10月13日のニュース:<br>・国籍偽装疑惑問題-この問題に関わった「代理人」の役割とは?<br>・帰化選手ジョーダン・ミンターの代表デビューは14日のラオス戦?<br>・サッカー協会を管轄する青年スポーツ相は自身の過去の投稿に反論

シン・テヨン監督続投だったら結果はどうだったのだろう。

東南アジア勢最後の砦として2026W杯アジア4次予選まで駒を進めていたインドネシアは、初戦のサウジアラビア戦、そして昨日のイラク戦に連敗して敗退が決まりました。

前回の2022年W杯予選では2次予選でマレーシアに2戦2敗、しかもグループ最下位で敗退したインドネシアを指揮していたシン・テヨン監督。しかしかつての宗主国オランダ出身のヘリテイジ帰化選手(インドネシアにルーツを持つ帰化選手)による積極的な代表強化策もあり、その後は東南アジアの強豪に成長し、地域2強のタイやベトナムを脅かす存在になりました。シン監督率いるインドネシアは、2026年W杯3次予選では初戦でサウジアラビア、第2節ではオーストラリア、第3節ではバーレーンといずれも格上相手に引き分けると、中国、日本には敗れたもの、その後はサウジとの再戦で勝利するなど、4次予選進出が見えかけてきたところで、インドネシアサッカー協会のエリック・トヒル会長は「欧州出身のヘリテイジ帰化選手とのコミュニケーションに難あり」との理由から今年1月にシン監督を突如解任し、カリブ海の小国キュラソー代表監督として1年ほどしか経験のないオランダ出身のパトリック・クライファート氏を監督に据えました。

その後クライファート監督は3次予選の残り4試合を2勝2敗で終え、通算成績3勝3分4敗として4次予選へと駒を進めました。しかし4次予選ではサウジアラビアに2−3、イラクにも0−1と破れて予選敗退が決まっています。なおイラクのグラハム・アーノルド監督は、3次予選ではインドネシアが引き分けたオーストラリアの監督で、インドネシアとの引き分け後に6年以上勤めた監督を辞任し、今年5月からはイラクの監督に就任しており、いわばジャカルタの仇をジェッダで取られた形となりました。

それでも東南アジアのどの国も経験していないほどW杯本大会に近づいたインドネシア代表は、現在のヘリテイジ帰化選手による強化策を続けていくのか、クライファート監督の去就はどうなるか、などまだまだ話題を提供してくれそうです。


国籍偽装疑惑問題:この問題に関わった「代理人」の役割とは?

FIFAによって国籍偽装と認定されたマレーシア代表でプレーする7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)についてマレーシアサッカー協会(FAM)は、FIFAに書類を提出する際に職人による「軽微なミス」があったと発表しました。そのミスとは、FAMの職員がFIFAに提出した書類は「代理人」から提供された書類であり、本来提出するべき書類とは別の書類を提出したことだったと説明しています。

英字紙スターがこの「代理人」について深掘りする記事を掲載し、記事の中では、FAMの一件とは無関係のマレーシア国内で「代理人」業務を勤めている人物が匿名を条件にインタビューに答えています。

この人物によると代理人は、帰化の条件を満たす選手を探し出すスカウティングや、その選手とマレーシアサッカー協会をつなげることが主な業務で、代理人自身が帰化に関する書類作成を行ったり、帰化申請を代理人自身で行うといった煩雑な事務仕事は行わないと話しています。

「以前、自分が代理人を務めていた選手が帰化申請を行った際には、選手の代理人である自分ではなく、その選手が所属していたクラブが最初から最後まで手続きを進め、自分が関与する余地はなかった。」

「今回の7選手に関しては、どこかの代理人がまずこの7選手に声をかけた可能性がある。そしてその代理人が選手らとFAMを繋ぎ、その際にこの代理人がFAMに対して何かの書類を提出したか、帰化申請についての協議を始めた可能性がある。しかし、FIFAへの書類提出は代理人ではなく、マレーシアサッカー協会が行なっているはずだ。」

