何でも自由に質問してほしい」とメディアに呼びかけ、その言葉どおり率直に答えています。
メディアサイトのTwentytwo13から「FAMの代表ではないあなたが、どの立場でメディアに対応しているのか」と問われた殿下は以下のように答えています。
「数か月前、FAMから『代表チームプロジェクト』への関与を求められたからだ。
インフラ、人的ネットワーク、予算、必要なことなら何でも支援すると約束した。代表チームは我々にとって非常に大切な存在です。各州のサッカー協会を含むマレーシアの全てのサッカー関係者が、選手育成やリーグ運営、スポーツ施設の活用を通じて、代表を支える役割を果たすべきだと思います。」と答えてイスマイル殿下は、その一方で以下のような発言もしています。
「私はFAMでの役職は持っていない。しかし代表を支援したい。そのためにここに来ている。」
さらにイスマイル殿下は、代表チーム支援のためマレーシア政府に働きかけ、FAMが資金を確保できるよう助力したことも明かしています。その説明通り、2025年度予算の審議で、アンワル・イブラヒム首相は「代表強化のために」1,500万リンギ(およそ5億4300万円)を割り当てています。またこの件について、代表チームのロブ・フレンドCEOは、10月17日にFAC本部で開かれた記者会見で「このプロジェクトには3つの主体が関わっている」と述べ、トゥンク・イスマイル殿下、代表チーム、そしてFAMの名を挙げています。(ただしその直後すぐに「FAMが主導機関である」と補足していました。)
なおイスマイル殿下は、政府からの支援金の具体的な使用方法については把握しておらず、資金はFAMを通じて管理されており、代表チーム関係者もFAMに報告していると説明しました。
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さらにTwentytwo13から自らの役割を定義する正式文書があるかと問われた殿下の回答は以下のようなものでした。
「その必要はないと思っている。私は国内で最も充実したサッカー施設を持っており、この「業界」の一員である。代表チームが支援を必要とするなら、できる限りそれを行う。」
またジョホール・ダルル・タジムFCのオーナーという立場が利益相反になるのではとの指摘には、こう反論しています。
「利益相反だとは思っていない。FAMを支援するのはクラブも協会も立場は変わらない。私が代表チームに関わることで得られる『利益』などなく、むしろリスクの方が大きい。それは何か問題が起きれば責められるのは私自身だからだ。しかしそれでも私は善意でやっているのだ。」
また、かつて2017から2018年にかけて務めたFAM会長職への復帰の可能性を問われた際の回答は以下のようなものでした。
「(会長職は)もう経験済みだが、(2017年から2018年)当時も、FAMを常勤で運営できる人物に任せていた。(当時事務局長だった)ハミディン・アミン氏はとてもよくやってくれたと思っている。現在の私には多くの責務があり、再びFAMに戻るつもりはない。」
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さらにFIFAの規律委員会によって12ヶ月の出場停止処分を受けた7名のヘリテイジ帰化選手(ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、ロドリゴ・オルガド、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、エクトル・ヘヴェル) に関して、イスマイル殿下は「約27人の候補を代理人から紹介された」と明かしています。そしてそのうち7名だけが国民登録局(NRD)の要件を満たし、市民権を得たと説明した上で、独立調査の結果を待つ間、FAMがノー・アズマン・ラーマン事務総長を無期限職務停止とした判断に異議を唱えています。
「このプロジェクトには、スカウト、採用担当、事務担当なお多くの人が関わってきた。今回の処分については、全員が責任を共有すべきであり、それはロブ・フレンドCEOも例外ではない。責任の押し付け合いの結果、事務総長だけを責めるのは間違いであり、今は問題解決に集中すべきだ。」
また、以前に自身のSNSに投稿した際に「ニューヨークから苦情があった」と述べた件についても説明し、実際は「6月10日のベトナム戦(4-0の勝利)に関する抗議は、ベトナム国内の第三者から出されたもので、ベトナムサッカー協会(VFF)からのものではなかった」と明らかにしています。
注)「ニューヨークから苦情があった」とは、殿下がFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長とインドネシアサッカー協会のエリク・トヒル会長が一緒に写っている写真と共に自身のSMGBに行った投稿を指しています。
さらにイスマイル殿下は、「マレーシア代表の立場は厳しいが、FAMは最後まで戦う姿勢を示していると述べ、代表チームのFIFAランキングはここ数か月で上昇している」と述べた上で、最後に皮肉を交えてこう締めくくった。
「私を責めることで、誰かが夜ぐっすり眠れるのなら、喜んでその役を引き受けるつもりだ。」
FAMの独立調査委員会には元最高裁長官が就任
マレーシアサッカー協会(FAM)は、12ヶ月の出場停止処分を受けた7名のヘリテイジ帰化選手に関する国籍偽装疑惑問題を調査するため、元最高裁長官ラウス・シャリフ氏を委員長とする独立調査委員会を設置したと発表しています。
この国籍偽装疑惑問題についてFAMは、7名のヘリテイジ帰化選手に関しての書類をFIFAに提出する際に、担当したFAMの職員が国民登録局(NRD)が発行した7名の正式な身分証明書ではなく、選手代理人から提出された書類を誤ってアップロードしてしまったという「事務的なミス」が原因だと説明しています。
この「誤った書類」を理由に、9月26日にFIFAは国籍偽装に関わったとしてFAMに対して35万スイスフラン(およそ6690万円)の罰金を科し、国籍偽装が疑われる7名のヘリテイジ帰化選手にはそれぞれ2,000スイスフラン(およそ38万円)の罰金と12か月の出場停止処分を下しています。
