ウィキペディアに「マレーシアサッカー帰化スキャンダル」(原文は英語です)という記事が登場しています。しかも丁寧に英語とマレーシア語の両方が作成されるなど手が込んでいます。現在マレーシアサッカーを揺るがしているヘリテイジ帰化選手の国籍偽装疑惑問題についての資料などもまとめられていて、この問題の概要を理解するには便利な記事となっています。
この国籍偽装疑惑問題についてマレーシアのアンワル・イブラヒム首相もコメントを出しています。現在アフリカ諸国を公式訪問中のアンワル首相は訪問先の南アフリカでの会見の際にこの国籍偽装疑惑問題について問われると、FIFAによるマレーシアサッカー協会(FAM)に対する強い非難は軽視できるものではないと述べ、政府も調査しており、この事件を隠蔽しようとするつもりはないと答えています。さらに多くの人々が直ぐに結果を求めるのは理解できるが、我々(政府)が何も行動していないという批判は当たらず、通常の手続きを経て捜査を進めなければならい」と答えたということです。
またマレーシア政府青年スポーツ省も、FAMに対しては、独立調査委員会の調査終了まで、政府による金銭的支援を一時的に停止することを発表、さらにFAMがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴する場合の費用については、政府からの金銭的支援は行わず、すでに提供済みの1500万リンギ(およそ5億7000万円)の政府資金をこれに流用することも禁じると発言しています。
最新FIFAランキング発表:マレーシアは20年ぶりとなる116位に上昇
11月20日に最新のFIFAランキングが発表され、マレーシアは前回10月の発表から2ランクアップした116位となっています。マレーシアが最後に116位だったのは、2005年11月でしたので、今回は実に20年ぶりの達成となります。
今年4月の時点では131位だったマレーシアは、11月18日に行われたアジア杯2027年大会予選でのネパール戦に勝利したことで、2025年は9試合で8勝1分と無敗で終えています。
なお東南アジアの他国のFIFAランキングは、タイが域内1位で95位(1ランクアップ)、2位がベトナムで111位(1ランクアップ)、3位のマレーシアに続くのは4位インドネシアが122位(変動なし)、5位フィリピンが136位(5ランクアップ)、6位シンガポールが151位(4ランクアップ)、以下ミャンマー163位(変動なし)、カンボジア179位(変動なし)、ラオス187位(1ランクアップ)、ブルネイ189位(4ランクダウン)、東ティモール198位(1ランクダウン)となっています。
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20年ぶりの116位、さらに2位ベトナムとは5ランク差とその背中も見えてきていますが、素直に喜ぶことはできません。今年4月の131位からの大躍進は、国籍偽装疑惑によりFIFAから12ヶ月間の出場停止処分を科されている7名のヘリテイジ帰化選手(マレーシアにルーツを持つ帰化選手)の活躍による部分が大きいからです。ベトナム戦11年ぶりの勝利となった今年6月のアジア杯予選では先制点をジョアン・フィゲレイド(ジョホール・ダルル・タジム)、2点目をロドリゴ・オルガド(コロンビア1部アメリカ・デ・カリと契約解除)が挙げるなど、彼らがいなければ同じ結果とはなっていなかったはずです。AFCは、マレーシアサッカー協会(FAM)がFIFAの裁定についてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴するとしていますが、後述する諸々の状況からFAMが望むような判決が出るとは考えにくく、その判決に基づき7選手が出場した試合結果をAFCが全て無効にする可能性も高いです。その試合で得たFIFAランキングポイントも消失し、マレーシアは一気にランクを下げることになりそうです。
国籍偽装問題:FIFAは文書改ざんに関わったマレーシアサッカー協会職員の発言を公表
ヘリテイジ帰化選手がマレーシアにルーツを持つことを示す証拠となる出生証明書について、マレーシアサッカー協会(FAM)の事務局職員が文書の改ざんを認める発言をしていることが明らかになりました。
国籍偽装疑惑を持たれている7名のヘリテイジ帰化選手は、いずれも祖父母がマレーシアで生まれたことを根拠にマレーシア国籍を取得し、マレーシア代表でのプレーが可能になりましたが、その根拠となったのが祖父母の出生証明書です。7名の祖父母に該当する人物の出生証明がマレーシア国内では見つからなかったことから、FAMはブラジルやアルゼンチン、スペインからその祖父母の出生証明書を取り寄せました。またマレーシア政府国民登録局は、その出生証明書の正当性に審査を行い、7選手にはマレーシア国籍が与えられました。
