6月13日のニュース・W杯予選:台湾に勝利もマレーシアは2次予選で敗退決定

6月11日の試合結果をニュースという名目で挙げるのも何ですが、試合後の様々な報道に目を通してから書きたいと思ったのでこのタイミングで、しかも長文になってしまいました。では、まずは試合の結果から紹介します。

6月6日のアウェイマッチ、キルギス戦では1−1で引き分け、D組2位のキルギスとの勝点差3を詰めることができなかたマレーシア。最終節となる第6節でキルギスが敗れて、マレーシアが勝てば勝点では並ぶものの、第5節を終えた段階で得失差はキルギスが6、マレーシアが-2と大きく離されていました。この第6節で台湾を相手に最低でも7点差をつけて勝利し、なおかつ試合が遅れて始まるキルギスが敗れることが、マレーシアがアジア最終予選に進出となります。W杯予選が現在の仕組みになってからは2次予選を突破したことがないマレーシアにとって、悲願の最終予選進出には「奇跡」が必要でした。

試合前の会見でマレーシア代表のキム・パンゴン監督はその「奇跡」を起こす自信はあると語る一方で、出身国である韓国の記者から外国人監督として指揮を取ることの難しさを問われると、高い期待に応えなければならないことがプレッシャーになることを吐露していました。一方、英国人ギャリー・ホワイト台湾代表監督は、キム監督が8−0で台湾を下すとの発言が出ていることを問われると、これを馬鹿げていると一蹴し、今回の予選でマレーシアは台湾を破っているものの、その時のスコアが1−0であったことを強調しました。さらにメディアがその発言を取り上げて、この試合が注目を浴びるのであれば喜ばしいとも述べたホワイト監督は「どうせ試合をするのであれば、20,000人程度の観客ではなく、満員の観衆の前で試合をしたい。」と述べていました。なおマレーシアサッカー協会は公式SNSで、連日、この試合のチケットの売り上げ枚数を報じていましたが、試合前日までのチケット売り上げは、試合会場のブキ・ジャリル国立競技場の収容人数85,500人に対して10,000枚弱という事実をホワイト監督が皮肉ったものでした。

試合当日の先発XIは、1−1で引き分けたキルギス戦からはMFスチュアート・ウィルキン(サバFC)が外れ、代わりにMFサファウィ・ラシド(トレンガヌFC)が入り、より攻撃的な布陣をキム監督は選択しました。一方の台湾も、昨年11月の対戦ではベンチ入りしていなかった、カナダ生まれのFWツァイ・リチン(蔡立靖)ことエミリオ・エステベス(香港1部香港レンジャーズFC)や、スウェーデン生まれのユエ・ミンフェン(岳明峰)ことMFミゲル・サンドバーグらが先発XIに名を連ねています。

最終的には14,731人と発表された観衆が見守る中、試合開始からマレーシアは大量得点を狙って積極的に攻めますが、シュートは放つものの、ゴールを捉えることができないまま時間が進みます。まずは早い時間帯に先制点を挙げて、勢いをつけたいマレーシアでしたが、逆に先制したのは台湾でした。それまでも何度かカウンターで好機を作っていた台湾は、19分にコートジボアール出身のアン・イーエン(安以恩)ことFWアンジュ・クアメが前がかり気味になるマレーシアDF陣の裏に絶妙のパスを出すと、これを受けたユー・ヤオシン(游耀興)が代表デビューから2戦目となったマレーシアDFサフワン・マズランをかわしてゴール!まさかの失点で、ブキ・ジャリル国立競技場全体から大きなため息に包まれます。

25分には右コーナーキックにサファウィ・ラシドが頭で合わせますが、台湾GKパン・ウェンチェ(潘文傑)が反応よくこれをパンチングします。この後もチャンスは作るものの得点に至らないマレーシアが台湾を0−1と追う展開で前半が終了します。

後半に入ってもアキヤ・ラシド(トレンガヌFC )のゴールがオフサイドとなるなど、嫌な雰囲気が漂う中、51分にマレーシアが追いつきます。センターサークル付近でアキヤ・ラシドがボールを奪うと、左サイドのエゼキエル・アグエロ(スリ・パハンFC)へパス。アグエロ選手は中央でフリーとなっていたサファウィ・ラシドヘパスを出すと、サファウィ選手はこれをノートラップでシュート。台湾GKが一旦は止めたものの、こぼれたボールがゴールインして、マレーシアは何とか1−1とします。その後は69分にパウロ・ジョズエのゴールで2−1、ロスタイムの90+6分には代表デビュー2試合のFWアディブ・ラオプが代表初ゴールを決めて3−1としたものの、試合はこのまま終了し、マレーシアのW杯最終予選の進出はほぼ絶望となりました。

