帰化選手大量招集のマレーシア代表に近隣諸国から疑惑の声が上がる。
6月10日のアジア杯2027年大会予選の2戦目となるベトナム代表戦を控えて、ブラジルやアルゼンチン、スペイン、オランダ出身のマレーシアにルーツを持つ帰化選手を次々と招集しているマレーシア代表に周辺国から疑惑の目が向けられています。
2025年に入ってからマレーシア代表入りが発表されたマレーシアにルーツを持つ帰化選手は以下の通りです。
氏名 | 年齢 | ポジション | 出身 | 代表戦初出場 |
エクトル・へヴェル | 29 | AMF | オランダ | 2025年3月 |
ガブリエル・パルメロ | 23 | SB | スペイン | 2025年6月 |
ファクンド・ガルセス | 25 | CB | アルゼンチン | 出場なし |
ロドリゴ・オルガド | 29 | FW | アルゼンチン | 出場なし |
イマノル・マチュカ | 25 | WG | アルゼンチン | 出場なし |
ジョアン・フィゲレイド | 29 | FW | ブラジル | 出場なし |
ジョン・イラザバル | 28 | CB | スペイン | 出場なし |
今回の対戦国であるベトナムや、タイ、インドネシアなど周辺国のサッカーファンからは、ブラジルやアルゼンチン、スペインにマレーシアにルーツを持つ選手がいるなど信じられないという声が多く上がっています。
東南アジアでは、かつては同じポルトガルの植民地だったブラジル出身の選手を自国にルーツを持つ選手と偽って代表入りさせるため、東ティモールサッカー協会が主導して出生証明や洗礼証明を偽造して12名のブラジル人選手をアジア杯予選やW杯予選に出場させた事件もあり、SNS上ではFIFAにマレーシアサッカー協会(FAM)を対象とした正式な調査を求める意見なども見られます。
帰化選手については、マレーシア国内でもそのルーツが最初から明かされなかったことから、メディア関係者を中心に、各選手がどのようなルーツを持つのかを明らかにすべきという意見が出る一方で、このご時世にリスクを冒してまでFAMが偽の帰化選手などを代表入りさせるはずがないという意見もあり、マレーシア国内でも皆が納得しているわけではありません。ここ数日になって、ガルセス選手にはマレーシア出身の祖母がいるだとか、へヴェル選手の祖父はマラッカ出身だとかという報道が出始めましたが、こういった報道で「疑惑」が収まるのかどうかは不明です。
オランダ出身の帰化選手エクトル・へヴェルがジョホールへ加入
6月10日にアジア杯2027年大会予選ベトナム代表戦に向けて、次々と帰化選手の加入が発表されているマレーシア代表。今年に入ってすでに6名のマレーシアにルーツを持つ外国出身の帰化選手が代表に招集されていますが、いち早く今年3月のアジア杯2027年大会予選ネパール戦でデビューしたのがオランダ出身のAMFエクトル・へヴェルでした。この試合では先制ゴールを決めるなど、ネパール代表戦勝利に貢献したへヴェル選手はポルトガル2部ポルティモネンセSC所属でしたが、この度、ジョホール・ダルル・タジムFC(JDT)入りすることが明らかになっています。
6月10日に行われるアジア杯予選第2戦のベトナム代表戦でも先発が予想されるへヴェルは、5月29日、そして6月3日に行われたカーボベルデ代表との国際親善試合には出場しませんでした。
これが発表になった後にXにも投稿しましたが、この移籍の話を聞いて思い出したのが2022年にベルギー1部のKASオイペンとの契約満了後にJDTに加入したスペイン生まれのジョルディ・アマトのことでした。スペインのカタルーニャ州出身のアマト選手は、地元のRCDエスパニョールのユースからBチームを経てトップチームまで昇格すると、その後は同じスペインのラージョ・バジェカーノ、英国2部のスウォンジー・シティAFC、スペインのレアル・ベティス、そしてKASオイペンを経て、2022年6月にJDT入りしています。スペインの年代別代表でもプレー経験があったアマト選手ですが、JDT入りに先立つ2022年5月にインドネシア国籍取得希望を表明しました。母方の祖母は現在のインドネシア南スラウェシ州マカッサル出身でかつて存在した王家の血を引く「王子」として、同年11月にインドネシア国籍を取得したアマト選手でしたが、その時にインドネシアサポーターからは、JDTで試合に出やすくなるために東南アジア選手枠を使うためのインドネシア国制取得なのではという非難と、インドネシア代表に貢献するのであれば、レベルの低いマレーシアではなくヨーロッパのリーグに残るべきという声でした。
