アジアカップ2023のグループステージE組の最終第3節が行われ、既にグループステージ敗退が決まっているFIFAランキング130位のマレーシアは同28位の韓国と対戦しています。そして二転三転した試合の最後は15分と長く取られたロスタイムに「執念」のゴールを挙げたマレーシアが引き分けに持ち込み、1980年大会以来43年ぶりの勝点1を挙げています。
母国韓国との対戦となったマレーシア代表のキム・パンゴン監督は、前線の3名は初戦のヨルダン戦と同じファイサル・ハリム(スランゴールFC)、ダレン・ロック(サバFC)、アリフ・アイマン(ジョホール・ダルル・タジムFC)、3バックのDF陣はバーレーン戦と同じシャールル・サアド(ジョホール・ダルル・タジムFC)、ディオン・コールズ(タイ1部ブリーラム・ユナイテッド)、ドミニク・タン(サバFC)を起用しましたが、中盤はここまで2試合に出場していたマシュー・ディヴィーズがベンチ外となり、左からラヴェル・コービン=オング(ジョホール・ダルル・タジムFC)、スチュアート・ウィルキン(サバFC)、そして今大会初出場が初先発となったブレンダン・ガン(スランゴールFC)そして右サイドハーフはダニエル・ティン(サバFC)がディヴィーズ選手に代わって先発しています。一方の韓国はこの試合引き分け以上でベスト16進出が決まっていることから、韓国代表のユルゲン・クリンスマン監督は主力を温存するのではとも言われていましたが、ソン・フンミン(孫興民、トットナム)、イ・ガンイン(李康仁、パリ・サンジェルマン)、キム・ミンジェ(金玟哉、バイエルン)ら主力を起用しています。(以下は両チームの先発XI)

前日のD組の試合の結果、日本が2位となったことで、試合開始前の段階では勝点でヨルダンと並びながら得失差で2位の韓国がE組を首位で突破するとベスト16でいきなり日本との対戦となることから、どの様な試合運びをするのかが注目されましたが、試合は開始から韓国がマレーシアを圧倒する展開となります。15分にはソン選手の強烈なシュートをGKシーハン・ハズミ(ジョホール・ダルル・タジムFC)がなんとか弾いて先制点を許しません。しかしその6分後にはイ・ガンインの左コーナーキックにチョン・ウヨン(鄭優営、シュツットガルト)が頭で合わせてシュートを放ちます。シーハン選手はこれをうまく掻き出した様にも見えましたが、VARが入った結果、これがゴールと認められて韓国が先制します。その後も韓国が攻め続ける展開が続いたものの、マレーシアはなんとか踏みとどまり、前半は韓国1点のリードで終了します。
後半に入ると、前半押し込まれ続けながらも耐えていた選手たちを信用してか、マレーシアのキム監督は今大会初めて後半開始早々に交代カードを切りませんでしたが、これが功を奏します。51分にダレン・ロックがペナルティエリア近くでファン・インボム(黄仁範、レッドスター・ベオグラード)からボールを奪うとそこからアリフ・アイマンへボールが渡ります。アリフ選手のシュートはキム・ミンジェに阻まれたものの、そのこぼれ球を拾ったファイサル・ハリムがペナルティエリア左の角度のないところから反転してシュート!ここでもVARが入ったもののこれがゴールと認められマレーシアが後半開始早々同点に追いつきます。
さらに62分には、左サイドを突破したファイサル・ハリムからゴール前のアリフ・アイマンにクロスを送りますが、そこでソル・ヨンウ(薛永佑、蔚山現代)に倒されてしまいます。サウジアラビアのカレド・アル=トゥライス主審は一旦はノーファウルの判定を下したものの、ここでもVARが入り、ファウルが認められたマレーシアはPKを得ます。アリフ選手自身が蹴ったPKは左に飛んだGKチョ・ヒョヌ(趙賢祐、蔚山現代)と逆の右サイドへ。アリフ選手が代表戦8得点目となるゴールを決めて、マレーシアがついに韓国相手にリードを奪います。さらに66分には再び、このコンビが韓国ゴールに詰め寄ります。センターライン付近からアリフ選手が一気にドリブルで駆け上がり、左サイドのファイサル選手へパス。しかしコースを狙ったファイサル選手のシュートは枠を捉えることができません。