そして、この試合後に行われたD組1位のオマーン対2位キルギスの試合は、オマーンが7点差以上をつけて勝利すれば、マレーシアが2位、キルギスが3位となるところでしたが、結局、1-1で終わり、マレーシアの2次予選敗退が決定しました。

FIFAワールドカップ2026アジア2次予選兼AFCアジアカップ2027予選D組第6節
2024年6月11日@ブキ・ジャリル国立競技場(クアラ・ルンプール)
マレーシア 3-1 台湾
⚽️マレーシア:サファウィ・ラシド(分)、パウロ・ジョズエ(分)、アディブ・ラオプ(24分)
⚽️台湾:アディルジョン・アブドゥラフマノフ(38分OG)
🟨マレーシア(2):ノーア・レイン、キム・パンゴン監督
🟨台湾(3):ワン・チェンミン、チェン・ティンヤン、ギャリー・ホワイト監督

この試合のハイライト映像。アストロ・アリーナのYouTubeチャンネルより。

D組のもう1試合は、グループ1位のオマーンと2位キルギスが対戦し、1−1で引き分けています。

FIFAワールドカップ2026アジア2次予選兼AFCアジアカップ2027予選D組第6節
2024年6月11日@スルタン・カーブース・スポーツコンプレックス(マスカット、オマーン)
オマーン 1-1キルギス
⚽️オマーン:アリマルドン・シュクロフ(57分OG)
⚽️キルギス:エルディヤル・ザリプベコフ(20分)
🟨オマーン(0)
🟨キルギス(0)

W杯2026アジア2次予選予選D組順位表(第6節終了)

順位勝点
1オマーン6411112913
2キルギス6321137611
3マレーシア631299010
4台湾6006217-150

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今回の予選を振り返れば、開幕から台湾、キルギスに連勝してスタートしながら、1月のアジアカップでグループステージ敗退の嫌なイメージを引きずったまま対戦したオーマンに2連敗したことで、厳しい状況に追い込まれました。6試合で勝点10という数字は決して悪くはないと思いますが、オマーンに連敗しなければ、最終戦でこのような状況に陥らなかったでしょう。では今後、同じ轍を踏まないためにどうすれば良いのでしょうか。

各地でアジア2次予選が終わり、東南アジアからはタイ、ベトナムといった地域のトップチームが敗退する一方で、インドネシアが唯一のチームとして最終予選進出を決めています。実業家でインドネシア政府国営企業相でもあるエリック・トヒル氏が昨年3月にインドネシアサッカー協会会長に就任して以降は、インドネシアにルーツを持ちヨーロッパでプレーする選手を帰化させる戦略で代表を強化し続けるインドネシア。自身もかつてはセリエAの名門インテル・ミラノを買収し、現在は先日終わったばかりの2023/24シーズンのインドネシア1部で優勝したプルシス・バンドンを所有し、さらにメジャーリーグサッカー(MLS)のDC・ユナイテッドの筆頭株主でもあるトヒル氏の強烈なリーダーシップのもと、着々と東南アジアトップに近づいています。それは昨日行われたW杯2次予選第6節のフィリピン戦でもあからさまで、インドネシアの先発XIの内、国内組はわずか2名となりふり構わない帰化戦略がまさに結果をもたらしています

では、マレーシアもかつての宗主国である英国やその周辺でプレーする、マレーシアにルーツを持つ選手を積極的に帰化させるべきなのか。ちなみに台湾戦のマレーシア先発XIを顔ぶれを見ると、マレーシアで生まれ育った選手はGKアズリ・ガニ、DFサフワン・マズラン、FWアキヤ・ラシド、FWサファウィ・ラシドの4名だけで、残る7名は国内リーグでで5年以上連続でプレーした後にマレーシア国籍を取得したいずれもブラジル出身のFWパウロ・ジョズエとエンドリック・ドス・サントス、そしてDFラヴェル・コービン=オング、DFマシュー・ディヴィーズ、DFドミニク・タン、MFノーア・レイン、MFディオン・コールズの5名はいずれもマレーシアにルーツを持つ国外育ちの選手たちで、インドネシアの強化に繋がった帰化選手たちと基本的には同じです。