アマト選手のインドネシア国籍取得反対には1万5000を超えるオンライン署名が集まり、国会議員の一部からも国籍取得手続きを慎重に行うべきといった意見も出ましたが、同年12月には東南アジア選手権「三菱電機カップ」のカンボジア代表戦に先発してインドネシア代表デビューを果たしています。しかし2022年3試合、2023年8試合、2024年はケガの影響もあり8試合と出場していた代表戦も、2026年W杯予選の日本戦以降はベンチ外や出場機会なしが4試合続いています。マレーシアでプレーを続けたことでレベルダウンしたのか、はたまたパトリック・クライファート監督就任に現れているようにかつての宗主国オランダ出身選手が増えたチーム状況に合わなくなったのか、その理由は不明です。
ちなみにアマト選手は2024/25シーズンを最後にJDTを退団するとされており、リーグ2連覇中のプルシブ・バンドンやバリ・ユナイテッドなどインドネシア1部の複数のクラブが獲得に動いているという情報もあります。
帰化選手のイマノル・マチュカは第一子誕生よりもマレーシア代表を優先
6月10日のベトナム代表戦に向けた合宿を行っているマレーシア代表に初めて合流したイマノル・マチュカ(アルゼンチン1部CAベレス・サルスフィエルド)は、今週生まれたばかりの第一子の顔を見ることなく代表合宿入りしていると、英字紙スターが報じています。
夫人の出産には立ち会わず、30時間かけてアルゼンチンからマレーシアへ移動したマチュカ選手は、SNSで長男の誕生を明らかにしています。
ブラジルのフォルタレーザECからCAベレス・サルスフィエルドへローン移籍中のマチュカ選手は、ベトナム代表戦に向けて初めて招集されたマレーシアにルーツを持つ5名の帰化選手のうちの1人で、25歳のウィングの選手です。
マレーシア代表のピーター・クラモフスキー監督は、6月6日にこのマチュカ選手を含めた代表合宿の第3段階となる最終メンバー30名を発表。シャミル・クティ(JDT)、ジクリ・カリリ(スランゴールFC)、ハキミ・アジム(クアラルンプールシティFC)が外れた一方で、セレッソ大阪での入団披露が行われた日本から戻ったディオン・クールズがメンバー入りしています。
アジア杯2027年大会予選は各組の1位のみが本戦に出場でき、予選F組では初戦でラオスに5−0と勝利したベトナムが首位、ネパールに2−0で勝利したマレーシアが勝点で並んでいるものの、得失差で2位につけています。マレーシアは2014年の東南アジア選手権での勝利を最後に、現在は1引き分けを挟んでベトナムに7連敗中ということもあり、恥も外聞もなく帰化選手を集めて今回の試合での勝利を目指しています。
2025年6月マレーシア代表合宿最終メンバー
GK:シーハン・ハズミ(JDT)、シーク・イズハン(スランゴールFC)、アズリ・ガニ(KLシティFC)、ハジク・ナズリ(ペラFC)
DF:ラヴェル・コービン=オング、ジュニオール・エルドストル、マシュー・ディヴィーズ、シャールル・サアド(以上JDT)、ハリス・ハイカル、クエンティン・チェン(以上スランゴールFC)、ダニエル・ティン(サバFC)、ウバイドラー・シャムスル(トレンガヌFC)、ディオン・クールズ(J1セレッソ大阪)、 ファクンド・ガルセス(スペイン1部デポルティーボ・アラベス)、ガブリエル・パルメロ(スペイン4部CDテネリフェB)、ジョン・イラザバル(アゼルバイジャン1部サバFK)
MF:アフィク・ファザイル、ナズミ・ファイズ(いずれもJDT)、ノーア・ライネ(スランゴールFC)、スチュアート・ウィルキン(サバFC)、エンドリック・ドス・サントス(ベトナム1部ホーチミンシティ)、エクトル・へヴェル(ポルトガル2部ポルティモネンセSC)
FW:アリフ・アイマン、ロメル・モラレス(以上JDT)、ファイサル・ハリム(スランゴールFC)、 サファウィ・ラシド(トレンガヌFC)、パウロ・ジョズエ(KLシティFC)、イマノル・マチュカ(アルゼンチン1部CAベレス・サルスフィエルド)、ジョアン・フィゲレイド(トルコ1部イスタンブール・バシャクシェヒルFK)、ロドリゴ・オルガド(コロンビア1部アメリカ・デ・カリ)
