6月27日のニュース・MFLが試合辞退のスランゴールに対する処分発表-サッカー協会も巻き込んだ「戦争」に発展も

開幕戦辞退のスランゴールへ処分発表:勝点剥奪・罰金及び賠償・無観客試合

マレーシアスーパーリーグを運営するマレーシアンフットボールリーグ(MFL)は、リーグ開幕戦となるスンバンシーカップの出場を辞退したスランゴールFCに対しての処分を6月25日に公式サイト上で発表しています。

5月10日に予定されていたこの試合は、今季2024/25スーパーリーグ開幕戦であるとともに、前年のリーグ覇者とマレーシアカップ優勝チームが対戦する「スンバンシーカップ」を兼ねた試合で、スランゴールFCは前年のリーグ覇者でマレーシアカップ優勝チームでもあるジョホール・ダルル・タジムFC(JDT)のホームゲームとして、ジョホール州イスカンダル・プテリにあるスルタン・イブラヒム・スタジアムで対戦する予定でした。

しかし、この試合の直前の5月5日にスランゴールFCに所属する代表FWファイサル・ハリムが酸をかけられるという事件があったことから、スランゴールFCはMFLに対して試合の延期を求めました。これに対してMFLはマレーシア王立警察本部などから安全を保証を確約されたとしてスランゴールFCの要請を拒否しました。

しかしスランゴールFCはMFLの説明に納得せず、結果的にこのスンバンシーカップの出場を辞退しました。この結果、試合はJDTの3-0で不戦勝となり、JDTは勝点3を獲得しました。

そしてこの件についてのMFL理事会が課した処分は以下の通りです。
1.  罰金10万リンギ(およそ340万円)
2. スランゴールFCの出場辞退によってMFLとJDTが被った損失への補償(具体的な金額はこの時点で発表なし)
3. 今季リーグ戦の勝点3剥奪
4. 今季第14節に予定されているスランゴールFC対JDTの試合の無観客実施

なおスランゴールFCは、この処分に対して不服申し立てを行うことを、クラブ公式SNSで直ちに発表しています。

各方面からの反発を受けたMFLは処分の理由をあらためて説明

MFLによる処分が発表されるとスランゴールFCの関係者やサポーターはもとより、各方面からその厳しさに批判や疑問の声が上がりました。これを受けてMFLのスチュアート・ラマリンガムCEOが6月26日にメディアに対応して、処分内容についての説明を行っています。

スチュアートCEOは、スランゴールFCは今回課された処分内容について不服申し立てを行う権利がある、と説明した上で、特に批判の声が多いスランゴールFCの無観客試合について説明しています。

今季第14節にはスランゴールFCのホーム、MBPJスタジアムでスランゴールFC対ジョホール・ダルル・タジムFC(JDT)の試合が予定されていますが、MFLは処分の一環として、この試合を無観客で行うことを命じました。

「MFL理事会はこの無観客試合処分を、商業的な観点から下している。本来であれば5月10日に(JDTのホーム)スルタン・イブラヒム・スタジアムで試合が行われ、それに伴う収入が発生していたはずである。その収入を失ったことに対して、スランゴールFCのホームでの試合で収入が発生するべきでないことが今回の処分の根拠であり、無観客試合はあくまでも商業的な公正さという観点の処分であることを理解して欲しい。」

「マレーシアのクラブは入場料収入が収入の大きな割合を占めていることは承知している。(スランゴールFC対JDTのような)ビッグマッチでの収入が重要なことも承知している。」

スチュアートCEOは、不服申し立てを受け付けることができるのは数日以内だとして、MFLの不服申し立て委員会を通して正式に申し立てをすることを求めるとともに、スポーツ仲介裁判所(CAS)に直接、この件を持ち込まないように釘を刺しています。

スランゴール州スルタンはハミディンFAM会長の沈黙に失望

MFLによる処分が発表された後、スランゴール州スルタン、スルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下が、マレーシアサッカー協会(FAM)のハミディン・アミン会長に失望と不満を表しています。