しかし11月18日にFIFAが裁定の根拠を説明を文書で公表しましたが、その中ではFAM事務局の職員が国民登録局の審査を待ちきれないどこかからの圧力を受けた結果、国外から取り寄せた出生証明書に「調整作業(=改ざん)」を行なったことを認める発言をしていることが公表されています。
FIFAの書類の中では、この出生証明の改ざんについては、現在FAM理事会から無期限の職務停止処分を受けているノー・アズマン事務局長が感知しないところで行われたと、FAMは主張しているということです。(ではなぜFAMはノー・アズマン事務局長を職務停止にしたのか、という疑問は湧きますが。)
またFAMは、7名のヘリテイジ帰化選手はこの出生証明の改ざんについては何も知らなかったとも主張しているということですが、FIFAはFAMと7選手への裁定には何の変更もないとしています。
またFIFAはノー・アズマン事務局長の「FAMの事務局職員が、FIFAに提出する資格審査用ファイルを作成する過程で、出生証明書や関連書類の一部コピーを扱い、形式を整え直したことは認識している」という発言や、「その中には、代理人から提供された証明書の内容が変更されたものも含まれていました。これらの作業は事務的な手続きであり、公的に認証されたコピーを置き換えたり、正式な確認手続きを代替したりする意図は決してなかった」といった発言も公開しています。
なおFAMは、FIFAの規律規定の第22条(文書の偽造および改ざんを扱う条項)は裁量的なものであり、必ずしも協会の責任を自動的に生じさせるものではないと、控訴委員会に対して弁明し、さらにこの不正行為は「協会が許可しておらず、また独立したものであり、組織的なものでもなければ、制度を不正に利用しようとする意図的な試みでもない。またマレーシアのルーツを捏造したり、資格規定を迂回するような計画もなかった」とも主張していました。
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FIFAの規定では、親または祖父母がその国で生まれていれば、選手はその国を代表できることから、FAMは国籍偽装が疑われる7選手について、その祖父母はマレーシア出身であるという文書をFIFAに提出し、FIFAは一旦はこれを認めたため、7選手はアジア杯予選などに出場しました。
その7選手とは、ガブリエル・パルメロ、ファクンド・ガルセス、ロドリゴ・オルガド、イマノル・マチュカ、ジョアン・フィゲイレド、ジョン・イラサバル、エクトル・ヘヴェルです。
しかし、その後のFIFAによる調査では、「選手の祖父母はマレーシア出身」というFAMが提出した文書とは異なり、原本記録から7選手の祖父母全員がマレーシア国外のスペイン、アルゼンチン、ブラジル、オランダ生まれであることを突き止められたことが公表されています。この結果、FIFAがFAMに科した35万スイスフラン(およそ6800万円)の罰金、7選手に科した2,000スイスフランの罰金と、あらゆるサッカー活動から12カ月の出場停止処分が確定しています。
さらにFIFAは、FAMが控訴委員会に対して行なった裁定の控訴を全面的に棄却しさらマレーシア代表は2027年アジア杯予選で試合結果が無効となり、勝点剥奪の可能性があると警告しています。
一方のFAMはFIFAから文書による裁定の根拠の説明を受け取った後、この件をスポーツ仲裁裁判所(CAS)へ持ち込むとしています。
代表チームCEOは自身が「コンサルタント」ではないと主張
本当のことを言っているのは誰なのか。
マレーシア代表チームのCEOを務めるカナダ出身のロブ・フレンド氏は、FIFAの文書の中で自身が「コンサルタント」とされていることについて、これを否定しています。
国籍偽装が疑われている7名のヘリテイジ帰化選手とマレーシアサッカー協会(FAM)への処分について、FIFAはその根拠を詳細に述べた文書を公表していますが、その中でフレンド氏が自信を「自国カナダをベースとし、代表戦の時だけチームに合流する『コンサルタント』」と説明したという記述があり、フレンド氏はこれまで代表チームのCEOとFAMが公表していたことから、マレーシアサッカーファンの間で大きな波紋を広げています。
FIFAによる聴聞会では、自身の役職をマレーシア代表のCEOと述べた、と英字紙ニューストレイツタイムズに説明したフレンド氏は、誤解の原因は自身の代表チームとの関係性を説明した際に法律上の関係を述べたからだと説明にならない説明を述べています。