10月17日にFAM本部で開かれた記者会見でシヴァスンダラムFAM副会長は、公正かつ透明な調査を行うため、独立委員会にはFAMの関係者を一切含めないと発表していました。
ラウス氏は2017年にマレーシア最高裁判所の長官を務め、法曹界で数十年にわたる経験を持ち、数多くの要職を歴任してきた人物で、Fラウス氏および彼が指名する独立委員会のメンバーが、徹底的かつ専門的な調査を行うことが期待されています。
なおこの登録手続きを監督していたノー・アズマンFAM事務局長は、無期限の職務停止処分を受けており、FAMは既にFIFAに対し処分に対する正式な控訴を提出しており、最終的な判断は本日10月30日に下される見通しです。
FIFAアセアンカップ新設-ASEAN11カ国が参加へ
10月24日から26日かけてマレーシアのクアラルンプールで開催されていたASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)首脳会談。これに合わせてマレーシア入りしていたFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は「FIFAアセアンカップ」の創設を発表しています。これは今回のASEAN首脳会議でそれまでのオブザーバーというポジションから正式にASEAN加盟が認められた東ティモールを加えた加盟全11カ国が参加する地域サッカー大会となるということです。
インファンティーノFIFA会長は、この大会について「地域のサッカーに新たな命を吹き込み、世界で最も人気のあるスポーツを通じてASEANの団結を象徴するもの」と述べています。
インファンティーノFIFA会長とカオ・キム・ホーンASEAN事務局長による、FIFAとASEANのサッカー発展に関する覚書(MoU)署名式後の記者会見では、この大会が、FIFAの国際マッチカレンダー内で開催されることも明らかにし、域内の最高の選手たちが競うことでサッカーを大きく発展させ、地域にとどまらず世界に輝きを放つことを目指すとし、このFIFAアセアンカップは、この地域で大成功を収めるだろうとも述べています。
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今回発表された「FIFAアセアンカップ」ですが、この新大会の具体的な詳細については何も明らかにされませんでした。この地域には1996年の第1回大会から続いてる「アセアン選手権」があり、これまで「スズキカップ」、「三菱電機カップ」そして2026年からは現代自動車が冠スポンサーとなり「現代カップ」に改称されるこの大会との関係については一切説明ありませんでした。このアセアン選手権は例年、年末から年始にかけて行われ、FIFA国際マッチカレンダー外で行われることから、代表の主力選手が集まるジョホール・ダルル・タジムFCは選手の招集にほぼ応じず、マレーシア代表はベストメンバーを組めずに大会に参加しています。FIFAアセアンカップは国際マッチカレンダー内での開催ということで、クラブが選手の招集を拒否することはできなくなるという点では本当の代表チーム同士の対戦になりますが、そうなるとアセアン選手権が今後も続く意味がなくなり、消滅してしまう可能性もあります。
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またこのMoU署名式後の会見では、同じイスラム教国としてマレーシアと国交があるパレスチナ問題に関連する形で、マレーシアメディアからFIFAがロシアを出場停止とする一方でイスラエルのワールドカップ予選参加を許可している「二重基準」について質問を受けたインファンティーノ会長は、「サッカーは政治的または地政学的な問題に影響されるべきではなく、あくまで人々を結びつける力であるべきだ」となんとも答えにならない返答をしていました。
またこの日の署名式には10月17日に国籍偽装疑惑問題で「事務的なミス」の責任を取らされる形でFAMから無期限の職務停止処分を受けているノー・アズマン元FAM事務局長の姿も目撃されています。
その後FAMの声明を発表し、ノー・アズマン元FAM事務局長はこのイベントに公務ではなく、「個人の立場」で参加していたことを明らかにしています。
ユソフ・マハディFAM会長代行は、メディアに掲載された写真は、FAMやFIFAの公式行事や式典とは関係のない場で撮影されたものだと説明し、10月17日の停職処分以降、ノー・アズマン元FAM事務局長はFAMの公式活動、会議、またはプログラムには一切関与していないとも説明しています。
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またFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長とジョホール・ダルル・タジムFCオーナーのトゥンク・イスマイル殿下が会談する様子を写した写真がインターネット上で拡散し、インファンティーノ会長のクアラルンプール訪問が制裁問題と関係しているのではとの臆測が報じられました。両者は10月26日に会談し、マレーシアサッカーの発展と将来の方向性について協議したと報じられています。
なおイスマイル殿下は前述の通り、前日10月25日に自身が開いた会見の中で、FAM内に自分の役職はなく、単に代表チームを支援している「一個人」いう立場を説明していました。
またこの会談がFIFAによるマレーシアサッカー協会(FAM)への制裁問題に関連しているのではないかという憶測がSNSなどで広がると、イスマイル殿下は「責任の押し付け合いをするために集まったのではなく。解決策を見つけ、マレーシアのサッカーのために強固な基盤を築くため」の会談であったと説明しています。
またFIFAも公式サイト上で声明を発表し、インファンティーノ会長の訪問は制裁問題とは無関係であり、公式業務出張の一環であったと明言しています。