ジョホールがプレミアリーグ監督経験者のシスコ・ムニョス氏の監督就任を発表
マレーシアスーパーリーグ11連覇中のジョホール・ダルル・タジムFC(JDT)は、8月に開幕予定の2025/26シーズンに向けてシスコ・ムニョス新監督の就任をクラブ公式SNSを通じて発表しています。
スペイン出身のムニョス監督は45歳で、現役時代は2003/4シーズンにスペイン1部リーグとUEFAカップに優勝を果たしたバレンシアやレアル・ベティス、レバンテUDなどでプレーした後、現役終盤にプレーしたジョージア1部のディナモ・トビリシで2020/21シーズンにコーチから監督に昇格して8勝3敗の成績を収めると、シーズン途中に英国2部のワトフォードFCの監督に転身します。開幕から低迷していたワトフォードFCは、ムニョス監督就任後は快進撃を始めます、チームは途中5連勝なども記録、ムニョス監督自身も月間最優秀監督を獲得するなどしてこのシーズンを2位で終えたワドフォードFCを降格から1シーズンでプレミアリーグへ昇格させます。
しかし2021/22シーズンのプレミアリーグでは開幕から7試合で15位と低迷すると、ムニョス監督は更迭され、その後はウエスカSD(スペイン2部)、アノルトシス・ファマグスタ(キプロス1部)を経て、今度はシェフィールド・ウエンズデーの監督として2023/24シーズンに英国2部に復帰します。しかしチームが開幕からの10試合でわずか2勝と苦しむとあっさり解雇となり、その後はスロバキア1部のFC DAC 1904ドゥナイスカー・ストレダで、監督2シーズン目を迎えた昨年11月末に開幕15試合で6勝4分5敗の成績で更迭されています。
リーグ11連覇中、特に過去3シーズンは連続で国内三冠達成と国内では圧倒的な強さを誇るJDTですが、オーナーのジョホール州摂政、トゥンク・イスマイル殿下があくなき勝利を目指すチームの監督は安泰ではありません。11連覇の最初となる2014年シーズン優勝をもたらしたボヤン・ホダック監督(現インドネシア1部ブルシブ・バンドン監督)は1年で交代、以降は2度監督を務めたエクトル・ビドリオ監督を含めてのべ10名が監督を務めています。リーグ11連勝なので、この全ての監督が国内リーグでは優勝を果たしていますが、常連となっているACLでの成績がグループステージ止まりやノックアウトステージ1回戦止まりでは次のシーズンまで首がつながらないのが、JDTの厳しいところです。
新規参入のブルネイDPMM FCにマレーシア代表MFが加入
2025/26シーズンからマレーシアスーパーリーグに参入するブルネイDPMM FCは、マレーシア代表MFのセルヒオ・アグエロの加入を公式サイトで発表しています。
31歳のアグエロ選手はアルゼンチン出身で、マレーシアリーグで5年以上プレーしたこ後、マレーシア国籍を取得して2022年にマレーシア代表入りすると、2024年12月の東南アジア選手権「三菱電機カップ」シンガポール代表戦まで15試合に出場して3ゴール2アシストの成績を残しています。また5月28日に行われたマンチェスター・ユナイテッド対アセアンオールスターズ戦にマレーシア代表として出場して1-0の勝利に貢献、試合後にはマンUのルベン・アモリム監督から最も高い評価を受けています。
今季はリーグ8位に終わったスリ・パハンFCでプレーし、」25試合に出場し5ゴール3アシストを記録しています。なおスリ・パハンFCは、今季終了後に経営上の問題から来季のスーパーリーグ参加が不透明だったこともあり、多くの主力選手の放出しましたが、アグエロ選手もその1人で、当初は今季最下位だったクランタン・ダルル・ナイムFCへの移籍なども噂されていました。
ブルネイを拠点とするDPMM FCは、自国のブルネイ人選手と所属するマレーシア人選手について、スーパーリーグではマレーシア人選手と同じ扱いとすることが認められており、今季はペナンFCで22試合に出場したDFファイルズ・ザカリア、ペラFCで26試合に出場したDFトミー・マワトの加入を発表している他、かつてマレーシアリーグでもプレー経験のあるフィリピン代表CBアマニ・アギナルドをタイ1部ラヨーンFCから、インドネシア代表CFラマダン・サナンタをインドネシア1部プルシスソロからそれぞれ獲得、またアイスランド代表DFダミール・ムミノビッチ、北マケドニア代表GKクリスティヤン・ナウモフスキの残留なども発表しています。