「選手がある国の代表としてプレー際には、選手とその国との「明確なつながり」を示す要件として、1)その国に少なくとも5年の居住歴を有していること2)その国生まれの親もしくは祖父母がいることのいずれかをFIFAは挙げている。なお選手に国籍を与える権利自体は当該国にあり、FIFAが介入するのはその選手がFIFAが規定する代表選手としての要件を満たしているかどうかを審査するときだけだ」とこの代理人は説明しています。


この記事もそうですが、問題になっているのはヘリテイジ帰化選手7名がマレーシア国籍を持っているかどうかではなく、FIFAに提出された書類がこの7選手とマレーシアとの明確なつながりを示すことができなかったということ。そうなるとこの7選手はマレーシア国籍は得たものの、マレーシア代表としてプレーできないことになります。その一方で今回処分を受けたヘリテイジ帰化選手の母国であるアルゼンチンやブラジル、スペインは二重国籍を認めていたり、元の国籍への回復が不可能ではないようなので、用がなくなればマレーシア国籍を放棄してしまうかも知れません。

帰化選手ジョーダン・ミンターの代表デビューは14日のラオス戦?

国籍偽装疑惑により12ヶ月の出場停止処分を受けている7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツがある帰化選手)とは別に、今年に入ってマレーシア国籍を取得したのがクチン・シティでプレーするガーナ出身FWジョーダン・ミンターです。

今年8月29日にマレーシア国籍を取得したミンター選手は、2020年からマレーシアリーグでプレーしており、ヘリテイジ帰化選手としてではなく、マレーシアでの5年の居住歴を有することでマレーシア代表としてプレーする資格を得たはずでした。

マレーシア国籍を取得したことで、今月のFIFA国際マッチカレンダーで行われているアジア杯2027年大会予選に向けたマレーシア代表にも召集されているミンター選手ですが、10月9日に行われたラオスとの試合ではベンチ外でした。前述のヘリテイジ帰化選手7名を欠くマレーシアにとっては、国内リーグ51試合で27ゴール4アシストの成績を残しているミンター選手は貴重な戦力ですが、ベンチ外だった理由はマレーシア代表として試合に出場するための書類の手続きが終わっていないことだったことが明らかになっています。

マレーシアのピーター・クラモフスキー監督は詳しい状況は把握していないとしながらも、明日10月14日の試合前までに書類の手続きが終われば、ラオス戦ではベンチ入りだろうと説明しています。


サッカー協会を管轄する青年スポーツ相は自身の過去の投稿に反論

マレーシアサッカー協会(FAM)を管轄するマレーシア政府青年スポーツ省のハンナ・ヨー大臣は、かつて自身が行なった帰化選手に関する投稿の内容を批判する一部の声に対して反論しています。

ヨー青年スポーツ相は、野党議員時代の2022年に英国生まれのリー・タックがマレーシアリーグで5年間プレーしたことを受けてマレーシア国籍を取得した際、マレーシア国内に住む「国籍を持たない子供」による国籍申請がなかなか認められない点を挙げて当時のマレーシア政府を批判。「国籍を持たない子供たちは自分たちの存在に注目されるために全員がサッカーをしなければならないのか」といった皮肉も交えて政府の対応が不公平であり不誠実であるという批判を展開していました。

しかしヘリテイジ帰化選手の国籍偽装疑惑に対してFAMを擁護するヨー青年スポーツ相に対して、SNS上ではこの3年前の投稿を引き合いに出し、その変遷を非難する声が上がっています。

これに対してヨー青年スポーツ相は、現在のアンワル・イブラヒム首相率いる政府となってからは、投稿を行った当時と状況は全く変わっていると説明しています。現在の政府が発足した2023年以来、現在までにそれまで未対応となっていた5万件近くの国籍申請手続きを処理していると説明、かつての政府がこれほど多くの国籍申請手続きに対応してきたことはないとしています。

さらにアンワル政権下では憲法も改正され、マレーシア国外でマレーシア人の母親に生まれた子どもにはマレーシア国籍が自動的に付与されるようになった(注:憲法改正以前までは父親がマレーシア人の場合のみ、その子どもにマレーシア国籍が自動的に付与されていた)ことも説明したヨー青年スポーツ相は、事実が何かを見極めることが現代のデジタル社会では重要だと述べ、過去の投稿を元に現政権批判を行う一部のネットの声に対し、それを鵜呑みしないようなリテラシーが必要であると、自身のSNSで反論しています。