一昨日7月12日に今季2025/26シーズンの初観戦となるクランタン・レッド・ウォリアーズFC(KRW FC)対ヌグリ・スンビランFC戦を観戦しました。この試合はマレー半島東海岸のクランタン州を本拠地とするKRW FCとヌグリ・スンビラン州を本拠地にするヌグリ・スンビランFCがクアラルンプールのKLフットボールスタジアムで対戦すると言うなかなか珍しい試合でした。
KRW FCはマレーシアのサッカーどころとも言えるクランタン州を本拠地とし、2012年にはリーグ、FAカップ、マレーシアカップの国内三冠なども達成したことがある名門ながら放漫財政や民営化の失敗などで消滅してしまったクランタンFCの流れを汲むクラブとして新たに発足し、今季から実質2部のA1セミプロリーグに参戦するクラブです。
一方のヌグリ・スンビランFCは過去数年は、チーム強化のための投資をあまり積極的に行ってこなかったクラブで、1部スーパーリーグに昇格した2022年はリーグ4位だったものの、そこからクラブ創設100周年となった2023年は9位、そして昨季2024/25シーズンは12位と苦しんでいましたが、このオフには、新監督として昨季途中までスランゴールFCの監督を務めていたニザム・ジャミル監督が就任し、また近年にない積極的な補強を行いました。
そんな両チームの対戦は、いずれも新戦力のヨヴァン・モティカ(KLシティFCから移籍)と常安澪(J3ガイナーレ鳥取よりローン移籍)の左右両WGが試合開始から躍動し、ヌグリ・スンビランが押し気味に試合を進めます。先制点もこのコンビが機能し、モティカ選手のクロスを常安選手が高いジャンプからヘディングシュートを決めて先制しました。試合は後半にもやはり新戦力のルクマン・ハキムが絡んで2点目を挙げたヌグリ・スンビランが快勝しています。コンビネーションにはまだまだ改善の要素があるように見えましたが、佐々木匠選手が孤軍奮闘した昨季終盤のチームからは明らかに変わっており、ヌグリ・スンビランFCは今季の台風の目になりような予感を感じました。
一方のKRW FCは、2012年のクランタンFC国内三冠達成の時の主力選手だったマット・ヨーの愛称で知られる39歳のFWノーシャルル・イドラン・タラハがキャプテンとして先発し、スタンドの大半を占めたKRW FCサポーターが大盛り上がりを見せていました。マレーシア代表として31ゴールを決めている大ベテランは昨季で引退していましたが、7月1日にKRW FCと契約を結んで現役復帰しています。クラブ創設から1シーズンでの1部スーパーリーグ入りを目指すKRW FCをピッチ内外でリードする存在となりそうです。またこの試合前に正式に加入が発表されたFWエマニュエル・ムバルガ(タイ1部チャイナート・ホーンビルFCから加入)、AMFケイデン・ソパー(マンジュンシティFCから加入)、そしてイギリス生まれのパキスタン代表FWオティス・カーン(英国4部オールダム・アスレチックAFCから加入)の外国籍選手も揃って出場しています。
昨季給料未払い問題発生のクランタンTRW FCには大量12名の外国籍選手が加入
前述のクランタン・レッド・ウォリアーズFCは今季から実質2部のA1セミプロリーグに参入するクラブですが、クランタンには1部スーパーリーグに所属するクランタン・ダルル・ナイムFCというクラブもあります。こちらはKRW FCの前身クランタンFCの凋落と時を同じくして、3部から2部、そして1部へと這い上がってきたクラブです。かつてはクランタン・ユナイテッドFCという名称で、前日本代表の本山雅志氏も2021年から2年間在籍したことがあるクラブです。
このクラブが今季はクランタン・ザ・リアル・ウォリアーズFC(KTRW FC)と名称を変更してスーパーリーグへ参戦することが明らかになりました。前述のクランタン・レッド・ウォリアーズFCはKRW FCと表されますが、こちらはKTRW FCとなり、なぜこんなにややこしい名称にしたのかは不明です。