スルタンとはマレーシア各州のイスラム教の最高位であり、いわば「州王」とも言える存在です。スランゴール州のスルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下はスランゴールFCの後援者ですが、今回発表されたMFLの「過激な措置」に対して極めて失望し、悲しんでいるとともに、ハミディンFAM会長が「真剣に懸念を表明しなかった」ことにも不満を示しました。

元スランゴール州サッカー協会(FAS)会長でもあるスルタン・シャラフディン殿下は、6月26日に以下のような公式声明を発表しています。

「私は驚きと失望を感じている。ハミディンFAM会長は、1995年から2013年までFASの元事務局長であり、スランゴール州のサッカーに広範な経験を持ちながらも、真剣に懸念を表明しなかったことが信じられない。」

「私はこの最新のMFLの決定に非常に怒りを覚えている。これは無責任で、思いやりに欠け、不人道的で、起こった不正に対する関心を示していないと考える。」

「5月5日に、スランゴールFCとマレーシア代表のサッカー選手ファイサル・ハリムに対する生命を脅かす酸による攻撃事件が発生しました。同じ週に他のプロサッカー選手への暴行事件も発生した。このため、選手たちがまだトラウマと恐怖に苛まれている状態であるため、スンバンシーカップの試合の延期を要求するよう(後援者として)私はスランゴールFCに許可しました。

「しかし、MFLは延期要求を拒否し、3-0で対戦相手の勝利とスンバンシーカップを授与しました。」という発言に加え、スルタン・シャラフディン殿下は自身がFASの会長ならスランゴールFCの一定期間のリーグ撤退すら考えるととその怒りを表明しています。

なお、これを報じた英字紙ニューストレイトタイムズは、ハミディンFAM会長にがコメントを求めたところ、「申し訳ないが、今は(回答は)無理だ。」とという返答を受け取ったということです。

スランゴール州サッカー協会副会長がFAMの全てのポストを辞任

スランゴール州サッカー協会(FAS)副会長のシャリル・モクタール氏が、マレーシアサッカー協会(FAM)の全てのポストを辞任しています。なお、シャリル氏は、彼の決定がマレーシアンフットボールリーグ(MFL)がセランゴールFCに科した処罰に関する騒動とは無関係であると述べました。

これを報じた英字紙ニューストレイツタイムズU12代表のチームマネージャーを務めたこともあ李、FAM理事であり、またFAMスポンサー及びマ=ケティング委員会の委員長でもあるシャリル氏は、6月26日にハミディン・アミン会長が率いるFAMに対して辞任の意思を伝えたということです。

「私は今朝(6月26日朝)、ハミディン・アミン氏に対してFAMの全てのポストを即時に辞任することを伝えた。私の辞任の理由は、私とFAMとハミディン氏の間に留めておきたい」と述べたシャリル氏は、この決断はこれまで長期間にわたり検討していたものであり、MFLによる処分とは無関係である点を強調しています。

スランゴール州政府はセランゴールFCのための連帯基金を立ち上げ

スランゴール州政府は、同州スポーツ評議会(MSNS)を通じて、スランゴールFC連帯基金を設立することを発表し、6月26日から7月2日まで寄付を集めるということです。

同州青年スポーツ委員会のナジュワン・ハリミ委員長は、この取り組みは、今シーズンのスンバンシーカップの試合を辞退したスランゴールFCに対して10万リンギの罰金を科したマレーシアンフットボールリーグ(MFL)の「不公正で抑圧的な」決定を受けて行われると述べています。

「これまで、人々を団結させるスポーツとして称えられてきたサッカーが、暴力と過激主義によって汚され、分裂を引き起こすまでになっている。スランゴール州政府は、スランゴールFCが直面する様々な問題や不公正に対するスルタン・シャラフディン・イドリス・シャー殿下の断固とした姿勢と感受性を尊重する。」

「この取り組みは、州境を越えて全国全てのマレーシア人およびサッカーファンに、セランゴールFCを支持するためにRM1の貢献をする機会を提供することを目的としている。」と述べましたナジュワン委員長は、集められた資金はスランゴールFCに渡され、MFLによる処罰に対して「最高レベルでの正義を求める」助けになるとナジュワン委員長は説明しています。