すると再びギアを上げた韓国が猛攻を見せます。75分には右サイドからソン・フンミンがドリブルで持ち込み、追い越してきたイ・ジェソン(李在成、マインツ)に流し、イ選手はこのボールをゴール前へ。これをオ・ヒョンギュ(呉賢揆、セルティック)と競り合いながらドミニク・タンがクリアするなど、ピンチの連続の後、韓国がまず同点に追いつきます。83分にパウロ・ジョズエのチャージで倒れたイ・ガンインがゴール正面やや右寄りでフリーキックを得ると、イ選手自ら蹴ったフリーキックはゴール右上隅へ飛びます。シーハン・ハズミはこれに上手く反応するも、ゴールポストに跳ね返ったボールがシーハン選手に当たってオウンゴールとなり、試合は2-2の振り出しに戻ります。
90分を過ぎ、ロスタイムが15分と残る中、ロスタイムの2分にマレーシアペナルティーエリア内でジュニオール・エルドストールがオ・ヒョンギュと交錯して倒してしまうと、再びVARが入った結果、韓国にPKがあたえられ、これをソン・フンミンが左サイドに決め、わずか10分で2ゴールを許したマレーシアが逆転を許します。
しかしロスタイムはまだ10分以上残っています。韓国がこの1点で守りに入ったと見るや、格上相手に怯まずに同点を狙うマレーシアはロスタイム終了間際の15分、中央のスチュアート・ウィルキンからパウロ・ジョズエへボールが渡ると、ジョズエ選手からのパスはゴール前のロメル・モラレス(KLシティFC)へ。このボール躊躇なく振り抜いたモラレス選手のシュートが韓国ゴール右隅に決まり、文字通り土壇場でマレーシアが再び同点とします。
いずれもKLシティFCでプレーするブラジル出身のジョズエ選手とコロンビア出身のモラレス選手のコンビの活躍で3-3としたままま、試合は終了し、ドラマチックという言葉よりも「執念の」と形容したい同点ゴールでマレーシアが1980年大会以来となる43年ぶりの勝点を挙げています。
初戦からの2連敗でグループステージ敗退が決まっていたマレーシアでしたが、ボール保持率が韓国の81%に対して19%と冗談の様な数字の中、この引き分けでマレーシアサポーターは溜飲を下げ、また日本や韓国など他国のサポーターにはベスト16の組み合わせが目まぐるしく変わる楽しみが提供できたのではないでしょうか。
この敗戦でマレーシアの次の目標はFIFAワールドカップ2026アジア2次予選、3月21日と26日のオマーン戦(21日がアウェイ、26日がホーム)となりました。ケガなどの問題がなければおそらく2、3名を入れ替える程度で代表チームの顔ぶれが大きく変わることはないでしょう。韓国戦を経て成長したマレーシアには、初となるアジア3次予選進出の期待が膨らみます。
アジアカップ2023 グループステージE組第3節
2024年1月25日@アル・ジャヌーブ・スタジアム(アル=ワクラ、カタール)
観衆:30,117人
韓国 3-3 マレーシア韓国:チョン・ウヨン(鄭優営)(21分)、シーハン・ハズミ(83分OG)、ソン・フンミン(孫興民)(90+4分PK)
マレーシア:ファイサル・ハリム(51分)、アリフ・アイマン(62分PK)、ロメル・モラレス(90+15分)
韓国(1):イ・ジェソン(李在成)
マレーシア(0)
E組のもう一試合は、ここまで1勝1敗だったバーレーン(FIFAランキング86位)がヨルダン(同87位)を1-0で下し、E組の1位となっています。
この試合の前には初戦の韓国戦、第2戦のマレーシア戦いずれにも先発していたバーレーンDFハザ・アリがドーピング検査違反の疑いからAFCが活動停止処分を下すなど、逆風の中での勝利でした。
この結果、マレーシアを除く3チームがベスト16へ進出し、バーレーンは日本と、韓国はサウジアラビアと、そしてヨルダンはイラクと対戦することが決定しています。
アジアカップ2023 グループステージE組第3節
2024年1月25日@ハリファ国際スタジアム(ドーハ、カタール)
観衆:39,650人
ヨルダン 0-1 バーレーンバーレーン:アブドゥラー・ユスフ・ヘラル(34分)
ヨルダン(2):サレム・アル=アジャリン、アリ・アルワン
バーレーン(0)

上はこの試合の両チームの先発XI
AFCアジアカップ2023 グループステージE組最終順位(第3節終了)
試 | 勝 | 分 | 負 | 得 | 失 | 差 | 勝点 | ||
1 | バーレーン | 3 | 2 | 0 | 1 | 3 | 3 | 0 | 6 |
2 | 韓国 | 3 | 1 | 2 | 0 | 8 | 6 | 2 | 5 |
3 | ヨルダン | 3 | 1 | 1 | 1 | 6 | 3 | 3 | 4 |
4 | マレーシア | 3 | 0 | 1 | 2 | 3 | 8 | -5 | 1 |