このKTRW FCは、昨季は給料未払い問題が起こり、シーズン後半は外国籍選手を含めた多くの主力選手が退団し、シーズン終盤はU23やU21チームの選手を試合に起用した結果、2勝1分21敗で得点16失点82という成績で12位のヌグリ・スンビランFCから勝点9も離されたダントツの最下位でした。しかしのこのKTRW FCは、12名の外国籍選手を獲得するようだとマレーシアのスポーツ専門サイトのアストロ・アリーナが報じています。その12名は昨季はともにPDRM FCでプレーしたCFイフェダヨ・オルセグンとWGプリンス・アグレに加えて、フィリピン、ミャンマー、シエラレオネ、シリアの選手が加わることを、チームアドバイザーで、前クランタン州サッカー協会会長のアヌアル・ムサ氏が明らかにしています。
アヌアル氏は、今季のKTRW FCは外国籍選手とトップリーグでの経験が豊富なマレーシア人選手が中心となり、育成が必要なマレーシア人若手選手がこれに加わるチーム編成となることも明らかにしています。
「このようなチーム編成にすることで、(前マレーシア代表コーチの)E・エラバラサン監督は育成だけでなく、結果にもフォーカスした指導ができるはずだ。クランタン州のサッカーファンは(昨季の成績に)耐え難く思っており、チームが勝利することを望んでいる。今季は(14チーム中の)トップ10入りを目標としているが、これは決して高望みな目標だとは思っていない。このチームが下位に沈むことはないと信じている。」とアヌアル氏は述べています。
アヌアル氏の志はともかく、KTRW FCは実はまだ問題を抱えています。昨季の給料未払い問題は当然のことながらクラブの財務状況に問題があったからですが、そのクラブが12名もの外国籍選手を獲得できるのは、KTRW FCがMFLの設けるクラブライセンス交付条件を満たしていないからだという指摘が出ています。MFLはクラブライセンス交付の条件にクラブが最低4つの年代別チームを運営することを求めています。そしてこの年代別チームの内、U21チームが参加するプレジデントカップと、U19チームが参加するユースカップにそれぞれ1チームを出場させることも条件としています。しかし今季2025/26シーズンのマレーシア1部スーパーリーグ出場のために必要なクラブライセンスを交付されたすべてのクラブの中で、KTRW FCだけが今季のプレジデントカップにもユースカップにもチームを出場させていません。にもかかわらずクラブライセンスを交付した第一審機関(FIB)とスーパーリーグを運営するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)には、リーグ参加チーム数を減らさないためにこの規則違反に目を瞑っているという批判も出ています。
さらに前述したようにこのチームは昨季も主力が退団したシーズン後半には、本来ならプレジデントカップやユースカップに出場するべきU23やU19の選手をスーパーリーグの試合で起用したことに対してMFLが警告なども含めた何の処分を科していないことも批判を受けています。なおこの件に関してMFLは、KTRW FCのU23やU19チームがプレジデントカップやユースカップに「昨季(2024/25シーズン)」出場したことを理由にクラブライセンス交付条件を満たしていると説明しています。
実質国内2部リーグのA1セミプロリーグの優勝賞金が倍増
現在2部リーグのプレミアリーグが休止中のため、実質2部となっている3部のA1セミプロリーグですが、今季は優勝賞金が倍増されることが発表されています。
A1セミプロリーグを運営するアマチュアフットボールリーグ(AFL)のユソフ・マハディ会長は、「今季の優勝賞金は、昨季から100%アップした20万リンギ(およそ690万円)となる。この増額が昨季以上のレベルアップとなり、さらによりエキサイティングなリーグとなることを期待している。」と述べています。