しかし、インドネシアで言えば、DFジャスティン・ハブナー(セレッソ大阪)が20歳、フィリピン戦で先発したFWラファエル・ストライク(オランダ2部ADOデン・ハーグ)が21歳、MFネイサン・チョエ・ア・オン(英国2部スウォンジー・シティ)が22歳、MFジェイ・イツェス(イタリア2部ヴェネツィアFC)が24歳と、20代前半の帰化選手が主力にいる一方で、マレーシアはラヴェル・コービン=オングが33歳、マシュー・ディヴィーズが29歳、ディオン・コールズが28歳、ドミニク・タンが27歳と、年齢的には今が旬の帰化選手が主力にいながら、2次予選の壁が破れませんでした。だとすれば帰化選手の「質」の問題なのかも知れません。

最近のSNSを見ていると、前述のインドネシアサッカー協会のエリック・トヒル会長や、タイサッカー協会会長の「マダム・パン」ことヌアンパン・ラムサム氏が、自国にルーツを持つ選手に会いに自身がヨーロッパで出かけたという投稿がされるたびに、国内サッカーファンからは、マレーシアサッカー協会(FAM)やFAM会長は何もしないのか、自分からマレーシア国籍を取得したいと申し出てくる選手を待つだけなのか、という批判や不満も多く目にします。実業家でもあり、自身の財力もあるトヒル氏やマダム・パンと違い、そういったフットワークの軽さや実行力は期待できないFAMのハミディン・アミン会長ですが、それ以上にかつてFAMが主導する形で行っていた帰化選手プログラムの失敗も影響していそうです。

FAMは2021年に代表チーム強化を目的として、マレーシアにはルーツを持たないものの、マレーシア国内で5年以上プレーしたブラジル出身のFWギリェルメ・デ・パウラ、コソボ出身のMFリリドン・クラスニキの帰化支援プログラムを進めていたことがありました。マレーシア国籍を得た両選手でしたが、デ・パウラ選手は12試合(先発5試合)で1ゴール、クラスニキ選手は5試合(先発1試合)で出場時間192分、といずれも代表チームでは思うような結果を残せず、最後はマレーシア人選手以上の成績を残さないなら、マレーシア人選手を使うべきで、両帰化選手は代表には不要との声がサポーターから上がり、これを受けたFAMは帰化支援プログラムは無期限凍結を発表せざるを得なくなりました。そして、FAMは各クラブが外国籍選手の帰化支援を行うことは自由だが、FAMはこれを支援しないことを発表しています。

しかし上でも書いたように当時のFAMが帰化支援したのはマレーシアにルーツを持たない外国籍選手でしたので、全面的に帰化支援を行わない、というのは言わば「羹に懲りて膾を吹く」ようなものです。もちろん、帰化選手を増やすことだけで代表強化の方法ではないので、これに拘る必要はありませんが、だとすればユース育成など年代別代表が少なくとも東南アジアトップ3のタイ、ベトナム、インドネシアと渡り合えるようになる必要があります。

ちなみに台湾戦では、代表戦6試合目の出場となる21歳のハキミ・アジム(KLシティ)、そしてキルギス戦で代表デビューを飾ったばかりの25歳のアディブ・ラオプ(ペナンFC)がビブスを脱ぎ、交代で出場する素振りを見せるとスタジアム全体から歓声が上がり、サファウィ・ラシド、アキヤ・ラシドに代わってピッチに入ると割れんばかりの拍手が起こりましたが、この拍手はキム監督の耳にも入ったはず。またキルギス戦に続き、CBには22歳のサフワン・マズラン(トレンガヌFC)を、MFには21歳のノーア・レイン(スランゴールFC)をフル出場させたキム監督は、次の公式戦となる今年11月の東南アジアサッカー連盟(AFF)選手権「三菱電機カップ」を見据えていたのかも知れません。

またキム・パンゴン代表監督自身の去就も今後は話題になりそうです。昨年末に2年契約を更新し、来年末まで契約が残るキム監督ですが、W杯アジア2次予選で敗退したことで、代表の次の公式戦は11月の三菱電機カップ、その後は来年3月のAFCアジアカップ2027の3次予選と間隔が空きます。台湾戦後の会見では、国内各クラブに対してFIFAデイズより前に選手をリリースするなど協力を求めたいと話し、さらにはアジアカップ2027の3次予選組み合わせ抽選までに、マレーシアのFIFAランキングを上げてポット1に入れるようにしたいと話すなど、今後にも意欲を見せてたキム監督は、去就について聞かれると”I want to stay.”を何度も繰り返していましたが、アジアカップでは未勝利でグループステージ敗退、そしてW杯予選も2次予選の壁を破れなかった現状をFAMがどう判断するのかにも注目です。