昨季優勝のマラッカFCと2位のイミグレセン(入国管理局)FCが1部スーパーリーグに昇格したA1スーパーリーグですが、今季からはスーパーリーグのセカンドチーム(フィーダーチーム)の参加が3シーズンぶりに認められ、スーパーリーグでは11連覇中の絶対王者ジョホール・ダルル・タジムFCのセカンドチームJDT IIと、同じくスーパーリーグで昨季2位のスランゴールFCのセカンドチームのスランゴールFC IIが参戦、また1部昇格を果たしたイミグレセンFCのセカンドチーム、イミグレセンFC IIも新たに参加します。この他、昨季もA1セミプロリーグでプレーしたATM(マレーシア国軍)FC、マレーシア大学FC、マンジュンシティFC、マチャンFC、そして昨季はブンガラヤ・ダマンサラFCとして参戦したクラブがブンガラヤFCとUMダマンサラFCに分かれて出場する他、実質3部のA2アマチュアリーグの優勝チームのクランタンWTS FCと準優勝のプルリスGSA FCもこのA1セミプロリーグに昇格します。
この10チームに加えて、今季の1部スーパーリーグ参入に必要なクラブライセンスを交付されなかったクダ・ダルル・アマンFCが今季はA1セミプロリーグに参戦する他、同じクダ州からクダ州サッカー協会(クダFA)チーム、同じくクラブライセンスが交付されず解散したペラFCに代わりペラ州サッカー協会(ペラFA)チーム、かつて国内三冠を達成したクランタンFCの流れを汲むクランタン・レッド・ウォリアーズFC、韓国のアマチュアクラブのFCソウル・フェニックスが加わった合計16チームが、今季のA1セミプロリーグに参戦します。
AFLの規定では、A1セミプロリーグ参加チームは最低10名の選手とプロ契約を結ぶことになっていますが、完全プロチームのJDT IIやスランゴールFC IIが参戦するため、この時点で既に「セミプロリーグ」ではなくなり、プロとアマチュアが同居するリーグとなります。また今季から参戦するクダ・ダルル・アマンFCもれっきとしたプロクラブであり、クランタン・レッド・ウォリアーズFCとペラFAもそれぞれ、スーパーリーグに在籍していたクランタンFCとペラFCの流れを汲んで誕生したチームであり、外国籍選手が参加することを表明しており、ほとんどプロリーグといった状況です。
この状況で予想されるのはリーグ内の二極化です。完全プロクラブとセミプロクラブが同居することで、A1セミプロリーグがユソフAFL会長が望む「昨季以上のレベルアップとなり、さらによりエキサイティングなリーグとなる」ことが実現できるのかどうかは、スーパーリーグより一足早く8月2日に開幕するリーグを見守りたいと思います。
マレーシア首相がKLサッカー協会に3400万円配分もなぜ?
マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、7月12日にクアラルンプールサッカー協会(KLFA)に100万リンギ(およそ3400万円)を配分することを発表しています。
KLFAの創設50周年記念式典に参加したアンワル首相は、これまで政府として国内で広く愛されているサッカーの発展を支援してきたと説明した上で、さらに発展を進めるための基礎としてインフラ整備に重きを置くことを求めたいと述べています。
「今回の配分はマレーシアサッカーを地位を高める機会になるよう、教育省や高等教育省、さらには他の教育機関と協力した上で下地づくりから始めるべきだと考えている。そのためには十分なインフラが欠かせない。練習場やトレーニング施設、アカデミーなど我々の子どもたちが正しく快適にトレーニングができるような環境を作ることが重要だ。」と式典の挨拶で述べたアンワル首相は、KLFA後援者で自身と同じ人民正義党所属のファーミ・ファジル通信大臣、サイド・ヤジドKLFA会長とともに登壇しました
アンワル首相は昨年はマレーシアサッカー協会(FAM)に対して、マレーシア代表強化のために1500万リンギ(およそ5億2000万円)を分配しており、他のスポーツ団体からはサッカーに偏った支援に対する不公平感への不満も出ており、今回のKLFAへの分配は、同様の声が今度は同じサッカー界の他州サッカー協会から上がる可能性があります。
